第四節『残り火』③ ・並び立つ光と炎・
「……っ!」
喉の奥から息が漏れる。
身体の奥底から、力が溢れてくる。
腕輪が微かに震え、薄く光を放っていた。
――もう、躊躇ってなどいられない。
自分の身体がどうなろうと、たとえ正体がバレようとも。
目の前の命を、見過ごしてたまるか。
「……お前の好きには、させない」
俺は、湧き出てくる力を惜しみ無く放出した。
その瞬間。
地下全体の空気が変わる。
密度が増し、重たくなるような感覚。
空間が、震えた。
「ははっ……!この魔力!そうか、やはりお前が……!」
ヴァルバロは本能で感じ取った。
自分とは異なる、異質の気配を。
「【天才】、シェイム!ついに正体を明かしたな!」
「……そんな……」
視界の端に、イギルの怯えたような目が見えた。
彼女の命が守れるなら、それでいい。
自分の心に言い聞かせた。
「シェイム、お前……」
隣でゴウが目を丸くしている。
――これが、現実だ。
どれだけ共に戦っても、助けることを望んでも、正体を知られれば向けられるのは恐怖と憎しみの目。
【天才】として生まれた、逃れられない運命。
――いや、今は打ちひしがれてる時間なんてない。
「……シェイム……お前は……」
ゴウが右手のひらで目の辺りを覆って天井を見ていた。
「……なんで、もっと早く言わねえんだよ……」
「……言えるわけ、ないだろ。こんなこと」
「……バカだよなあ、ほんと」
ゴウは拳を突き出して、俺の肩を叩いた。
魔力を、感じる。
それは止めどなく溢れ、大きく膨らんでいく。
そして、次の瞬間。
俺は、震えた。
勝手に、身震いした。
「まさか――」
初めて感じる異質の魔力。
だがどこか、身に覚えのある感覚。
「焔醒動」
ゴウの両腕に赤橙の火が灯った。
荒く、炎が揺らめく。
「わかるか、シェイム」
「……全く、全然見つからねえと思ったら、こんなに近くにいたなんてな」
二人目の――【天才】。
「俺は、自分の人生を諦めてた。逃れられない運命が付きまとう、この人生にな」
ゴウの瞳の中で、炎が揺れ動く。
「だかお前は、どうしようもない理不尽に、抗ってる。だから……俺も覚悟を、決める」
「……なら尚更、迷う理由なんてないな」
「ああ、行くぞ!!」
叫びと同時に、ゴウが踏み込んだ。
拳を振るうたび、炎が尾を引く。
床を焼き、空気を歪める。
「いい重さだ……!」
ヴァルバロは一歩も退かない。
攻撃を全て防いでいる。
しかし。
一撃、一撃が、確実にヴァルバロに響いていた。
「だが、まだ荒削りだ……!」
火花と炎が、四散する。
ゴウの身体が弾き飛ばされた。
「ぐっ……!」
それでも、その隙を見逃さない。
「……今だ」
胸の奥に、静かな集中が落ちる。
【身体強化】とは違う。
もっと澄んだ感覚。
視界が白く広がる。
身体をまばゆい光が包む。
次の瞬間、その場から消えた。
光の軌跡がヴァルバロの懐へ走る。
剣が閃いた。
「……っ!」
初めての感触。
今までの岩を切った感覚とは違う。
剣が確かに沈んだ。
「はははっ!」
ヴァルバロの口元が大きく歪む。
「これが、【天才】の魔力か!!」
一瞬で肉薄したヴァルバロが蹴りを放つ。
身体が壁に叩きつけられる。
光が、一瞬乱れた。
「……こっちだ!」
ゴウが再び立ち上がる。
炎を纏い背後から突っ込む。
二人の動きが噛み合う。
光が斬り裂き、炎が押し込む。
連携。
確かに――ヴァルバロを追い詰めている。
「面白れえ……」
ヴァルバロの声が弾む。
圧がさらに増した。
「だが――まだ足りん!!」
一撃で光と炎をまとめて薙ぎ払った。
二人の身体が同時に吹き飛ばされた。
床を転がり息を吐く。
互角。
いや――僅かに届かない。
「力を合わせようが、覚悟を決めようが――」
俺たちが立ち上がる間に、ヴァルバロは壁に突き刺さった戦斧を力ずくに抜き取った。
「力なき者は、力ある者に踏み潰される。それがこの国の真理だ」
空気が、軋む。
「最高の舞台だ。2人の【天才】と、この国の英雄……!俺の伝説の一部となれ!」
ゴウは炎を灯したまま立ち上がる。
シェイムは光を纏い直し剣を握る。
互角には僅かに届かない。
それでも。
――ここで、引くわけにはいかない。
二人は、再び並び立った。




