冬のヒルズ村
12月も半ば、ようやく落ち着いてログインができるようになった。
他にもいろいろと用事があったのでなかなか時間が作れなかったが、これで心置きなく遊べるぞー。そして、前回の失敗も踏まえてすでにアプデに備えてダウンロードだけはしておいたのだ。
「しかしログインしていない期間中に大型アプデが行われるとは……しかもバージョン2のマジなヤツ」
現行のバージョンが2.12だ。
いつ間にか行われた大型アップデートで様々な部分が変化していることだろう。公式サイトからも新要素がたくさん読み取れたが……めぼしいモノしかチェックしていない。
ストーリーの追加や上級職追加、レベルキャップが解放されて上限が100になったことなども大きな変化と言えるが、一番の大きな変化は新システムの追加と高難易度ダンジョンの追加だろう。
まず新システム『シール』だ。武器に新たな効果を付与するアイテムで、その名の通り、シールを貼ることになる。大半はそこまで強力な性能ではないのだが、レアなものだと状態異常付与とかもあるらしい。
そして新ダンジョンだが……ついに来たのだ。そう、魔王城が。
前々からそれっぽい話がNPCから出ていたり、公式ブログでもにおわせるような発言はあったが、いよいよ実装された形だ。
ギルドのボードに専用のクエストが貼られるので、それを受注することで教会からワープ可能になる、直接出向かなくてもいい形のダンジョンになる。なお、マップ上には最南端に出現した。前にらったんさんと共に幽霊船と戦った海域の近くだった……たしかにあのあたりは何もなかったな。追加しやすかったのだろう。
「そんなわけで、とりあえずログイン!」
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WELCOME!
ボトムフラッシュオンラインVERSION2へようこそ。
世界に取り残された大陸『イド』で仲間たちと共に冒険を繰り広げよう。
たくさんの職業と、数多くのスキル。様々な装備品の数々。その組み合わせは無限大だ!
ただいま大型アップデート記念のキャンペーンも実施中。詳しくは、公式サイトかゲーム内のニュースページから確認してくれ! それじゃあ、君の冒険に幸あらんことを!
「……今の、なに?」
「お、村長。久しぶりじゃの」
「うん、ライオン丸さん久しぶり……って、そうじゃなくて、今の何よ」
「今のって言われても何が何だかわからないんじゃが」
「ログインしてきたら目の前にようこそとか、やたらポップな情報が流れてきたんだが」
「あー……あれか。大型アプデで、ログイン時に歓迎のあいさつというかオープニングが入るようになったんじゃよ」
「えぇ……今更?」
「今更じゃけど、新規プレイヤーもかなり増えたからの。全体的に遊びやすくするために調整がたくさん入ったんじゃよ。正直、ワシも含めて学生組はまだどこが変わったか理解しきれていない状況じゃ」
「思った以上に変わっているのか……」
「しかしちょうどよかったの。そのあたりのレクチャーを今からめっちゃ色々さんがしてくれるところじゃ。村長も聞くといい」
「……テスト期間が終わって、他の要件も片付いたと思ったら今度はゲーム内で青空教室か」
村の広場ではどこから持ってきたのか、黒板を使って授業をはじめますと言わんばかりのめっちゃ色々さんがいる。そして、すでにヒルズ村学生組(女性陣)も体育座りでスタンバイしていた。
「あ、お兄ちゃんがきたです」
「村長。そろそろ来る頃だと思っていましたよ。さあ、君たちがいない間に何が変わったのか。どんな変化が起きて、ここが遊びやすくなった、この要素が無くなったなど説明させていただきます」
「……それはいいんだけど、なんでめっちゃ色々さんはスーツ着こんでいるの? っていうかどこで用意したんだよアレ」
しかもキッチリメガネに七三分けってどこのサラリーマン?
「ディントンさん謹製じゃ」
「あ、やっぱり?」
「そこ、授業中に私語は厳禁ですよ」
「…………なんで火がついているんだよオイ」
「らったんさんが結局テスト期間中もログインしておっての、色々さんの教師モードに火がついたそうじゃ」
「まったくいい迷惑だニャ」
「てへぺろ」
「てへぺろじゃないですよ……」
このギャルっ子は……仕方がない。僕もめっちゃ色々さんに聞くのが一番手っ取り早いと思っていたし、ありがたいことだと思ってここはおとなしくしていよう。
ライオン丸さんと共に近くに座り、授業を受ける。
「それでは始めますかね。ではまずは……フルダイブシステムについての基本的な概要と、その原理についてを――」
「先生、それ話が長くなりそうなのでまた今度にしてください。個人的に気にはなるけど、たぶん今その話しても理解できない人がいる」
「んゆー? 誰の事?」
「アンタだアンタ」
「……正直アリスも理解できるか怪しいんですけど」
「アリスちゃんは仕方がニャいニャ」
「嬢ちゃんの年齢ならおかしいことじゃないじゃろ。実年齢聞いたことはないが、最年少じゃろうし」
「確かにそうですけどね」
というわけで、その専門的な感じの話はまたの機会に。
まずはアプデで何が変わったかとかそのあたりだけにしてほしいです。
「ほらー、あんまり突っ込んだ内容は厳しいって言ったじゃないのよ」
「あ、みょーんさんもいたんだ」
「ええ、いたわよ。ついでに言うならディントンも来ているけどずっと工房に籠っているわ。サンタコスをどうにかして作れないかって奮闘中」
「? え、作れないの?」
「イベント品か課金アイテムなんでしょうね。プレイヤーメイドではそれっぽいデザインが使えないようになっているのに最近気が付いて、どうにかして潜り抜けようと悪戦苦闘中よ」
「へぇ……」
「今のところ、サンタ水着は作れたから最悪それ使うって言っていたわ。ワタシとしてはぜひとも頑張ってもらいたいところよ。どうせ着せられるなら少しでもまともなのをお願いしたいし」
ディントンさん……何をしているのか。
「ワシとしては水着でも構わんぞ」
「アタイもだニャ」
「あーしも別に可愛ければなんでもいいよー」
「こらこら、話が脱線し過ぎですよ」
最初に踏み込み過ぎた話題にしたのは貴方です、と言ってやりたい。
それを口に出すと余計に脱線しそうなので飲み込んだが。
「さてと、それでは大型アプデで変わった変更点についてですね。魔王城や新職業、新スキルなどの追加要素については別にいいでしょう。システム的には影響はないですし、どうせすべての職業とスキルを把握しているわけでもないですから」
「魔王城は気になっているんだけど、そこもスルー?」
「はい。最低でも基礎、職業共にレベル80は無いと厳しいダンジョンですから。私も行きましたが瞬殺でしたよ」
「へぇ……じゃあ後回しでもいいか」
期間限定ではなく常設の高難易度ダンジョンなので別に後々でも構わないだろう。最速攻略目指しているわけでもないし。
それにいっそのことレベル100目指してもいいかもしれない。
「むしろ、アレはレベル100になった人向けのエンドコンテンツな気がしますね」
「正しくエンドコンテンツなのか」
「ええ――それは置いておいて、まずは『シールシステム』についてですね」
「それ、調べたけどよくわからニャかったんだけどニャ」
「現物があるのでみせましょう。まず、この杖をメニュー画面から操作します」
めっちゃ色々さんがウィンドウを可視化して、僕らにわかりやすく見せてくれる。
今現在表示されているのは装備スロットの画面だ。ここまでは見慣れたものだが、装備アイテムにくっついているスロットが一つ増えていた。
「奥義スキルスロットのほかにスロットが増えたのか」
「ええ。ここに『シールアイテム』を装備することで、装備に追加効果を与えます。私が持っているのはそこまで強力なものではないですが――これですね」
ウィンドウに表示されたのは星型のシール。それを装備スロットに入れると、今度は空中に半透明の星形のシールが出現した。
「そして好きな場所に張り付けることで完了です。とりあえず適当に柄の部分にでも張っておきますかね……ちなみに、このシールは魔力値+1の効果があります」
「結構しょっぱいんだね……」
「ええ。注意点は剥がすと消滅するところと、古代兵器に貼ることはできません」
「半使い捨てか……さては課金アイテムにあるな?」
「ありますよー。まあ、さすがにぶっ壊れ性能はないですが」
「シール買ってねゲームはさすがにマズイでしょ」
「そうじゃな。製作プレイヤーの立つ瀬もなくなるからの」
「あくまでも、ちょっと痒いところに手が届きますよがコンセプトみたいですね。とりあえず、アプデ後の初回ログイン時にシールセットが貰えますのであとでプレゼントボックスを確認するといいですよ」
「そのあたりは適当に見てみるよ」
効果が低いのなら適当に使いつぶしてもいいかな。効果が高いのを手に入れたら悩みそうだ。
「それでは次の授業に入ります」
「メガネクイッってするポーズ様になっているね」
「あれはリアルでもやっておるな」
「そこー、私語は慎みなさい」
今更な気もする。
とりあえず、次の話は……トドメ仕様変更?
「どういうこと?」
「新規プレイヤーが増えたからか、はたまた今後のアプデに関しての前段階なのか。今までトドメを刺したプレイヤーに確定ドロップがあったじゃないですか」
「うん、あったね。【古代のアックス】とかがそうだったけど」
「それが無くなります」
「なん、だと」
「え、大丈夫なのか? 有能なアイテムもあったじゃろ? 大半はレアドロしないプレイヤーへの救済じゃったが」
「ああすいません。語弊がありましたね。そうではなく、今までトドメを刺したプレイヤーの確定ドロップだったのが、戦闘に参加したプレイヤー全員にドロップが入るようになったのです」
ということは、実質上方修正か。
名称もキルボーナスに変わるが、名前などあってないようなものだろう。確定ドロップとしか呼ばれなさそうだ。
「なんでまたそんなことに……時間短縮にはなるだろうけど」
「今まで全員分欲しかったら周回必須だったからニャ。まあ、トドメ刺したときに良いアイテムが出るボスニャんてあんまりいニャかったけど」
「ですね……」
「古代兵器系は使えるけど――あ、ダメだ。修復強化必要だからすぐに使えるわけじゃないんだった」
「前にそのあたり、ポポさんと意見交換したのですけど……おそらく今後、より時間がかかるダンジョンやコンテンツが増えるのではないか、とおっしゃってました」
「つまり、今までは周回前提だったけどこれからは1回のクエストやダンジョン攻略の密度が上がるってことね。その分、ドロップも良くなりそうだけど……」
「おそらくは、高レベル前提のコンテンツが増えるのでしょう。あるいは、いわゆるレベル100からが本番系のものになるといったところかと」
そのあたりは実際に今後のアップデートが行われないとわからないことだが、大型アプデで追加された魔王城は高難易度コンテンツらしいし、可能性は高そうだ。
ちなみに、他にも高難易度コンテンツが実装されている。なんと、古代遺跡にハードモードが追加されたんだと。しばらくは行くつもりは無いけどね。
「あ、一つ気になったんだけど……ダンジョンボスはともかくフィールドボスは横入りもドロップするんじゃないの?」
「それは大丈夫です。戦闘参加時間など、各種データからそういった横入り対策はとられているので」
「たまーにそういうスゴイところあるよね、このゲーム」
「開発ポリシーっていうか、前にインタビューで言っていた事だけど、NPCを一人一人精密に動かすとサーバーへの負荷がヤバい上に、お金が湯水のごとく消えるからできないけど、それ以外のできる部分は常に進化させるって」
「へぇ……」
「常に遊びやすく、を求めるのはMMOについて回るものですけどね。そうそう、遊びやすくなると言えばファストトラベルのポイントが増えましたよ。各地に女神像が設置されたので、そこもファストトラベルに使えるようになりました」
「使えるのは女神像なんだ」
「今までの三柱の神様とは異なるらしいですがね」
……ふと、アリスちゃんのほうを見る。さて、どの神様の像を作られたのか。
アリスちゃんも察しているのか、ちょっとげんなりしていた。
「ちなみにアリスさんに似てはいませんでしたよ」
「似ていてたまるかです」
「ジョークで開発者の一人とか、そういう可能性はあるかニャ?」
「やりそうじゃけどな」
「たしかに」
それはまたあとで確認しておこう。
他にはなにかめぼしい変更点は無いのだろうか?
「あとは、ボスモンスターなどの追加……は、そのうち出会うからいいでしょう。レベルを上げやすくなったことや、金策クエストの追加など遊びやすくなった話……あとは装備強化が若干変わったぐらいですかね」
「それ、ワシ的に一番大事なんじゃが」
「とはいっても、強化画面がわかりやすくなった程度ですよ。派生強化のチャートも見やすくなったりなどですね」
「それめっちゃ重要じゃから」
「おお、本当だ。強化しやすい」
「です」
「でもパンチが弱いニャ」
「いやいや、これかなり重要じゃからな。強化マラソンがしやすくなったんじゃぞ」
そういえばライオン丸さんって普段どんなプレイなんだろうか……ダンジョン攻略以外だと黙々とアイテム作っている場面ぐらいしか記憶に残っていないが、他には何かやっているのか?
と、気にはなったがそこでみょーんさんが爆弾を落とした。
「パンチがある話なら、一つあるわよ。モンスターのAIが強化されて、行動パターンが追加されたボスが増えたって」
「え?」
「もっとも、ハードモード限定だけどね。ただ、今後今までよりも強力なモンスターが増えるってことは間違いないわよ」
「今まで見たいに、行動パターンをよんでハメ技使うのも難しくなりそうですね」
「そうね。けっこうランダム性も高くなるらしいし」
「…………」
「お兄ちゃん?」
「い、今までの完封戦法が使えない、だと」
「白目向いちゃっているです……」
まずはこまごまとした話や、クリスマスイベントに向けた前フリを続けてから本題に入る予定。
章タイトルで出オチになってしまいますので、どなたの話になるかだけわかりそうな部分をのこして伏字で。
問題の場面にたどり着いたら伏字を明かします。




