表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第一章『運命』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/69

第一節『持たざるもの』⑥ ・夢の話・

 試合を終えた俺は、すぐさま先生の応急処置を受けることになった。

あれほどの威力の攻撃を受けたにもかかわらず、傷は大したものではなかった。


これくらい何ともないと断ったのだが、先生の反対は勿論(もちろん)のこと、それ以上にセルティアの怒りに触れ、結局処置を受ける羽目になった。


「私の技を受けて『これくらい何ともない』ですってぇ?!ふざけるんじゃないわよ!」


セルティアはそう怒鳴ると、凄まじい勢いで駆け出し、どこからか応急キットを持ってきた。

それをドンと地面に置き、処置をするよう言いつけると、ぷいと背を向けて去っていった。


 先生の手当てを終えた俺は、やりたいことがあると言って自習に参加させてもらった。

本当は特別な用事があったわけでもないが、授業が終わるまで医務室にいるよりはマシだ。


今は一人、剣を振っている。

そこへ、マーラが近づいてきた。


「システムに異常が起きるなんて、とんだ災難だったな、シェム。身体は大丈夫なのか?」


マーラは俺の横に腰を下ろす。

何度か剣を振り、俺はようやくその手を止めた。


「……ああ。大した傷じゃない」


「そうか。それならいいんだが」


マーラは何をするでもなく、ただ隣に座っていた。


「……訓練しなくていいのかよ」


「今日は特にやりたいこともないからな」


そう言って、彼は俺に体を向け、真剣な表情になる。


「それに――親友が浮かない顔をしてる。話くらいは聞いてやらないとな」


よくもまあ、そんな恥ずかしいことを真顔で言えるものだ。

だが、胸の奥がざわついていたのも事実だった。


「……システムが正常だったら、今日は負けてた。それが悔しくてな」


最後の一撃は、それほどの威力だった。

今日の勝利は運に助けられただけで、セルティアに完全に勝ったとは言えない。

正直、勝った時の喜びより、負けたような悔しさの方が強かった。


「そんなことだろうと思ったよ」


マーラは呆れたようにため息をつくと、ビシッと俺を指差した。


「お前は“今日はたまたま勝てた”って思ってるかもしれない。でも違う。あの最後の一撃、実戦だったら致命傷だ。システムが作動していない状態で、あの程度の傷で済んだのは――お前の強靭(きょうじん)な肉体があったからだ」


落ち着いた口調で、マーラは俺を(さと)す。


俺は、手当てされた傷口に視線を落とした。


「実戦なら、文句なしでシェムの勝ちだ」


マーラは昔から、完璧を求める男だ。

感情ではなく、理論で物事を判断する。

だからこそ、その言葉に嘘はないと分かる。


胸につかえていたものが、すっと消えた気がした。


「そういえば、マーラは結局【身体強化】を使わなかったな」


話題を変えるように言うと、マーラは少し安心したように笑った。


「力加減を知りたかっただけだ。実戦で無駄に【魔力】を消費したくないしな」


マーラは、戦いにおいて合理性と効率を重んじる。

最小限の力で勝つ。それが彼の強さだ。


俺たちには、幼い頃から共通の夢がある。

――【兵士】になること。


【兵士】は【冒険者】と並ぶ人気の職業であり、この世界には【世界三大兵団】と呼ばれる組織が存在する。

その中でも、俺たちは特に【政魔】に憧れていた。


いずれ、俺たちは戦場に立つ。

その時のために、マーラは無駄な【魔力】を使わない。


今日ズベルフに判定勝ちしたのも、有利な状況でどこまで戦えるかを測っていたのだろう。


「……そうか」


短く、そう返した。


「まだまだ、こんなもんじゃ足りないな。この学園で、もっと強くならないと」


【持たざる者】としてこの学園に入学したのは、俺が初めてだったらしい。

学園が珍しがった、というのが理由だそうだ。


今朝学園まで走っていた時も、先程の模擬戦の時も――

【持たざる者】としては、ありえない動きをしていたのだと思う。


【持たざる者】とは、【魔力】を持たない者への呼び名だ。

【魔力】を持つ者ではなく、持たない者に名前が与えられているという事実が、何を意味するのか。


今でこそ法律で禁じられているが、かつて【魔力】を持たない者は差別の対象だった。

そのため、俺の入学に反対する声も多かったらしい。

セルティアが納得していないのも、その名残だろう。


そんな中で、マーラだけは何の躊躇もなく俺を受け入れてくれた。

本当に、良い友人に恵まれたと思う。


「あ、そういえば」


 マーラがふと思い出したように言った。


「今日はなんで遅刻したんだ? どんな言い訳を聞かせてくれるか楽しみにしてたんだ」


真剣な顔でそんなことを言う。

俺が遅刻するたびに、彼は理由を聞いてくる。

ほとんどは寝坊だが、必死に考えた言い訳を聞くのが楽しいらしい。


今朝の光景が、脳裏によみがえる。

少しの沈黙の後、俺は答えた。


「今朝……女の人に殺された」


「……は?」


マーラは完全に固まった。


「い、いや、夢の中でな?!」


「ああ……そういうことか」


慌てて納得するマーラ。

俺の説明不足は、いつものことだ。


「なんでそんな目に遭ったんだよ。何か悪いことでもしたのか?」


「それが……覚えがない。そもそも、その人のことを知らないんだ」


普通、夢はすぐ忘れてしまう。

だが今日の夢は違った。


草原、夕焼け、彼女の言葉、冒険者のような装い、そして最後に見た表情。

彼女は――俺を殺した。


それらすべてが、鮮明に残っている。


「なんだそれ……もう少しマシな言い訳を考えろよ」


「……俺もそう思う」


それ以上掘り下げられないよう話題を変える。

あの美しい暗殺者に抱いた感情は、胸の奥に仕舞っておこう。


誰にも知られぬように。

ひっそりと。

少しでも面白いと感じた方はブックマークをお願いします。

評価やコメントなどもお待ちしています!

評価は広告下の☆☆☆☆☆から出来るのでお気軽に是非!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ