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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第四章『炎舞』

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第三節『二人目』⑤ ・火の子・

 上空に立ち上る膨大な【魔力】。

その異様な光景を前に、ゴウは思わず固唾を呑んだ。


「クソじじいめ、まだ余力残してるじゃねぇか……!」


ゴウは自分の拳を見つめる。

見た目以上にダメージが蓄積しているため、その拳には先程のようには力が入らない。


「こんなことなら【回復薬】のひとつくらい持っとくんだったな。……やるしかねぇか」


地面を強く蹴って向かい風を掻き分ける。

進むに連れて感じる【魔力】が大きくなっていく。


アルベルトの武術は一度嵌ると抜け出せない。

自分から仕掛けてペースを掴まなければ勝機はない、ゴウはそのことを理解していた。


視界の先にアルベルトの姿を捉える。

彼は勇ましくその場に立っていた。


「よぉ、じいさん!歳の割には元気じゃねぇか!!」


「貴方こそ、小童(こわっぱ)にしては骨があるようですね」


吹き荒れる風の中、二人は再び対峙する。


「さて、決着をつけましょうか」


「望むところだ」


ゴウか構えを取った瞬間、アルベルトが動いた。

それに合わせてゴウはすかさず数歩前に出て蹴りを構えた。

相手の【縮地】を迎え撃つ。


「そう来たか……!」


ゴウの予想に反して、アルベルトは【縮地】を使わずに距離を詰めてきた。

不意を付かれたゴウは慌てて迎撃態勢を取る。


「【重歩】!!」


掛け声と共に踏み込まれた足は、ゴウの足元の岩をいとも容易く粉砕した。


「まじかよ……!」


体勢を崩したゴウの正面には拳を構えるアルベルト。

咄嗟に放った魔球はアルベルトに直撃するが、全く意に介さない。


ゴウには防ぐ術が無かった。


「【重拳】!!」


振り抜かれたアルベルトの拳を、前腕を交差させて正面から受けた。

肩から先が吹き飛びそうになりながらも両腕を振り上げて勢いを逃がし、さらに身体を自ら後方へ投げることでダメージを分散させる。


「なんって重い一撃だ……!」


両腕の前腕が折れているが、命があるだけマシというもの。


「武術と【魔力】の融合、これこそが私の真骨頂です!!」


本来【魔力】消費のない武術に、【魔力】を付与する。

こそに生まれる技は、単なる足し算ではない。

言わば武術と【魔力】の掛け算、威力は急激に跳ね上がる。


ゴウは痛みを無視して拳を握った。

そして、怪我の状態に構うことなくアルベルトに連撃を浴びせる。


「また【舵取り】使ってみろよ、さっきよりも強烈なのを食らわせてやるぜ!!」


「……【金剛】」


アルベルトがそう呟くと、途端にその体が鋼のように固くなった。

【舵取り】は使わず、それどころか防御の姿勢も取らずにゴウの連撃を浴び続けている。


「なん……だよそれ……!」


どれだけ打っても響く気配がない。

むしろゴウの拳が砕けかけていた。


ゴウは連撃を打ち止めて一度距離を取る。


「【魔力】を使えば武術でそんなこともできんのかよ」


「初めから貴方には勝ち目なんてなかったんですよ」


「……それはどうだろうな」


「また効かないと言うつもりですか?それはもう飽きました。……終わりにしましょう」


アルベルトは拳を構える。

対して、ゴウは構えもせず俯いていた。


「潔が良くて助かりますよ」


「……いやぁ、これは無理だな……」


珍しくゴウは弱音を吐いていた。


「こういう時はな……」


アルベルトはどっしりとその場に構える。

生き物の最期は、最も警戒しなければならない。

追い詰められた時、思いもよらない力を発揮することがあるからだ。


これから来るであろう最期の足掻きに備えた。


「こういう時はな、逃げるしかねぇ!!」


パッと、ゴウがアルベルトに背を向けて走り出した。


「―――は?」


呆気に取られ、アルベルトの身体は硬直した。

そして状況を理解した時、ふつふつと怒りが湧き出してくる。


「どこまで私を愚弄するつもりですか……逃がすわけないでしょう!!」


アルベルトは鬼のような形相でゴウの後を追いかけた。


「それに、さっきから貴方がじじいと呼んでいること、許してないですからねぇ!!」


むしろ、アルベルトにはそこが最も重要だった。


暫くして、アルベルトが逃げていたゴウの背中を捉える。

ゴウは疲れたのか諦めたのか、その場に立ち尽くして下を向いていた。


「渾身の一撃で葬ってあげましょう!!」


そう言うとアルベルトはその場で拳を引いて構えた。

ゴウとの距離はおよそ10メートル。


「【連重歩】!!」


アルベルトはそう叫ぶと、一歩、また一歩と地面を砕きながら【重歩】を重ねていく。

彼が歩みを進める度、その強度は強くなっていた。


「【重歩】は踏み込みで拳の威力を引き上げる技、【連重歩】は【重歩】で引き上げた威力を何重にも重ねる最強の一撃!!」


アルベルトがゴウの眼前に迫った。


その拳からは、絶対的な死が感じられた。


「死ね、反逆者よ!!」


アルベルトが拳を振り抜く直前、目の前で爆発が起きた。

しかし、これから放つ一撃はその程度では止まらない。


「最強の一撃―――【顕武拳】!!」


構うことなく拳が振り抜かれた。


刹那、アルベルトの目に映る全てが消し飛んだ。

音速を超える拳は巨大な衝撃波を巻き起こし、暴風を伴って目の前の全てを吹き飛ばしていく。


後に残ったのは瓦礫すら残らぬ平らな地。

そこにはアルベルトだけが立っていた。


「……ようやく終わりましたか」


アルベルトは構えを解いてため息をついた。


「仕事の多い一日です、全く。これで手当が出るといいのですが―――そんなことはないでしょうね」


自分の不当な扱いに愚痴を垂れていたその時、赤い小さな粒が目の前を泳いだ。


それは風に煽られて暫く舞った後、萎むようにして姿を消す。


「今のはなんでしょうか―――」


ゾクッ、と身体の芯から震えるような気配を感じ、アルベルトは言葉に詰まった。


目の前にはまた赤い小さな粒が舞っている。

しかし、今度はそれが一つ二つと次第に増えていき、雪のように視界を埋めつくした。


「火の粉、ですかね」


皮膚に触れるそれは微かに熱を帯びていた。

周囲の気温も上がっている気がする。

これだけの街の被害だ、どこかで火事でも起きたのだろうと予想する。


「上から降ってきているんですか……上から……?」


そこで、アルベルトは違和感に気がついた。


夜だというのに、辺り一帯が昼のように明るかった。

太陽が真上から照りつけていると錯覚するほどに。


気温とは反対にアルベルトの身体の震えは増すばかりだった。

嫌な気配を感じ勢いよく空を見上げる。


「なん、ですか……あれはっ……!!」


その瞳に映るのは、巨大な炎。


煌々と燃え盛るその炎の塊は、龍のようにうねりを上げていた。


「さっきの一撃は凄かったなぁ、じいさん!!」


どこからともなく声がする。


「範囲攻撃は苦手とか言ってたくせに、このほら吹きじじいが!!」


炎の横にある一つの人影、その正体はゴウだった。

後ろに引いた右手の先に巨大な炎を携えて、遥か上空から急降下している。


「まだ、生きていたんですか……!!」


「お前が拳を振り抜く瞬間、爆発的に炎を放って飛び上がったんだよ!!」


「……なぜ、なぜそこまで抵抗するのですか!!」


「俺はまだ、()()()の信頼を取り戻してねぇんだよ!!」


ゴウは再度位置を確認する。

更地になった地表にぽつんと佇むアルベルト、そのすぐ近くには地下に続く階段があった。

彼の狙い通りの位置。


ここはゴウがシェイムに教えた、地下に続く塔があった場所である。


「……この悪寒の正体は、貴方だったんですね」


迫り来る巨大な炎を目の前に、アルベルトは無抵抗だった。

諦めたのではない、身体が動かないのだ。

恐怖にも似た感情、本能的に恐れているような感覚。


「この街に居たのは、一人ではなかった……!二人目の――」


「灰になって散れ!!」


ゴウは巨大な炎の渦を、勢いよく地上に放った。

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