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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第四章『炎舞』

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第三節『二人目』⑧ ・選択・

――間に合わない。


そう思った、刹那。


鈍い衝撃音が地下に響いた。

戦斧の軌道がわずかに逸れる。


床に叩きつけられた刃が火花を散らした。


「……またか」


ヴァルバロが舌打ちをする。

砂塵の中に立つ一つの影。


影は素早く動き、イギルと両親を抱えてヴァルバロから距離を取った。

そして、両親の手枷を壊し、優しく外した。


「君は――」


「……約束、守れませんでした――すみません」


イギルの父と短く会話した後、父の肩を擦ってから立ち上がる。


「遅れて、悪い」


低く、掠れた声。

そこに立っていたのは、ゴウだった。


息は荒く、至るところから血を流している。

だが、足取りは確かだった。


「……フィリイはまだ来てないのか」


ヴァルバロの視線が、興味深げに細められる。


「……俺は、怖かったんだ。誰かを救おうとして、また救えずに終わるのが、怖かったんだ」


ゴウは俯きながら、その視線はどこを見ているでもなかった。

拳が、震えていた。


「運命は変えられない。抗ったところで、無駄に傷ついて終わるだけだ」


俺は、ゴウの言葉を静かに聞いていた。

彼の言葉には、どこか重みがあった。


「ただ……お前を見てると、そうでもない気がしたんだ」


ゴウは視線の先にヴァルバロを捉える。


「これ以上――好きにはさせない」


短く、それだけ言った。

ヴァルバロは肩をすくめる。


「今度は二人目か。だが――」


視線が、俺に一瞬だけ向けられる。


「一人目は、もう終わっているぞ」


その言葉に、胸が強く締め付けられた。

ゴウが、一歩前に出る。


「……黙れ」


声は低い。

怒りよりも、悔しさが滲んでいた。


次の瞬間、二人が同時に踏み込む。

重い衝突音。

拳と拳が、真正面からぶつかり合う。


――止まった。


ほんの一瞬。

だが、確かに。

ヴァルバロの動きが、止まった。


「……ほう」


楽しげな声。


「悪くねえ。だが――」


直後、衝撃が弾けた。

強烈な蹴り。


ゴウの身体が、後方へ弾き飛ばされる。

壁に叩きつけられ、床に膝をつく。

それでも、倒れなかった。


「……っ、ぐ……!」


歯を食いしばり、立ち上がる。

その光景を、俺は床に座り込んだまま見ていた。


――イギルたちが、助かった。

そう思った瞬間、同時に別の感情が込み上げる。


違う。

助けられたのは――俺だ。


イギルも、両親も、何一つ救えていない。

俺は、ただ無意味に時間を引き延ばしただけだ。


「……俺は……」


声が、震える。

剣を取り戻そうと、手を伸ばす。

だが、指が届かない。


ゴウが、ちらりとこちらを見た。

その視線に、責める色はなかった。


だが――それが、余計につらい。


「立て、シェイム」


短い言葉。


「お前が倒れたままだと、意味がない」


意味。

その言葉が、胸に刺さる。


俺は、何をしにここに来た。

俺には、何ができる。


答えは、まだ出ない。


それでも――


歯を食いしばり、床に手をつく。

身体が悲鳴を上げる。

痛みで視界が白くなる。


それでも立たなければならない。

助けられなかった事実を、背負ったままでも。


ゴウが真正面から踏み込んだ。


動きに迷いがない。

無駄を削ぎ落とした、実戦の動きだった。


衝突音。

ゴウの攻撃とヴァルバロの防御がぶつかり合う。

重い衝撃が、空気を震わせる。


――だが。


ヴァルバロは、退かない。

力で受け、力で押し返す。


ゴウの蹴りが弾かれ、身体が後方へ吹き飛ぶ。

壁に背を打ちつけ、それでも踏みとどまる。


「……っ!」


歯を食いしばり、再び前へ。

その背中を、俺は見ていた。


――強い。

間違いなく、俺より。

それでも、足りない。


ヴァルバロは、まだ全力を出していない。


「無駄だ」


戦斧が、横から振るわれる。

ゴウは回避するが、刃が身体を掠め、膝をつく。


――まずい。


次の瞬間、追撃が来ると俺は理解した。


転がっていた剣を掴み、ヴァルバロの側面へ走る。


狙うのは――足。

斬る必要はない。

意識を向けさせれば、それでいい。


刃を振るった瞬間、ヴァルバロの視線が確かにこちらを向いた。


その隙にゴウが立ち上がる。


「……今だ!」


ゴウが再び拳を振り抜く。


だが。

ヴァルバロは、舌打ち一つで、拳を振るった。

後ろ向きの一撃。

振り返りもせず。


それだけで、ゴウは弾き飛ばされた。

激しく地面を転がっていく。


――止まらない。


主導権は、微塵も動いていない。


俺の剣も、ゴウの拳も、ただ「ここにいる」ことを主張しているだけだ。


それでも。


ヴァルバロは敵が二人いると認識した。

それが、唯一の変化だった。


「まだ動く気力があったとはな」


ヴァルバロが、ゆっくりと戦斧を肩に乗せる。

一瞬ゴウに視線をやった後、口角を吊り上げ俺を見る。


「だが――」


ヴァルバロは戦斧を、ゆっくりと二つの方向に動かした。


片方は、膝をつくゴウへ。


もう片方は、イギルとその両親へ。


「守る相手が増えると、人は弱くなる」


低い声。

楽しげですらない。

ただの事実確認。


「片方は、間に合わねえ」


血の気が引いた。


距離を測る。

頭が、必死に回転する。


ゴウまで――近い。

だが、イギルたちまでは――遠い。


同時には無理だ。


「選べ」


戦斧が、わずかに持ち上がる。


「助けに来たんだろ?」


喉が、張り付いたように動かない。


ゴウがこちらを見る。

首を、僅かに横に振った。


――来るな。


そう言っている。


イギルの、震える声が聞こえた。


「……シェイム……」


視界が、狭くなる。


俺が立っているせいで、この状況が生まれている。


来なければ、選ぶ必要すらなかったのではないか。

剣を握る手が、痛む。


――違う。


違う、はずだ。

それでも、時間は待ってくれない。


ほんの僅か、ヴァルバロが踏み込んだ。


「――っ!」


叫びと同時に、

俺は――走り出した。

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