夜空にきらめく星々よ
ベヒーモス編、完
あと、感想での質問があったのでここで
キャラクリに関してですが、実際の体をベースに種族ごとに調整が入ったアバターになります
そこからさらにいくらか調整は可能ですが、大幅には変えられないという設定です
そのあたりの詳しい話は炭鉱から出た後で展開していく予定となっています
「へぇ、魂の状態でも会話ってできるんですね」
「どうせ胃袋の中じゃ復活できませんし、さっさとリスポーンしちゃいます?」
「うーん……いや、このまま胃袋の中を観察するのもありかと」
「ええぇ」
ただいま絶賛ベヒーモスの腹の中である。いや、魂の状態でその場に残るかと思ったらどういう判定なのか腹の中に入ったままになったのだ。
よくよく考えれば、あのサムライも食われたあと魂は残らなかったな。
「農家さんは食われた連中の魂がその場に残ったかどうか見ましたか?」
「…………そういえば、見てませんね」
となると、他の連中も胃袋の中でとどまっていたのだろう。で、どうにもならないからすぐにリスポーンしたということになるわけだが……
「つまりどういうことですか?」
「胃袋も床とか壁みたいな判定があるってことですよね」
緑色の格好の人が上に吹き飛ばされて見えない天井にぶつかって死んだように、あくまでもこれはゲームなのだ。現実ではなく、ちゃんとプログラムの上に成り立っている世界だ。
胃袋の中にそういった判定があるのならば、故意にしろ偶然にしろ理由がある。そして故意であろうが偶然であろうが、ここに物理的な判定が存在するならば一つ面白い策を思いついた。
「フハハハハハ」
「うわぁ、悪い笑いしていますー」
「残存アイテムを確認して――よし、いけるな」
「何をするつもりなんですかねぇ」
「んー、汚ねぇ花火?」
「あっ(察し)」
@@@
「フハハハハハ! これぞ俊敏値を活かした必殺殺法、『爆殺ピンポンダッシュ』だ!」
「まず必殺と殺法でかぶっている――いや、爆殺で更に三重にかぶっていることにつっこんでおくわよ」
「なんであんな外道な戦法をとれるんだ」
「爆発物オンリーで倒すと経験値が入らなかったバグの恨みぃいいいいい!」
「まだ根に持っていたのそれ!?」
またしてもお詫びがガチャチケなうえ、ペットの餌だった僕の悲しみの爆破戦法だ!
奴の口の中に爆弾を放り込んで離脱し、奴のモーションが遠距離攻撃の判定にならないギリギリのラインで待ち構えて、近づいてきたところに再び爆弾を放り込む作戦よ。
しかも運のいいことに、胃袋も弱点判定らしい。爆発ダメージが予想よりも多い!
「この戦法に死角なし!」
「問題だらけよ! いくら戦線がダメムードでやる気下がっていたからってやっていいことと悪いことがあるのよッ」
「じゃあいい加減攻撃に参加してくれませんかね!? 円の動きで周りに被害が及ばないようにタゲとり続けている身にもなってくださいよッ! こっちからも見えてんですからね――そこのサムライとくノ一とかッ! なんで座り込んで談笑してんだよ!」
「そうは言っても某、もう二回リスポーンしたでござるよ」
「拙者も、食べられるのはちょっと……」
「流石に食べられたら強制リスポーンはなぁ」
別に食べられたからって強制リスポーンするわけではないが。まあ、復活してもすぐ死ぬから意味ないのは確かだけど。
「わ、私は加勢するぞ!」
「泥団子投げ飛ばすぐらいしかやることないですけど、私もー」
女騎士さんと農家さんは加勢してくれるが、かなり焼け石に水である。まあ、ツッコミを入れながらも魔女さんとかは普通に攻撃し続けてくれていたが。
「とにかく、そうやってタゲとり続ければゆっくり削れるじゃろ」
「それがそうともいかないんだよねぇ……」
僕が苦い口調でそう言うと、周囲のみんながえ゛、と嫌な声を漏らした。
「いやぁ……投擲できる爆発物、もうそろそろ在庫が切れるんだわ」
「――――総員、戦闘準備!」
「はいはい、休憩は終わりだからさっさと立ち上がりなさいねー」
慌ただしくみんなが武器を構えて戦闘準備に入る。というかせめて遠距離職はポーズだけでも武器を構えていてほしかった……なんでみんなして僕一人に負担をかけるのか。
というか僕らグダグダすぎでは?
「グダグダなのは今更でしょ!」
「ごもっともで!」
というわけで、最後に目くらましになるかとダメもとで泥球を連射して離脱する――ってしまった。距離をとり過ぎた。
「遠距離攻撃来るぞ!」
奴が咆哮をし、巨大な空気の塊が降り注ぐ。流石にかわしきれなかったようで、僕を含めた近くにいたプレイヤーのHPが一気に消し飛んだ。
そのため、タゲが次のプレイヤーに移る。
「――――私かッ」
女騎士さんに移ったか。僕と違って、防御力の高い装備品だ。前線級のレベルだし、少しは持ちこたえるだろう。
次の手を考えないと……ベヒーモスの残りHPは3割を切った。残り時間もあと15分くらい…………消耗具合から考えても、ギリギリいけるかどうか。
「っと復活!」
「無茶するわね……で、勝算はあるの?」
「うーん…………そうだ、怪盗さんこっちに来てくれー!」
大声で呼びかけると、怪盗さんがこちらにやってくる。ベヒーモスの方はまだ離れているし、こちらまで攻撃は来ないだろう。向こうの人たちにもうしばらく頑張ってもらおう。
「炭鉱夫さん、いきなり呼びつけて……なにか勝算を?」
「うん。まず確認だけど、怪盗さんは高いところまでジャンプできるんだよね」
「ああできるが……ただ、三角飛びスキルやオーガの筋力値で直線ブーストをかけるスキルなどを併用したものだから、この場所だと使いづらい」
「筋力値のブースト――それで十分だ」
まず、飛距離は稼げそうだ。次にスキル構成――ドリルスキルと組み合わせ出来るものから、用意しておく。使わないだろうけど取得できるだけのスキルスクロールをかき集めておいて良かった。狭い洞窟内では全然役に立たなかったが、遮蔽物の無いここでなら使える。第一、的がでかい。
「あとは念のための……よし、すぐに取り出せるようにした」
「何をするつもりなの?」
「悪あがき」
そう言って、僕はニタリと笑った。
どうせなら最後に、華々しく散ってやろう。
@@@
出来る限り奴の動きを最小限に抑えることが望ましい。ベヒーモスを中央に留めるように誘導してもらい、遠距離職が円状にならんで砲撃を行う。そして、近距離職でひたすら細かくダメージを与えてもらうことで数秒ではあるが、奴の動きを留めることが出来た。
「いくぞ怪盗イチゴ大福さん!」
「なんでそんな名前にしちまったかな俺ッ!」
「それはこの場の大多数の人が思っていることだッ!」
その場のノリって怖いって話。そして、これから行うのもかなりその場のノリ感が強い方法だ。
逆立ちをする直前みたいな体勢になった怪盗さん――足の裏が上を向いており、腕の力で今まさに逆立ちするぞって感じになっている。
そこに僕が走っていき、ジャンプして飛び乗った瞬間――怪盗さんが直線ブーストスキルを発動させる。
「むかしじっちゃんに見せてもらった漫画のアレ――名前出てこないけどアレ!」
有名なサッカー漫画の技らしいが、僕は詳しく知らない。ただ、見た目のインパクトが凄かったからなんとなく覚えていた技を拝借した。なんか、スカイラブ!? とか言っている人が聞こえる。
怪盗さんのスキルの力を借りて上へと飛び上がった僕はあらかじめ発動状態にしておいたドリルを構える。そして、先ほどとは別の組み合わせ――ドリル+斧スキル『兜割』。スコップで発動できる攻撃スキルには斧もあるのだが、いかんせん狭い洞窟内では使いづらいものがほとんどだった。この『兜割』もその一つ。
全身のバネを使って跳躍し、相手をたたき割るスキルなのだが……洞窟内だと天井にぶつかるので死にスキルだった(自爆するという意味も込めて)。だがこんな開けた場所なら関係ないし、ドリルの防御力貫通に加えてこのスキルには落下距離分の数値も攻撃力に加算するという特徴がある。さらに狙うのは弱点の背中のコブ!
『いっけぇえええええええええええええ!!』
全員の声が、巨大な敵を倒せとまるで咆哮のようにこだました。
だが、流石に三割近くのこっていたHPを消し飛ばすまではいかない。
「そんな!?」
「これでもダメなのかよ!?」
「だが残りHPは少ない、全員でかかれば――」
生憎だが、次の一手はもう打ってある。
「悪いけどこれでチェックメイトだッ」
インベントリからすぐに取り出せるようにメニューを出しっぱなしにして準備しておいたブツ――アイテムとしての爆弾岩。じつは、モンスターのばくだんいわを倒すと、そこそこの確率でアイテムの爆弾岩をおとすのだが……これがかなりの高威力爆破アイテムなのだ。ただし、インベントリから出すと数秒で爆発するので使い勝手がかなり悪い。基本こいつを元に火薬を作るためのアイテムだったりする。
まあ、今回は出せるだけ出して爆弾として使うんですけどね。
「ここまでしたんだ――ラストアタックは渡さねぇぞおおおおおおおお!?」
『あああああああああああああああああああああああ!?』
叫んだ連中――やっぱりお前らも狙っていたのか。まあ、そりゃ狙うよね。ゲーマーだし。
そうして、最後は自爆という僕自身の汚い花火で幕を下ろしたのだった。
いやぁ……リスポーン回数残っていて良かった。絶対誰も蘇生しないのわかっていたし。
@@@
「よくもやってくれたわね」
「褒めても何も出ませんよ」
「呆れてんのよこのおバカ」
「まあまあ、おバカなのはスレでわかっていたことじゃろが」
鍛冶師さんが魔女さんを諫めるが……解せぬ。ただ僕は、自分にできる最大の攻略方法を試しただけなのに。一生懸命頑張ったのに!
「これは炭坑に永久封印するべきでは?」
「でござるなぁ」
「そんなご無体な。僕だっておひさまの下を歩きたいんだ」
「ヴァンパイアが何を言っているのか」
別にこのゲームのヴァンパイア日光駄目とかないけど。
「ま、まあとにかく誰一人リタイアが出ることなく終わったのだから良しとしようじゃないか」
「ハァ……」
終わり良ければ総て良し。納得いかねぇムードもそこそこに、クリアできただけ良しとするかという流れになった。女騎士さん、自然とこういうまとめ役するんだな。
「そういえば……ラストアタックは何だったんだ?」
「あーそれがあったか」
基本報酬は金やアイテム類。まあ、これはみんな同じか。中にはレアドロップをした人もいるようであちこちで喜びの声が聞こえる。僕はそっちは特にないが。
問題の止めを刺したことによるラストアタックボーナスだが……よかった。爆発アイテムでもしっかり手に入っている。
「えっと……【黒鉄のオーバーオール】?」
「防具か」
「下半身用装備だけど、これも上半身の装備制限付きか」
今度はマフラーが装備できなくなるな。まあ普通のシャツとかが装備可能みたいだし、組み合わせる装備はすぐに用意できるだろう。
「たしか、他のラストアタックボーナスをとった人の装備品も黒鉄シリーズだったわね」
「へぇ……筋力値と防御力がかなり上がる上に、装備の耐久値減少を抑える効果があるのか」
採掘しているとどんどん減っていくからこれは助かる。
流石に、バランスブレイカーってほどではないがこれは便利だ。ドリルも結構耐久力消耗するし。
「やっぱり、職業ごとに合わせた装備なのね」
「炭鉱夫イメージってことですよね」
忍者やサムライだったらどうなったのか気になるな……あと、怪盗とか。
今後彼らがラストアタックボーナスをとったら教えてもらおう。
と、もう一つ気が付いた。運営からメールが来ている。
「なんで今頃運営からメールが?」
「あれじゃないの? 胃袋の中爆破とか、最後の爆弾岩とか色々やったから」
「炭鉱夫さん、アカウント停止になっても忘れないからの」
「縁起でもないこと言わないでください」
流石に即そういう事態にはならないと思うけど……えっと、何々。
「『ロポンギー』様へ
イベントクエスト、ベヒーモスの討伐お疲れさまでした。今回のイベントでは各回を我々もモニタリングさせてもらっており、その中でイベントハイライトとして、これはと思ったプレイヤー様に称号「一発屋」を贈呈させていただいております。また、今後のイベントにおいても同様の審査を行い称号贈呈を行っていく予定です。
なお、イベントの映像などは公式PVなどで使用することもございますので予めご了承ください……」
「…………ぷふっ、一発屋w」
「誰だいま草生やした奴はァアアッ」
@@@
プレイヤーネーム『ロポンギー』
基本レベル21 職業『炭鉱夫』レベル19
所有称号
『か弱い生き物』
『一匹狼』
『一発屋』NEW
『一発屋』幸運のステータスが上がる。イベント時に運営がプレイヤーの中から選んで配布する称号。上昇率も低い、ネタ称号の一つ。
小ネタを挟み、その後は新章突入です。




