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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第四章『炎舞』

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第三節『二人目』③ ・不撓・

 時は遡り、地下監獄の上、地上。

瓦礫と化した街の中で、新たな戦いが始まろうとしていた。


 「反逆者が次から次へと……」


後ろで手を組み直立する初老の男は、目の前の男と女を見て面倒くさそうに首を振った。


「フィリイ、動けるか」


「ええ、なんとか」


【一等代員】からフィリイを庇うようにして立つゴウは、短い言葉で問いかける。


彼はここに来る際、後ろにいるフィリイが重症なのを目視していた。

短いやり取りから怪我の状態をより詳細に把握する。

会話ができ、立つこともできる、致命傷には至ってない。


「回復薬は持ってるか」


「ひとつだけなら」


「ならそれを使ってシェイムの所に行ってくれ。……こいつは俺が何とかする」


「……ひとつ、聞いてもいいかしら」


「ん、なんだ?」


時間が無いことはフィリイもわかっている。

それでも、ちゃんと聞いておきたかった。


「どうして来てくれたの?」


一度心が屈した者は戦えない、そう彼女は知っていた。

そういう人を何度も目にしたことがある。

だからこそ、一度は逃げたゴウが本当に戦えるのか、聞いておかなければならなかった。


「……本当に、どうして来たんだろうな、俺は」


ゴウは自分に呆れた様子で苦笑いを浮かべる。


「運命に抗うなんて、俺はとっくの昔に諦めてたんだ。世界は残酷で、運命には抗えない。抵抗したところで、無意味に終わるってな」


瞼を閉じると今でも鮮明に思い出す。

絶望を知った、幼き日の光景を。


黒、赤、そして―――


「……でもな。シェイム、あいつを見て思い出しちまったんだよ。運命に抗う勇気、みたいなのをよ」


「……そう、わかった」


フィリイはゴウの背中をぽんっと叩いた。


「気をつけてね。あの人()、かなり強いわ」


「……ああ、ありがとな」


目の前に立つ男は無傷、ゴウに有利はない。


「それと、あの人におじいさんって言うとすっごく怒るから、()()()言ったらダメだよ」


「……なるほど」


フィリイがこそこそと耳打ちをする。

ゴウからは見えないが、その顔にはいたずらな笑顔が含まれていた。


「何をこそこそと話しているんですか。貴方たち程度私にかかれば一瞬で方が付きます。無駄な抵抗はよしてください」


「とか言って、そこから動かねぇじゃねぇか。俺たちを警戒してるんだろ」


「……」


男はゴウの問に答えない。

目を細めて顎をさすっている。


ゴウが会話をしている隙にフィリイは回復薬を飲んだ。

身体の傷が治癒し、手足に力が戻る。


「来てくれてありがとう。後は任せるわね!」


フィリイは手を振りながら、階段のある塔に向かって笑顔で走り出した。

まるで無防備に、【一等代員】の男を気に止める様子もない。


「全く、私から本当に逃げられると思ってるんですかね」


男は一瞬で【身体強化】を施すと、爆発的な加速をして後を追う。

しかし、その進路を遮ってゴウが立ちはだかった。


「すまねぇが俺の相手が先だぜ、()()()()


「どいつも、こいつも……」


男は俯いて身体をわなわなと震わせる。

地鳴りのような呻き声を上げながら、【魔力】の出力が急速に上がっていく。


「私を、年寄り呼ばわりするんじゃありませんよぉ!!」


「ははっ、マジにブチギレてるじゃねぇか!」


想像以上の成果に、ゴウは思わず笑みを零した。


男は怒鳴りながら膨大な【魔力】を放出させる。

その【魔力】は柱になって天を登り、雲にも届きそうな勢いだった。


「帝君から【顕武(けんぶ)】の名を賜ったこのアルベルト=ツラノス、その誇りにかけて貴方たちを殺します!!」


「来いよ、アルベルトのじいさん!!」


ゴウが戦闘の構えを取った、瞬間。

彼の間合いの内にはアルベルトの姿があった。


「なっ―――」


思考が追いつかないまま、アルベルトの掌底が彼の鳩尾を打ち抜く。

その瞬間、身体を衝撃波が貫通し、周囲の空気を伴って後方の瓦礫を蹴散らした。


打たれた場所だけでなく、衝撃が指の先にまで伝播する。

それは、一撃で全身を砕かれたような錯覚に陥る程の威力だった。


「妙な技だなぁ!!」


咄嗟に反撃しようと拳を繰り出した。

しかし、それは赤子を扱うかのように軌道を逸らされ、さらに心臓に掌底の追撃を受ける。


今度は衝撃が貫通せず、その身体は激しく後方に吹き飛ばされた。


「私を怒らせた貴方たちは、楽には殺しませんよ。その罪に見合うだけの苦しみを受けてから死になさい」


「偉く怒ってるみたいじゃねえか、ご老体。頭の血管切れて死ぬぞ?」


「……特に……特に貴方だけは、許しませんよぉ!!」


アルベルトはまたしても一瞬でゴウとの距離を詰めた。

突然現れたと錯覚するほどの速さで懐に入ると、ゴウの顎に狙いを定める。


ゴウは反応が遅れたものの、今度はその視線の先にアルベルトを捉えていた。

その顔面に拳を振り抜く。


しかし、それは伸ばしたアルベルトの左腕に巻き取られて弾かれた。

その拍子でゴウは体勢を崩す。


対して、アルベルトの掌底は彼の顎を捉えたままだった。


「貴方と私ではレベルが―――」


掌底を突き出す直前、アルベルトは急な危機感を感じて咄嗟に頭を下げた。


刹那、その頭上を鋭い蹴りが切り裂いた。

一度距離を取って体勢を立て直す。


「なんと無茶な体勢から蹴りを……!」


「……【顕武】、だったか?大層な名前じゃねぇか。……ちょうどいい」


ゴウは拳を握り、今一度構えを取り直す。

そして、不敵な笑顔を浮かべながら指を指した。


()を使うことに躊躇しないか、試させてもらうぜ」

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