銀色のメモリー
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銀ギーは悩んでいた。
これまでのBFOにおいての自分の行動を振り返り、このままでいいのかと。
BFOのサービス開始から遊んできたが……何を血迷ったか何かと暴走しがちなプレイヤーたちのまとめ役を買って出てしまった。それが間違いだったのかもしれない。
いつしか自分には頼りになるリーダー、という肩書がついてしまっていたのだ。女性プレイヤーも増え、彼女たちの相談役みたいなこともしている。
「ただのネット弁慶な女の子だっていうのにね」
単純に、もうすぐ20歳になるから意識の変化でイライラしているだけかもしれない。そう自分に言い聞かせ、鏡に映った自分の姿を覗き込む。
夏イベントの頃に種族変更したが……ヒューマンからフェアリーにしたので身長は10センチ近く低くなっている。元々背の低いほうではあったが、これでは完全に少女としか言いようがない。
「だからもうすぐ20歳なんだってば。私も未練がましいなぁ」
ダンジョン周回にも疲れて、今は宿屋で休んでいた。
クエストの報告と受注で一度ヤシノ島へと訪れていたが、それも数分のことですぐに移動してしまった。見覚えのある姿も見かけたが、しばらく会っていなかったこともあり向こうが自分を覚えているとは思えない。それに、そもそもまともに会話したこともごくわずかだ。
「…………なんか最近、疲れちゃったなぁ」
ゲームも引退かなぁと思う。ただ、結局また自分は帰って来てしまうだろうが。
何事も中途半端で、引っ込み思案で、本当の私はこんな根暗な女の子で――
「銀ギー、大丈夫ー? なんかー、さきさきが面白いクエスト見つけたって言っているんだけどー」
「…………ああ、今行く」
大丈夫。今の私は、妖精剣士『銀ギー』だ。
気持ちを切り替えて、部屋から出る。
心を切り替えていこう。奥底にたまるどろりとした嫌なものを見ないようにし、彼女は仲間たちの下へと向かう――その時、ふと思ってしまった。
ここはゲームだ。だけど、こうして人に愛想を振りまいて生活するのは……リアルと何が違うんだろう?
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【話題の】有名人について語るスレ【あの人】
40.名無しの遊び人
シーズン2になって、新規プレイヤーも増えたからこそあらためて有名人についてまとめておこうと思うんだ
スレを見る人も多いし、そちらに書くけどここでも話し合ってから決めたい
41.名無しの剣士
たしかに、有名人は抑えておいたほうがいいよね
ぶっ飛んだことをする人も多いから、あまり粘着質なプレイヤーが現れないようにする牽制もかねて
42.名無しの盗賊
ここで語る人は大抵自分で何とかしそうだけど、余計なトラブルは防ぎたい
だって俺たちに飛び火したら嫌だもの
43.名無しの魔法剣士
オイw でも気持ちはわかるw
44.名無しの魔法使い
確かに、ここで語っている人たちって大抵真面目に出来るけどあえてアホなことしている人たちだし
45.名無しの戦士
馬のマスクをかぶってアクア王国王城襲撃した村長の話でもする?
46.名無しの剣士
やめてさしあげろw
結局あの人だったから正体考察スレで『ですよねー』のレスで埋め尽くされたんだぞw
47.名無しの探偵
正直、吾輩は最初から彼だろうなとは思っていた
あと、面白そうだからすぐにログアウトしたのか現場にいなかったのをごまかしたが
48.名無しの魔法使い
アンタのせいかw 正体考察が混沌としたのはw
49.名無しの魔導士
でもここ最近おとなしかったよな村長
なんで?
50.名無しの探偵
リアル側の事情だね。11月半ばは若いプレイヤーの多くがログイン頻度が減る。それで察してくれたまえ
51.名無しの剣士
11月……何があったっけ?
52.名無しの魔法使い
あーなるほど、そういう事か
わからない人は別にいいよ、リアルの事情でログインできなかっただけでも間違いではないから
53.名無しの盗賊
深く聞くとマナー違反だしね
ところで、その村長たちだけどさっきまでヤシノ島にいたぞ。ギルドに入ってきたところを見た
54.名無しの剣士
転職でもするのかな?
55.名無しの盗賊
ヤシノ島にきたらまず【サムライ】と【忍者】への転職だから、そうだろうね。それかほとんど入れ替わりでいなくなった妖精剣士さんみたいにクエストのためか
56.名無しの剣士
妖精剣士さんか。いろいろとお世話になったなぁ……今度挨拶しておこうか
57.名無しの魔法使い
あまり話しかけるのもアレだけどね
少し人との会話が苦手なのか、一歩引いているところがあるし
58.名無しの魔導士
サービス開始組で彼女のお世話になったものは多いであろう
自分もその一人。もめごとを起こしていたところを仲裁してもらった
59.名無しの狩人
アチキもクエストを手伝ってもらったわねん
でもー、最近彼女何か悩んでいるみたいなのよん。心配よね
60.名無しのアサシン
前に迷惑かけたこともあるし、力になりたいけど……あまり踏み込むのも悪いかな
61.名無しの探偵
ひとまずは様子見するほうがいいだろう。気にはかけておくよ
62.名無しの剣士
とりあえず本題に戻ろう
新規プレイヤー向けの有名人まとめを作ろうと思うんだが、どういう感じで紹介するべきだろうか?
63.名無しの探偵
プレイヤーネームと通称、あとはどういった人物かを簡潔に書いておけばいいだろう
あまり書きすぎると個人への誹謗中傷ととられかねない
64.名無しの狩人
あとは前置きで用がないのに話しかけるのはNGとでも書いておけばいいわん
基本的に、ゲーム内で有名ってだけで普通に遊んでいるだけだからねん
65.名無しの盗賊
(そう言っている、二人も有名人なんだけど……ボブはいぶかしんだ)
66.名無しの剣士
(コイツ、脳内にッ)
67.名無しの料理人
(ファ○チキください)
68.名無しの踊り子
(ちくわ大明神)
69.名無しの重戦士
(誰だ今の)
70.名無しの魔法剣士
とりあえず小芝居はスルーするぞー
71.名無しの剣士
誤用では? 正しくは茶番では?
72.名無しの盗賊
んもー誤用警察はすぐ御用だーってくるんだからー
73.名無しの遊び人
小芝居でも茶番でもなんでもいいから本題にはいるぞー
で、誰を紹介する?
74.名無しの武闘家
まず、ヒルズ村の面子は入れておこう
75.名無しの剣士
最近加入したギャル子とかいるけど?
76.名無しの盗賊
ギャル子は元々別口で有名だったから大丈夫
というかBFOに現れたギャルたちとかいうスレで語られていたから
77.名無しの料理人
一定数好きな人いそう……
他は、ニー子とゆろんのお嬢様コンビ? なんか最近、ちょくちょく仲良くケンカしている姿が目撃されているけど
78.名無しの釣り人
会話の端々に洒落にならない単語が聞こえるから、誰も近寄らないってアレっすね
ヒートアップしていたらスルー推奨ぐらいは書いておくべきっす
79.名無しの戦士
あとは探偵さん、ピンク色のオネエ様と、初代怪盗さんと、他に誰か有名な人は?
80.名無しの盗賊
それこそ妖精剣士さんだろ
むやみに相談に行かないように、ぐらいは載せてほしいな。初期からいるプレイヤーなら初心者相手に出来る人増えたし、負担かけないほうがいいだろう
81.名無しの踊り子
じゃあ、銀ギーの姐さんはやんわりとだけ書いておくか
他に候補はー?
82.名無しのサモナー
墓場にいる人
83.名無しのネクロマンサー
呼びましたか?
84.名無しの陰陽師
呼んでねぇよw
85.名無しの釣り人
…………よくよく考えたら、有名人スレのテンプレメンバーって基本的にこのスレのこと知っているっすよね
86.名無しの剣士
村長さんも前に書き込んでいたし、公然の秘密みたいなもんだから
つまりモロバレ
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「おうおう、嬢ちゃんどこに目ェつけてんだアアン!?」
「ご、ごめんなさい……」
「謝罪が聞きてぇわけじゃねぇんだよ。どこに目をつけてんだって聞いているんだよ!」
「やめなさい! こんな小さな子に何をしているのよ!」
「アアン? テメェだって小さいじゃねぇかよ」
なんとなく帝国首都を歩いていると、銀ギーは揉め事を見つけた。初心者装備に身を包んだ小さな女の子がガラの悪そうな大男に目を付けられて、酷く怯えていたので仲裁に入ったのはいいが自分の見た目が小さな女の子であることを忘れていたのだ。
(しまったなぁ……最近は私もそれなりに名前が通っているから顔出せばすぐに収まると思っていたけど……見た感じ、この人も初心者っぽいし最近始めたプレイヤーかな? 人が増えるのはいいけど、マナーが悪い人も増えてきたし……)
「なんだよ黙りこんで、テメェから痛い目みたいか!?」
ギャラリーたちも集まって来て、何事だと騒いでいる。もっとも、仲裁に入ったのが銀ギーであることを確認したことで、大男のほうに哀れんだ視線を送っているが。
他に誰か仲裁に入る人はいないのかと周囲を見回してみるものの、誰も反応はしていない。もっとも、これは今まで銀ギーが数々の揉め事を仲裁してきたことを知っていいるからこそであり、ある種の信頼と実績があるからなのだが、今現在の銀ギーはそれをネガティブな意味で受け取った。
「オイコラ、聴いてんのかこのガキ!」
「……ハァ。これでも私、もうすぐ20なんだけど…………言ったところでって感じか。仕方がないなぁ、相手してあげるからかかって来なよ。バトルモード、オン」
大型アプデにて追加された機能の一つで、音声コールを行うことでPVPモード……バトルモードを起動できるようになったのだ。なお、名称変更も行われバトルモードが正式名称となった。
「俺様に挑もうってか? これでも俺様は数々のVR格闘ゲームでツワモノたちを倒してきた猛者なんだぞ。そんな俺様にテメェみたいなおチビちゃんが挑もうってか? ハッハッハ! 片腹痛いぜ!」
「どうせその巨体で相手を怖がらせていただけのド三流が偉そうに……はったりはいいよ。あんたみたいな人、何度も見てきたから。弱そうな相手に目をつけて、そうやって怖がらせて判断能力を鈍らせて汚い手で勝つだけの臆病な人、相手をするだけ無駄ね」
「……テメェ、俺様を本気で怒らせたようだな! 承認してやる! バトルモード、オン!!」
空中に、受理されましたという表示が出現する。二人の体を取り囲むように光の帯が出現し、頭上に逆三角錐のアイコンが表示された。これにより、バトルモード中のプレイヤーと判断される。
バトルモード発動中のプレイヤー同士の攻撃は他のプレイヤーに一切ヒットせず、またギャラリーからの妨害もできない。光の帯がギャラリーをゆっくりと外側へ押し出すのだ。
「お、お姉さん!」
「大丈夫、お姉ちゃん結構強いから」
「その貧弱な見た目で、何が強いんだって?」
「……本当にド三流なのね。五秒でケリつけてあげるから」
その言葉に、大男が青筋を立てて、声を荒げながら突進する。直後に、足から風を噴射させた銀ギーが大男の背後に回り込み、その首をはねた。
使用したのは、【古代のナイフ】だ。クリティカル攻撃と的確に首を狙った攻撃、なおかつ圧倒的なスピードで行われた攻撃は頭に血が上っていた大男に対処できるわけもなくあっさりと決着がついてしまったのだ。
「ヒエッ」
「あーあ。銀ギーさんに喧嘩売るから……」
「それこそ廃人連中ぐらいしか勝てないって。あの人初期から遊んでいるんだぜ」
「……ふぅ、まったく。ゲームなんだから見た目とステータスは関係ないのに。そんなことも分からないなんて、本当にド三流じゃないのよ。もっとレベルを上げてから出直してきなさい」
ギャラリーのあちこちから、いやその戦い方はジャイアントキリングも可能なやり方なんですが、という声が上がっているが、銀ギーの耳には入っていなかった。
実際、以前に暗黒四天王が使っていた方法である。一定以上のスピードと高いクリティカル率、そして正確に首を狙うことで即死を狙うやり方だ。銀ギーも襲われたことがあるので、有用性を理解したのか彼女も習得してしまっていた。
ひとまず、銀ギーは少女を安心させようと近寄ったが……
「ヒッ!?」
「……え?」
「いや、そりゃアサシンよりもアサシンな攻撃見せられたら怯えますって。一撃で首ちょんぱですよ。普通の女の子なら怖がりますよって話です」
「俺だってこえーもん。あの技練習したけど難しんだよなぁ……あと、ストレスぶつけるような戦い方でしたけど、姐さん何かあったんですか? 姐さん?」
「…………ダメだ。女の子に怖がられたのがショックだったのか、白目剥いている」
銀ギー、花も恥じらう19歳(もうすぐ20歳)の乙女。
周りの認識と、本人の思考のズレによって悩まされる冬のある日の出来事であった。
銀ギーさんは誕生日を設定した時点で、クリスマス編で掘り下げるって決めていたお方です。
キャラ設定が出来上がったのは実は二番目。
あと、シリアスっぽい感じだけど中盤までぐらいかな。キャラの掘り下げをしたいので途中まではある程度真面目な話などを予定しております。
伏字を明かすころにはコメディ路線に戻ります。




