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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第四章『炎舞』

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第三節『二人目』⑥ ・強がり・

 日の光すら届かぬ牢獄、その最下層。

ヴァルバロの言葉を聞いたイギルは、放心状態だった。


「お、おい、今何て―――」


「……そこの看守、ガキをしっかり抑えとけ」


「何、するつもりだ……やめろよ」


「そこの二人の首を突き出せ」


ヴァルバロの命で看守が二人を跪かせ、上半身を前傾させる。


「やめろって!!」


イギルは喉を枯らす勢いで叫ぶ。

しかし、ヴァルバロは止まらない。


必死に身をよじる少女を看守が抑え込む。


「大人しくしてろ!」


「離せ!!」


イギルは自分を押さえつける看守を睨みつけた。


「目の前で両親が殺されようとしてるんだぞ!!それを黙って見てろってか?!お前に人の心は無いのかよ!!」


「……っ!!」


看守の顔は、引き攣っていた。

他人事としてこの事態を見ても、正義感が揺らいでしまう。

しかし、良心に従えば殺されるのは自分だ。


この場にイギルの味方など居なかった。


「別れの時間だ」


ヴァルバロはイギルの父セガルの頭上に戦斧(バトルアックス)を大きく振り上げた。

刃が鋭く光る。


「やめろぉぉ!!」


叫ぶイギルの視線の先にいるセガルは、頭上に構えられた戦斧など気にもとめず、イギルだけを真っ直ぐに見ていた。


「……イギル……こんなことになってしまって、すまない。一人残して旅立つことを、許して欲しい」


「いっ……嫌だ……!」


「……本当は、もっと成長を見届けてあげたかった。イギルが結婚するのを想像して泣いた夜もあったんだ。本当だぞ?」


「嫌だ……嫌だよぅ、お父さん……行かないでよ……」


父の優しい声を聞いた瞬間、イギルの目から涙が零れる。

先程までの威勢が嘘のように、その姿は幼い少女そのものだった。


「……イギル、愛してるよ」


イギルは力無く項垂れ、大粒の涙を地面に落としていた。


「あぁ、私の愛しいイギル……あの日、言った言葉を覚えてる?」


「お母さん……」


イギルの脳裏に母の言葉が過ぎる。


『もし私たちが居なくなっても、強く生きてね』


何度も自分を鼓舞してくれた言葉を、忘れるわけもなかった。


「私、強くなんかないよ……一人ぼっちは嫌だよぅ……」


「ここに来てからずーっと、貴方に会うことだけを夢見ていたわ……最期にもう一度、貴方を抱きしめてあげたかった……」


母ディーナはイギルを優しい瞳で見つめていた。

自分が殺される恐怖よりも、娘をその手に抱きたいという愛情が上回っている。


「イギル、心から愛しているわ」


そう言ったディーナの背中をヴァルバロが踏みつけた。


「長ぇな……いつまで待たせるんだ、あ?」


肩に担いだ戦斧を地面に叩きつけた。

明らかにイラついている様子だ。


「よーく見てろ、ガキ。ショーの始まりだ」


ヴァルバロは高笑いをした後、ディーナの上に戦斧を構えた。


「やめろ!!やめろぉ!!」


「いいぞ、もっと吠えろ」


「やったらお前を殺す!!絶対に殺す!!」


「おお、楽しみにしてるぞ」


「クソ野郎が!!絶対に許さねぇ!!」


イギルの声はどこにも届かなかった。

虚しく響いて跡形もなく消えていく。


目の前にあるのはただただ絶望。

気がつけば、イギルは叫ぶのをやめていた。


自分にはどうすることもできない。

果てしない無力感が押し寄せ、声を発することさえできなかった。


頼れる人など居ない、助けてくれる人など居ない。

薄暗い地下の中、イギルはひたすらに孤独だった。


「……誰か……誰か助けてよ……」


イギルは掠れるような声でそう呟いた。


「自分の無能さに絶望しろ」


ヴァルバロはイギルを見てにやりと笑った。

そして、その大きな戦斧がディーナの首元に振り下ろされた。


その時だった。

戦斧がディーナに触れる直前、上層から猛スピードで接近した何かが戦斧にぶつかった。


衝突の勢いで軌道が逸れ、戦斧は地面に叩きつけられた。

辺りには砂煙が立ち込めている。


「なんだ、お前は」


ヴァルバロが睨みつけるその先、砂煙の中には一つの人影が立っていた。

その身体には【身体強化】が施されている。


「遅くなって悪かったな、イギル」


「だ、だれ―――」


「お前の助けを求める声、ちゃんと届いたぞ」


砂煙の中の人影がイギルに向かって勢いよく飛び出した。

そして、勢いそのままに看守の顔面に一撃、拳を叩き込んだ。

看守は遥か後方に転がっていく。


イギルはその人物を見上げる。


「なっ、なんでここに―――」


「言ったろ?必ず助けに行くって」


その人物を見た瞬間、イギルは再び涙を流していた。

その涙は先程とは違う、微かな希望を含んだ綺麗な涙だった。


「だっ、誰がお前の助けなんか―――」


「イギル、もう強がらなくていい」


「で、でも――」


「完璧な人なんて居ないんだ、イギル。人は誰だって強い部分と弱い部分を持ってる。俺だって……あのゴウだってな」


いつもはどこか腹が立つ声の主の言葉を、この時は素直に受け入れられた。


「だから、助けて欲しい時は助けて欲しいって、素直に言っていい……自分の手に負えない時は、誰かに頼っていい」


イギルが母と交わした約束、『強く生きて』という言葉を、彼女はその言葉のままに捉えていた。

だからこそ、魔物と対等に戦うゴウのような強さを欲した。

父と母を救うのは自分だと意気込んだ。

自分だけの力で成し遂げなければならないと。


「……簡単に……言いやがって……」


しかし、今なら彼女にも理解出来た。

母が言う『強さ』とは、魔物と戦うための『強さ』ではなかった。

自分一人で抱え込んで、その孤独に耐えうる『強さ』ではなかった。


「常に強くある必要なんてない、弱くたっていいんだよ!!」


その言葉が、イギルの心の闇を切り裂いていく。


この果てしない孤独で、届かないと思っていた声を聞いてくれる人がいる。

絶望の淵にいた自分に、手を伸ばしてくれる人がいる。


約束も、意地も、強がりも、自分を縛る一切を脱ぎ捨てて、彼女は言葉を絞り出した。


「……たす、けて……助けて、()()()()!!」


「あぁ、任せろ!!」

イギルのピンチに駆けつけたシェイム。

……遅いわ!!


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