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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第一章『運命』
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第二節『旅立ち』① ・初接触・

「おーいシェイム、一緒に帰ろうぜ」


放課後、人影が薄くなった教室でノディックがいつものように帰り道に誘ってくる。


「ノディックの家なんてすぐそこなのに、よく俺を誘うよな」


「お前の果てしなく長い帰り道を一瞬でも彩ってやってるんだよ」


彼はウィトラー家の長男だ。

元貴族なだけに、都心の一等地に大きな一軒家を構えている。


それに対して、俺の家は町から大きく外れた片道徒歩3時間の遠い道のり。

毎日それを歩いて通っているのだから、遅刻の一回や二回、三回や五回、十回……くらいは仕方がない。


「いい加減寮に入ればいいじゃねぇか。お母さんからの許可も貰ってんだからよ」


「ばーか、家に1人になんてできるかよ。それに余計な金が掛かるだろ、できるだけ負担はかけたくねーの」


「相変わらず頑固なやつだなぁ」


いつものように寮を勧めてくるノディックをキッパリと断る。

彼としては自分の家と近くなれば遊ぶ機会が増えて嬉しいのだろう。


「今日は先に帰っててくれ、用事があるんだ」


珍しく誘いを断ると、ノディックは口をへの字に曲げた。

彼が俺を誘う時は大抵寄り道をしたい時だ。

しかし、今日は付き合っている時間がない。


ノディックはしばらくその表情を続けていたが、途端に今度はニヤニヤと気持ち悪い笑顔を浮かべた。


「ははん、さては例の夢少女に会いに行くんだな?」


「……は?」


俺が目を細めているのを全く気にかけることなく、ノディックは舞台上の主人公の様に躍動感のある大げさな仕草をする。


「ああ、行方も知れぬ美しい姫君。私はあなたに会えぬ苦しみで胸が張り裂けそうだ……」


「お前なぁ」


お察しの通り、今日遅刻の言い訳に使ったエピソードは瞬く間に広まった。

それも夢の中で美少女と恋仲になっていた、というねじ曲がった情報になって。


おかげさまで今日は一日そのことでいじられてしまった。

その事についてマーラを問い詰めたが、彼は無表情でピースサインを突き出してきただけだった。


「ま、そういうことなら仕方ないか。じゃあまた明日なー」


さっきまでのテンションと打って変わって、ノディックは荷物を片手に落ち着いた様子で教室を後にした。

無理に詮索してこないのは彼なりの優しさなのだろう。


教室にはいつの間にか俺一人が取り残されていた。

静かになった教室は今日一日の出来事をどこか夢のように感じさせる。


強く息を吐き出して、わざとらしくよしっと小さく呟いた。

まとめた荷物を右肩に担いで行動に移す。


正直、誘いを断る程の大した用事ではないし、何ならノディックの冷やかしも強ち間違いではない。

俺は導かれるように学園が有する図書館に足を進める。


図書館には様々な種類の本が五十万冊程所蔵されている。

まだ利用したことはなかったが、今日の夢について調べてみたくなったのだ。

自分から本を読んでみようと思ったのは初めてかもしれない。


夢のことをこんなに鮮明に思い返せるのも不思議だが、それ以上に何故ここまで記憶に残っているのか、何故こんなにも心に引っかかるのか、それが知りたい。


何かが、()()()()()が疑問の先にある気がしてならない。



 ○



 「これってまさか……」


図書館に入室してからおよそ2時間後、俺は驚愕していた。


嘘だ、これはまさか、情報がひとつも、ない!

ひとつも見つからない!


気がつけば、この2時間夢中で何十冊という本を調べた。

それは夢に関する物から、心理、記憶、前世など多岐に及んだ。


本なんて読めるのかという心配は杞憂に終わったようだ。

まあ、流し読みしてたみたいなものだけど……。


しかし、調べた内容はどれも俺の感覚と一致しなかったり断定するには根拠が無いものばかりだった。

最後の方は躍起になったのか「宇宙人からのメッセージ説」なんてオカルト本を手に取っていた。

よくもあんな内容で本を出しやがったな。


そんなこんなで肩を落として図書館を後にし帰路に着いた。

季節柄日が長いとはいえ流石に陽はかなり傾いている。


「こんなに日が暮れても暑いんだから、嫌な季節だよなぁ」


今朝よりも橙色が濃くなった街を一人で歩く。


それにしてもあんなに頑張ったのだから少しくらい成果があっても良いだろうに。

これでは二度と本など読まないと誓ってしまっても仕方ないよな。


ネチネチと文句を浮かべながら2時間程歩くと、さっきまでとは景色が一転し目の前には豊かな自然が広がる。


街を抜けたようだ。

俺の家はさらに1時間歩いた町外れにある。


気がつけば辺りはすっかり暗くなってしまった。

この辺りは街灯も少ないため街の夜よりも闇はさらに深い。

今日が満月で助かった。

月明かりで微かに照らされた道を行く。


歩いている間も、夢の中の彼女について考える。

彼女は何故俺を殺そうとしたのだろうか、そもそも彼女は何者なのか。


忘れただけで昔の知り合い?

それとも妄想で作り上げた人物?


どれだけ考えても、残念な頭では同じ問いがぐるぐる彷徨うだけだった。


「夜分に失礼致します」


「っ?!」


突然声が掛かり、驚いて思わず足を止める。

声を掛けてきたのは正面に経つ男だった。


さっきまで人の気配など微塵も感じなかった。

目の前に立っているというのに気づかなかったのか。


いつからそこに居たんだ……?


こんな夜に、こんな暗い町外れに、フードを深く被り真っ黒いローブに身を包んだ男が突然目の前に現れた。


……普通じゃない。


「お、俺に何か用ですか」


警戒しながらも平静を装って男に声を掛ける。


本能が全力で告げている、この男を()()()()()()()()()と。

いきなり逃げる動作を取ればそれこそ刺激を与えてしまうかもしれない。


この男は、やばい。

そんな感覚だけがひしひしと伝わってくる。


「あなたが付けているその腕輪……やはり間違いない様ですねえ」


男はフードで隠れた顔で、俺の左腕を覗き込むように注視する。


「そ、そんなに見られると照れるなぁ……!」


咄嗟に左手の腕輪を右手で隠した。

見られてはいけない、そう感じる。


男が言う通り、左腕には幅5cmほどの腕輪を身につけている。

これは死んだ父親の形見で、幼い頃からこの腕輪を着けていた。

不思議なことにこの腕輪は体に適した大きさに変化する。


もしかしたら、これが高級な物だと思って男はそれを狙っているのかもしれない。

いやしかし、ただの(ぞく)にしては雰囲気が違いすぎる。


「これがどうかしましたか……?」


バレない程度に重心を後ろに移しすぐに逃げられる体勢を整える。


これは模擬戦とは違う。

怪我もするし命だって落としかねない。


武器も持っていない上に、この男の実力も分からない。

逃げる事が最優先だ。


「そうですねえ、その腕輪を付けているということは……あなたには死んでもらわなければなりませんねえ」


俺は男が言い終えると同時に動いた。

一歩目を素早く踏み出し一目散に街の方角へと駆け出した。


どうやら狙われていたのは腕輪ではなく俺の方だ。

突然の展開に驚いているが、行動を起こさなければ殺される。


焦る頭で必死に考えを巡らせる。


とにかくこの場を離れて街に逃げよう、それから――


「何処に行くんですか」


突如腹部に強烈な衝撃が襲う。


「カハッ……!」


声にならない声が漏れる。


……おかしい、いくらなんでも早すぎる。


この男は俺の反対側にいたんだぞ。

なんで俺より先にそこに居る……!


男はいつの間にか回り込んでいて、その拳は俺の腹にめり込んでいた。

あまりの威力にその場にうずくまる。

動かなければならないのに、身体が言うことを聞かない。


一撃で分かる、こいつは学園の誰よりも強い。

俺の勝てる相手では無い。


「おやおや、この様子ではまだ()()()()()は切れていないようですねえ」


男はうずくまっている俺を見ながら訳の分からないことを言う。

そして、さらに続ける。


「しかも、()()【覚醒魔力】が発現していない。やはり、これは今が殺し時ですねえ」


男は右足を持ち上げる。

そして、その足を力強く俺の頭に踏みおろした。


しかし、その足が頭に触れることは無かった。

相手の一瞬の隙を利用しその場から飛び退いていた。


「おや、まだ動けるんですねえ」


強烈ではあったが、拳一発でリタイアなどしない。

日々の鍛錬は無駄ではなかったようだ。


「何者だ、お前……!」


目の前の()()に、攻撃の構えを取りながら問いただす。

もう逃げられないことはわかった、腹を括るしかない。


この男がただの一般人では無いことくらい分かる。

明らかに戦闘に、()()に慣れている。

汗ばむ俺を余所(よそ)に男は平然とした態度を取り続けていた。


「これはこれは。申し遅れました」


男は深く被っていたフードを外した。

月明かりが男の顔を照らす。


「私は【闇の一族】、【十八将(じゅうはっしょう)】が一人、ティリアと申します。あなたの命を頂きに参りました」


男はまるで紳士のように深々とお辞儀をする。


吐き気を覚えるような狂気を、そこに感じた。

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