第三節『二人目』④ ・狼煙・
ゴウの眼前に迫る掌底。
その軌道を見切り、紙一重で回避する。
アルベルトは掌底を鉤爪のように変化させ、回避したゴウを刈り取るように大きく弧を描いた。
しかし、ゴウはその追撃に反応し、バックステップで距離を取った。
「いい反応をしますね」
「そりゃどうも」
戦闘開始から数分、今のような短い攻防が何度も続いていた。
何度か拳を交えても未だに底が知れない。
相手の実力が分からないため、互いに強く踏み込めずにいた。
「まだまだ行きますよ」
「上等だ、来い」
懐に入り込まれるのを防ぐため、ゴウはコンパクトに構えを取る。
そして、決して見失わないようにアルベルトを注視する。
刹那、視界に捉えていたアルベルトが消え、次の瞬間目の前に現れた。
(またこれか……!)
ゴウは右脚で蹴りを繰り出すが、アルベルトの技によって軌道を逸らされる。
それどころか脚を持ち上げられて体勢を崩される。
「あぶねぇ……!」
ゴウは体勢が崩れる勢いを逆手に取り、宙返りをすることで転倒を防いだ。
しかし、まだ着地をしていない彼にアルベルトの掌底が狙いを定めている。
「まずい―――」
咄嗟に魔球を地面に放ち、土煙を立てて煙幕を張る。
その隙に再度距離を取った。
「随分と強気だった割には先程から逃げてばかりですよ、貴方」
土煙の中から、後ろで手を組んだアルベルトが歩いて姿を現す。
その表情には余裕が見て取れた。
「妙な技ばっかり使いやがって。瞬間移動でもしてんのか?」
「私が何をしているのか、見えていないようですね」
「……余計なことを言っちまったな」
「この勝負、私の勝ちです」
アルベルトは警戒もせず堂々とゴウに向かっていく。
どうやら、先程の会話で勝ちを確信したらしい。
「私の【特性】は【武術家】。極めた武術のその一片、貴方にも分かるようにお見せしましょう」
「【特性】ばらしちまっていいのかよ、アルベルトさんよぉ。不利になるぜ」
「構いませんよ。どうせ貴方はすぐ死にますから」
「野郎……!」
ゴウはその場から飛び出した。
一見頭に血が上ったようだが、彼は冷静だった。
アルベルトに冷静さを欠いたように見せるための演技をしている。
(これで少しは油断してくれるといいが―――)
「【縮地】」
アルベルトが一言呟くと、次の瞬間にはゴウの目の前に姿を現していた。
「なに―――」
「特殊な走法で相手との距離を一瞬で詰める技です」
ゴウが反射的に繰り出した拳にアルベルトが手を添えると、その拳はあらぬ方向に振り抜かれた。
「相手の力の方向を操作する【舵取り】」
体勢が崩れたゴウの懐には既にアルベルトが潜り込んでいた。
低い姿勢から繰り出された肘打ちがゴウの鳩尾を的確に捉える。
その衝撃は鳩尾だけに留まらず、全身に伝播した。
「ぐっ……!」
「衝撃を操作する【震拳】」
強烈な痛みと息苦しさが襲う中、ゴウは何とか足場を整えて蹴りを繰り出した。
その蹴りは、アルベルトの体を貫通した。
刹那、アルベルトの姿が煙のようになって消える。
「超速の反応で相手に幻影すら見せる【朧】」
声は、ゴウの背後から聞こえていた。
振り返った時には、アルベルトの拳が眼前に迫っていた。
「強烈な踏み込みで拳の威力を倍増させる【重拳】」
アルベルトの拳はゴウの顔面に直撃。
ゴウは地面を跳ねながら遥か後方に吹き飛んだ。
その身体が瓦礫の山に叩き込まれると、暫くの間大砲のような轟音が響き渡っていた。
「【武術家】の効果は、覚醒時に武術の基礎を習得することと、武術に対する経験値が何倍にもなることです」
アルベルトはまだひとつも傷を負っていない。
ゆっくりとゴウに向かって歩いていく。
「この【特性】の利点は、武術を技術として習得しているために【魔力】を消費しない事ですかね。ジェーの様な範囲攻撃は苦手ですが、1対1なら【一等代員】で最強を争えると思っていますよ」
アルベルトが独り言のように話していると、辺りに笑い声が響いた。
「ははははは!最強か、いいじゃねぇか!!」
瓦礫の中からゴウが姿を現した。
頭から血を流し、満身創痍で笑顔を浮かべている。
「なーに勝った気になってんだじじい!!」
「……まだ随分と元気そうですね」
「ったりめーだ!楽しくてしょうがねぇ!!」
「これだけ一方的な戦いの何が楽しいのやら。自分の状況を理解していないようですね」
「いいや、理解してねーのはお前だ。……さっきの技、俺にはもう通用しねぇぞ」
ゴウは強い眼差しでアルベルトを見据える。
その表情には自信が満ち溢れていた。
「なら、試してみましょうか。……【縮地】!」
再びゴウの視界からアルベルトが姿を消した。
次の瞬間、ゴウの前蹴りがアルベルトの腹部を捉えていた。
「なにっ―――」
「やっぱりな、大当たりだぜ!!」
ゴウは足を腹部に当てたままその場で軽く跳ぶと、もう一方の足で側頭部を蹴り飛ばした。
【縮地】を使いゴウの前に現れるアルベルトは、いつも構えを取っていなかった。
「それを使ってる最中は他のことできねぇんだろ!ならこっちから距離を詰めて足を構えるだけでも、その速度で突っ込めば大ダメージだなぁ!!」
アルベルトは地面に倒れたが、すぐさま立ち上がり体勢を整える。
既にゴウは目の前に迫っていた。
「おらぁ!」
ゴウが繰り出した右の拳を【舵取り】で内側に流し、防御の外れた顔面に掌底を構える。
しかし、ゴウは力を逸らされた方向に体を回転させ、勢いが乗ったまま左手で裏拳を繰り出した。
「力を逸らすなら、それを利用するだけだぜ!!」
「そんな馬鹿な……!」
アルベルトは両手を側頭部に当てて防御するが、ゴウの拳は弱まることなくガードの上から殴り飛ばした。
頭に強い衝撃が加わりよろついたアルベルトに、ゴウは容赦なく追撃する。
その拳はアルベルトを貫いた。
そして、その姿が煙になって消えた。
「いい加減に―――」
いつの間にかゴウの背後にいるアルベルトが拳を構える。
その一撃は怒りに満ち、武術など使われていなかった。
「甘ぇな」
アルベルトが拳を振りぬこうとした瞬間、ゴウを中心に半球状に【魔力】の波動が広かった。
硬い何かがぶつかるような感覚、アルベルトは身体の内部に響くような衝撃を食らった。
一瞬怯んだ隙を、ゴウは見逃さない。
「じいさんこそ、さっきまでの勢いはどうしたんだ?!」
アルベルトに降り注ぐ連撃、連撃、連撃。
【舵取り】で力を逸らす度に、ゴウはありえない体勢から攻撃を繋いでくる。
さらに、ゴウが繰り出す連撃は【舵取り】の勢いに乗って徐々に威力を増していく。
威力も速度も、留まることを知らない。
「言ったろ、お前の技はもう通用しねぇってなぁ!!」
ゴウが最後に放った一撃は、アルベルトの【舵取り】を突破した。
添えられた手をもろともせずに、その拳はアルベルトの顔面に叩き込まれた。
爆発のような衝撃波が走り、それと同時にアルベルトは猛スピードで吹き飛んだ。
瓦礫の山をいくつも突き破りながら徐々に失速し、遥か後方でようやく停止した。
「流石にあの威力なら立てねぇだろ」
ゴウは一息つくと、眉をひそめてアルベルトが居るであろう方向を覗き込む。
「土煙が酷くて確認できねぇな。……ま、大丈夫か」
ゴウは背を向けて歩き出した。
かなり無茶な戦い方をしたせいか、身体が軋む。
拳は血を流し、腕全体が微かに震えている。
「あのじじい、連撃を受けながらたまに拳の威力をそのまま俺に返してやがったな。【震拳】とか言ってたか。……強ぇ」
相手の武術に感心しながら、シェイムとフィリイがいる地下へと向かう。
相手はあのヴァルバロ、少しでも戦力は多い方がいい。
シェイムたちの身を案じていた、その時だった。
背後から強風が吹き荒れた。
「……ほんとに、しつこいやつだな……!!」
見ればそこには、膨大な【魔力】が立ち昇っていた。
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