古代遺跡チャレンジ(ソロ)
前話はいつもと違う時間に投稿しましたので、まだ読んでいない方は前話もどうぞ。
アリスちゃんとらむらむさんとの周回から数日後、そろそろ高速機動やスキル構成にも満足のいく状態になったので、いよいよ古代遺跡に挑もうと思う。
いっそのこと僕も【遊び人】にして即死狙おうかと思ったりもしたが……さすがにやめておいた。周回での終盤、らむらむさんが奥義スキルを覚えたのだが、これがまた凶悪な性能を誇っていた。その名も『クリティカル・ワン』どんな武器にもセット可能で、使用時に最大MPの5割を消費しダイス判定が行われる。その際に最小の目が出ればターゲットした相手を即死させるというものなのだが……【遊び人】って職業レベルが上がれば上がるほど幸運値が跳ね上がっていき、奥義を覚えるころには上がりまくった幸運値の影響で最小の目が逆に出にくくなるという仕様になっている。
そのため、通常スキルは職業レベルが上がれば上がるほど良い効果が出やすくなる。ただし、追加効果の発生もダイス判定が行われているのだが、そちらは出目が小さいほうがいい効果のためレベルが上がるほど追加効果が発生しづらくなっていた。
「さすがに追加効果まで出やすくなったらぶっ壊れ性能だけど」
面白そうな職業ではあったけど、さすがにレベル上げが面倒だよなぁと思い直し、現在は普通に【サモナー】にして古代遺跡を踏破中である。
まだ侵入したあたりなので、出てくる敵もそこまで凶悪な性能ではない。今回の装備は防具はそれほど変えていないが、アクセサリーで被クリティカル率を下げるものをつけている。
武器はデッキブラシにシーラカンスという名のビット兵器。ビット兵器というよりは隣にふよふよ浮いて自動で射撃してくれるだけの存在だが。あと、ペットのミナトも出しておいた。自動アイテム使用スロットにはMP回復のためのアイテムを装填してある。これで、MP切れにも対応可能だ。
「がーお」
「ソロ攻略用フル装備、ここに極まれり――欲を言えば、奥義スキルが欲しかった」
正直極まっていないなとは思う。いや、まだレベル上限に達していないし装備ももっと強化できるだろうから極まれりって言えないけど、雰囲気的に言いたかっただけだし。
と、誰に言い訳しているのかもわからないが、そんなわけで古代遺跡の攻略である。ちなみに、少し前のアプデでマップ名が変更されて『古代遺跡・水』になった。他の古代遺跡だと火山にあるものが『古代遺跡・火』でエルフの森にあるものが『古代遺跡・森』だ。
元々地下でつながっているって設定なんだけど、さすがに分かり難かったのか場所ごとに名前がついたわけである。
「がおがお!」
「お、敵だな」
あと、ソロ攻略時はペットが便利すぎる。敵が出現する際に警告してくれるし、アイテムも使ってくれるし。パーティープレイの時にも使えばいい気もするんだけど……バランス調整の都合なのかアイテム使用頻度が落ちるのだ。あと、餌の節約のため。
出しっぱなしだと空腹度を消費し続けるので、使わないときはインベントリに仕舞っているんだけど……ネトゲのペットって基本的にサポートアイテムだよなぁ…………
少し遠い目をしながらミナトを見ていると、警告通りに敵が出現した。出てきたのは、腕をガトリング砲にしたタイプのゴーレムが3体現れた……こいつら攻撃範囲と攻撃速度と攻撃力が高くて嫌なんだよなぁ――って全部盛りじゃねーかよ。
奴らは腕の砲身を回転させて、こちらを狙っている。
「こいつらこそバランス崩れているだろうが!」
魔法で泡を発生させ、ブラシの先の四角い部分に足を載せる。そのまま泡で滑ることで前に高速で進む。これぞ、練習の末に編み出したセグ○ェイ走法!
「ブラシの角度でカーブも自由自在! 技法的な難易度がアホみたいに高かったせいで、転びまくったけどね!」
誰も見てはいないが、叫びながら多角形コーナリングでゴーレムたちの背後をとる。こいつらの弱点はまず攻撃開始時にチャージを必要とすること。また、固定砲台みたいなもので、一度照準をつけるとそのまま動かない。
出現時に一定距離があるためどこかに隠れるか、遠距離攻撃をして先手を打つか、盾で防御した場合はどうなるかは知らない。あとは今僕がやっているように背後に回るか。背後に回る場合は高い機動力が必要なので難しいのだが……
「それもこの移動方法ならスピードと小回りを両立できるから容易に背後をとれるってわけ」
らったんさんと幽霊船を襲撃したときに気が付いた、泡の特性。プレイヤーを含めてよく滑る特性。ゆろんさんと出会ったとき、彼女から逃げる際に自分も転びそうになったことで使用者にも滑りやすいという特性が適用されることに気が付いた。
その後、ちまちまと練習し続けてようやくものにできたわけだ。あとは、オートマタ相手にどこまで通用するか。
「ひとまずはこいつらを片付けないとね。連続召喚!」
マーメイド、シーモンキー、ジャックランタンを召喚する。
シーラカンスと合わせて、一斉掃射にてゴーレムたちを消し飛ばした。この様子なら案外あっさりと攻略できるのではないだろうか?
召喚獣たちを出したまま床の色が変わる場所まで突き進み、再び敵が出現する。今度は一輪車型に人型の上半身を乗せたようなゴーレムが5体。機動力があるが、こいつらはそれほど強くないのであっさりと撃破。その次は懐かしの『鋼の獅子王』だったわけだが……
「いそいで装備変えて、ガントレットで殴りつければ何とかなるもんなんだなぁ」
「がお」
さすがに今までに苦汁を舐めさせられまくった相手だけに行動パターンも分かっていたし。あと、アプデによる弱体化で前よりは楽に倒せるようになったから。
とにかく、これで今まで入れなかった場所よりも更に奥地へ行ける。しかし、ガントレットはエネルギー切れか……回復手段はあるが、道中の敵よりもボス戦のために温存しておいたほうがいいだろう。
道中迷うといけないのでマップを開いて現在地を確認しないと……今のところは大丈夫か。今まで踏破したことのある場所だから迷わないし。ただ、これ以上先はまだ行ったことのない場所もあるので道に迷う可能性もある。なので、マップを出しながら進むことに。敵がいない場所はダッシュで駆け抜け、敵が出てくれば泡を出して滑って進む。
ダンジョン内でも自転車などの乗り物が使えればよかったのだが……乗り物アプデの際にダンジョン内では全部使えなくなったのだ。システム面の都合とかバランス調整とかあるのは分かるが、使えたら移動方法に悩まなくても済んだかもなぁ。
と、そこで再び床の色が変わる地点までやってきて――いやーなあいつらが出現した。オートマタ、その数何と10体。
「って多すぎるだろ!?」
「がおがおがおがお!」
「分かってるから! 危険なの分かっているから!」
ミナトが警告を発する。その間にもオートマタ達の細長く、尖った腕が僕の頭部を狙って攻撃を仕掛けてくる。泡を出して高速で動き回り、避けていくが……っていうかこいつらを攻略する方法ってなにかあるのか? バリア系とかそのあたり? もしくはなにか耐性系の装備を揃えるんだろうが……頭部狙いの攻撃ってことは、被クリティカル率低下を高めて来ようとかそういう類かもしれない。頭部にクリティカルで即死だし。なお、ボスは除く。
「とりあえず大技、フルバースト!」
召喚獣の一斉攻撃スキル。わかりやすく僕はフルバーストって音声ワードに対応するように設定してある。召喚中の召喚獣が同時に攻撃することで威力を高めた一撃を発射するという強力なスキルだが、消費MPも多い。属性の組み合わせ次第で威力が増減するけど……水2つに火が1つ。同属性でそろえるか、三つの属性を組み合わせて相乗効果を高めたほうが威力が高いので、ちょっと微妙な組み合わせなんだけど……もう一体召喚獣が欲しい所だ。できれば水属性……もしくは火属性以外。組み合わせ的に同属性3つか全部違う属性のほうが使い勝手がいい。
しかし……倒せたのは3体か。やっぱり組み合わせがなぁ……微妙なんだよなぁ。
「悩んでいる間にも待ってはくれないしね」
「がおがおがおがお!」
「だからうるさいって」
オートマタ達は攻撃を受けてもなお僕の頭を串刺しにしようと攻撃してくる。それを身をひねることで躱し、泡を出して滑ることで距離をとる。
正直な話、全力で逃げるのもありだが……まあ、ここは倒しておこう。新開発しておいた爆弾を投げつけ、オートマタ達を吹き飛ばす。威力はそこまでではないが、凶悪な追加効果があるのだ。
爆撃を喰らったオートマタ達は先ほどよりも動きが鈍くなっている。よし、効いた。これは毒効果のある爆弾から派生した移動速度にデバフがかかる爆弾である。
「機械相手に毒が効くとはこれいかに……」
「がう?」
「……いつもならここでツッコミがはいるからなぁ…………なんか、寂しい」
@@@
結局危なげなくオートマタを処理し、その後も出てくる敵は倒せそうなら倒し、無理なら泡で滑って逃げ切ることで難なく先へと進むことができた。
道中袋小路もあれば、宝箱に巡り合ってミミックに警戒しつつもお宝を入手したりなどいろいろとあったが……ツッコミがないのが思ったよりもつらい。
「……1人は寂しぃよぉ」
「がーお」
そしていよいよやってきた巨大な扉の前。
ついに古代遺跡のボスと対面する時が来たか……ここまで長かった。最初に消し飛ばされてから半年以上、実に長かった。
「それも、今日で終わらせる!」
「がお!」
一人なのでテンションを上げないとやっていられない……いや、元々高速移動含めてソロ攻略のための準備しかしていなかったから今回はソロなんだけど。
装備もチェックを終了し、ガントレットのエネルギーも回復済み。シーラカンスビットは威力が低いためボス戦には向かないのでインベントリに戻してある。
「さてと……頼もう!」
まるで道場破り気分でボス部屋に突入した。
中は他のボス部屋のように円形のフィールドだが……天井は太いコードのようなもので覆い隠されていた。そして、中央にその全てが接続されている。丸い装置が存在しており、その更に中央――半透明の球体がはまっており、淡い輝きで点滅している。
「……なんだ、あれ?」
「が、お――がおがおがおがおが!!」
「うおっ!? ど、どうしたんだ?」
ミナトが今までにない警告を発する。道中の敵や、獅子王とは比べ物にならない警告――どうやら、ボスは僕が想像している以上に厄介な存在らしい。
天井の球体の点滅が早くなり、ゆっくりと下へと降りてきた。そして、光が一層強くなり部屋を覆いつくす。
「うぉまぶしっ」
腕で目を覆い、少し後ずさる。
やがて目が慣れてきて、部屋の中央に再び目を向けると鈍色の巨人が僕を見ていた――単眼で、身長は4メートルぐらい。腕が巨大で、がっしりとした体をしたゴーレムのような見た目のボス。
だが、その体は今まで集めた古代兵器によく似ていた。体の各部に光るラインが入っており、指先からは光で出来た爪が生えている。
出てきたモンスター名は『古代の守護者DF003』という今までにないタイプの物だった。古代遺跡に出てくる敵もアルファベットなどが使われてはいたが、型番的なものがついているのは初めてである。
肩に003って書いてあるし……もしかして何かクエストを受けていたらカバーストーリー的なものも分かったのだろうか? 今度どこかの国の図書館とかに行ってみようか。
それはともかくいよいよボス戦が始まる。
「さーて、どこまでやれるかな」




