第三節『二人目』③ ・不撓・
時は遡り、地下監獄の上、地上。
瓦礫と化した街の中で、新たな戦いが始まろうとしていた。
「反逆者が次から次へと……」
後ろで手を組み直立する初老の男は、目の前の男と女を見て面倒くさそうに首を振った。
「フィリイ、動けるか」
「ええ、なんとか」
【一等代員】からフィリイを庇うようにして立つゴウは、短い言葉で問いかける。
彼はここに来る際、後ろにいるフィリイが重症なのを目視していた。
短いやり取りから怪我の状態をより詳細に把握する。
会話ができ、立つこともできる、致命傷には至ってない。
「回復薬は持ってるか」
「ひとつだけなら」
「ならそれを使ってシェイムの所に行ってくれ。……こいつは俺が何とかする」
「……ひとつ、聞いてもいいかしら」
「ん、なんだ?」
時間が無いことはフィリイもわかっている。
それでも、ちゃんと聞いておきたかった。
「どうして来てくれたの?」
一度心が屈した者は戦えない、そう彼女は知っていた。
そういう人を何度も目にしたことがある。
だからこそ、一度は逃げたゴウが本当に戦えるのか、聞いておかなければならなかった。
「……本当に、どうして来たんだろうな、俺は」
ゴウは自分に呆れた様子で苦笑いを浮かべる。
「運命に抗うなんて、俺はとっくの昔に諦めてたんだ。世界は残酷で、運命には抗えない。抵抗したところで、無意味に終わるってな」
瞼を閉じると今でも鮮明に思い出す。
絶望を知った、幼き日の光景を。
黒、赤、そして―――
「……でもな。シェイム、あいつを見て思い出しちまったんだよ。運命に抗う勇気、みたいなのをよ」
「……そう、わかった」
フィリイはゴウの背中をぽんっと叩いた。
「気をつけてね。あの人も、かなり強いわ」
「……ああ、ありがとな」
目の前に立つ男は無傷、ゴウに有利はない。
「それと、あの人におじいさんって言うとすっごく怒るから、絶対に言ったらダメだよ」
「……なるほど」
フィリイがこそこそと耳打ちをする。
ゴウからは見えないが、その顔にはいたずらな笑顔が含まれていた。
「何をこそこそと話しているんですか。貴方たち程度私にかかれば一瞬で方が付きます。無駄な抵抗はよしてください」
「とか言って、そこから動かねぇじゃねぇか。俺たちを警戒してるんだろ」
「……」
男はゴウの問に答えない。
目を細めて顎をさすっている。
ゴウが会話をしている隙にフィリイは回復薬を飲んだ。
身体の傷が治癒し、手足に力が戻る。
「来てくれてありがとう。後は任せるわね!」
フィリイは手を振りながら、階段のある塔に向かって笑顔で走り出した。
まるで無防備に、【一等代員】の男を気に止める様子もない。
「全く、私から本当に逃げられると思ってるんですかね」
男は一瞬で【身体強化】を施すと、爆発的な加速をして後を追う。
しかし、その進路を遮ってゴウが立ちはだかった。
「すまねぇが俺の相手が先だぜ、じいさん」
「どいつも、こいつも……」
男は俯いて身体をわなわなと震わせる。
地鳴りのような呻き声を上げながら、【魔力】の出力が急速に上がっていく。
「私を、年寄り呼ばわりするんじゃありませんよぉ!!」
「ははっ、マジにブチギレてるじゃねぇか!」
想像以上の成果に、ゴウは思わず笑みを零した。
男は怒鳴りながら膨大な【魔力】を放出させる。
その【魔力】は柱になって天を登り、雲にも届きそうな勢いだった。
「帝君から【顕武】の名を賜ったこのアルベルト=ツラノス、その誇りにかけて貴方たちを殺します!!」
「来いよ、アルベルトのじいさん!!」
ゴウが戦闘の構えを取った、瞬間。
彼の間合いの内にはアルベルトの姿があった。
「なっ―――」
思考が追いつかないまま、アルベルトの掌底が彼の鳩尾を打ち抜く。
その瞬間、身体を衝撃波が貫通し、周囲の空気を伴って後方の瓦礫を蹴散らした。
打たれた場所だけでなく、衝撃が指の先にまで伝播する。
それは、一撃で全身を砕かれたような錯覚に陥る程の威力だった。
「妙な技だなぁ!!」
咄嗟に反撃しようと拳を繰り出した。
しかし、それは赤子を扱うかのように軌道を逸らされ、さらに心臓に掌底の追撃を受ける。
今度は衝撃が貫通せず、その身体は激しく後方に吹き飛ばされた。
「私を怒らせた貴方たちは、楽には殺しませんよ。その罪に見合うだけの苦しみを受けてから死になさい」
「偉く怒ってるみたいじゃねえか、ご老体。頭の血管切れて死ぬぞ?」
「……特に……特に貴方だけは、許しませんよぉ!!」
アルベルトはまたしても一瞬でゴウとの距離を詰めた。
突然現れたと錯覚するほどの速さで懐に入ると、ゴウの顎に狙いを定める。
ゴウは反応が遅れたものの、今度はその視線の先にアルベルトを捉えていた。
その顔面に拳を振り抜く。
しかし、それは伸ばしたアルベルトの左腕に巻き取られて弾かれた。
その拍子でゴウは体勢を崩す。
対して、アルベルトの掌底は彼の顎を捉えたままだった。
「貴方と私ではレベルが―――」
掌底を突き出す直前、アルベルトは急な危機感を感じて咄嗟に頭を下げた。
刹那、その頭上を鋭い蹴りが切り裂いた。
一度距離を取って体勢を立て直す。
「なんと無茶な体勢から蹴りを……!」
「……【顕武】、だったか?大層な名前じゃねぇか。……ちょうどいい」
ゴウは拳を握り、今一度構えを取り直す。
そして、不敵な笑顔を浮かべながら指を指した。
「力を使うことに躊躇しないか、試させてもらうぜ」
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