屋上 〜俺と彼女の居場所〜
今日も授業をさぼる俺。
ていっても、もうすぐ学園祭だから、午前授業だけど。
屋上の扉には『立ち入り禁止!』の紙が貼ってあるから、ここは俺だけの居場所のはずなのだが…
「その顔、いただき!」
カシャッ
眩しい光に一瞬、目を閉じる。
俺は横になっていた体を起こし、相手を睨みつける。相手は意に介さず、カメラを片手に近づいてきた。
「あーあ、ダメでしょ。目を閉じちゃ」
「急に撮られたのに不可能なこと言うな!」
相手、艶やかな黒髪の美少女が俺の隣に座り、持っていたお弁当を広げる。
「はい、先輩の分」
ポンッと焼きそばパンを一個、俺に投げて寄こす。
「…俺のこれだけ?」
「そうですよ。それがなにか?」
自分は美味しそうに色とりどりのおかずがはいった弁当を食べている。
「そっち、よこせ!」
「ダメですよ〜」
伸ばした手をひょいっとかわされた。
俺の名前は、和泉凌司、 高校三年生。
彼女の名前は、羽生静花、 高校二年生。
出会いは一年前の初夏だった。
その日も、いつものように屋上で寝転がっていた俺。雲一つない青い空を見ていると、
バァン!!
ものすごい勢いで扉が開き、カメラを持った美少女が姿を現した。上履きの色で学年が一つ下だとわかる。
俺は慌てて起き上がると、そいつをおもいっきり睨んだ。
せっかく人が気持ちよくまどろんでいたのに…
「誰だよ、てめぇは!?」
「写真部一年、羽生静花」
俺はその名前をインプットしつつ、疑問をもつ。
写真部なんて、あったけ…?
後で聞いた話、どうやら非公認の部活のようだ。しかも彼女一人の。
「で、なんの用だよ?」
「和泉先輩、私の被写体になってください!」
「却下」
だが、彼女はそれから毎日俺の元に来るようになった。そしていつも、
「私の被写体になってください」
「嫌だ」
懲りずにいつもいつも…
そんなある日、二人で屋上にて昼食をとっていると、羽生が俺の方に顔を向ける。
「な、なんだよ」
「先輩って、いつもそれですよね」
それ、というのは俺の弁当のことだ。おにぎり一個。
「そんなんじゃ、大きくなれませんよ」
「うるせえ。別にいいだろが」
俺は一人暮らしなので、学食だとお金がもったいないし、自分で作るとなると面倒だと感じてしまう。結果、おにぎり一個。
「わかりました!」
すっくと羽生が立ち上がる。
「先輩のお昼は、私が奢ります。だから、被写体に!」
「い…」
いつものように嫌だと言おうとしたが、悪い話じゃない。
「わかった。それで手を打とう」
「えっ!!」
羽生が目を輝かせてこちらを向く。
「ただし、誰かに見せるときは俺に言ってからだからな」
「はーい!」
ノリよく返事をしたがその笑顔を見て、嫌な予感がする、ような…。マズかったか…。
「あっ!」
突如、羽生が指をさす。俺もつられてそちらを振り返る。
何もない。山に囲まれた学校の、緑豊かな風景が見えるだけだ。
カシャッ
背後でフラッシュがたかれる。
「てめぇ…」
「えへへー、いただき」
それから、彼女は俺や屋上からの風景を撮るようになった。
学園祭当日
俺は、美術部の作品が飾られている教室の前にいた。
実は羽生の写真も一緒に飾られている。彼女が美術部の顧問と掛け合って実現したことらしい。
だた、そのことについて、俺は何も聞かされていなかった。ムカついたので、後日、冷やかすため、見に来たのだ。
中に入ってみると、誰もいない。
とりあえず、美術部の作品を順に見ていく。
彼女の作品は、出口付近に飾られていた。
なんというか、美術部のとは違った、存在感があった。主に植物や建物の写真だったが、一枚だけ違うのを発見。
あーあ、なんだよ、これ。
無意識に頭を掻く。顔が赤くなる。
後ろ姿の男子生徒が屋上から外の景色を見ている。
それは彼女が初めて俺を撮った写真。題名はー
『好きな人』
初めてここに載せました。詰襟の黒い学生服といえば、不良学生。そして、相方はセーラーの美少女、と思って書きました。