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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第一章『運命』
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第一節『非日常』⑤ ・持たざる者・

 セルティアの頭上にはおびただしい数の大砲が浮かんでいた。

その数50。


残り時間的にもここで勝負を仕掛けなければ勝利は見えてこない。

セルティアに向かって剣を構える。


「あら、まだ諦めないのね。だけど無駄よ、この数からは逃げられないわ。【魔力】を授かることが出来なかった時点で貴方の負けは決まっているのよ」


セルティアは鋭い真っ赤な眼光でこちらを睨む。


無理もない、セフォードの一族では実力こそが全て。

完全実力主義の世界に生まれた彼女にとって、力のない者が自分と同じ学園にいる事が許せないのだろう。


彼女の言う通り【魔力】を持たない事による力の差は埋まらない。

なんせ俺は皆が当たり前に行う【身体強化】すら出来ないのだから。


「きついこと言うなぁ」


うっすらと笑みを浮かべながら両足に力を込める。


「でもな、そんなことくらいで諦められるかよ!」


再び一直線に走り出した。

そもそも【魔力】を持たない俺に出来ることなんて限られている。


ならば方法は一つ。

ただ真っ直ぐに、勝ちをもぎ取る。


「ただ走ってくるなんて負けを認めるようなものね。あたしの勝ちよ!」


セルティアが右腕を前方に真っ直ぐ伸ばすと同時に、大砲は攻撃を開始した。

空気を切り裂き飛んでくる無数の塊。


数が五十まで増えたことで速度はかなりのものだ。

深く呼吸をし、今一度精神を集中させる。


剣を構えたまま、砲弾の波に呑まれた。


「終わりね――っ?!」


そこでセルティアの表情が一変する。

目を大きく見開き、一歩後退する。


「あ、ありえないわ……あの速度の、あの数の砲弾を、斬っているの?!」


その通り。

俺は飛んでくる砲弾を(ことごと)く斬り落としていた。

さらに、先程までは一向に縮まらなかったセルティアとの距離をどんどん詰めているのだ。


「ありえない、【持たざる者】にそんなこと出来るわけないわ!」


「……出来るんだよ、【魔力】が無くてもな」


俺がこれまでどれだけ必死で鍛錬を詰んだと思っている、どれだけ必死で全員を研究していたと思っている。


【魔力】を持たない劣等感など、とうに感じ終えた。

【魔力】を持たない(さげす)みなど、とうに聞き飽きた。


劣っているならば、それを埋める努力をするまでだ。

元より俺は勝つことしか考えていない。


セルティアの弱点、それは操る大砲の数が多くなればなるるほど対象を狙う制度が悪くなる事だ。

五十まで大砲が増えれば、速度が速くても当たらない砲弾が多くなる。

軌道を見極めれば、必然的に対処すべき砲弾は限られてくる。


さらに、弾数が増えたことで威力は落ちる。

威力が落ちるため飛んでくる砲弾を剣で捌けるようになる。

これが、俺の考えていた唯一の勝ち筋。


前半で数の少ない大砲は全て避け、ある程度大砲の数が増えた所でわざと数発を被弾する。

そして数が少なければ当たらない、数が多ければ捉えられるとセルティアに強く吹き込むのだ。

そうする事で作戦へと移行できる。


全ては計画通り。

思い描いていたシナリオがここにある。


「【魔力】が無くても、俺は勝つ!」


砲弾が降り止みセルティアの頭上から大砲がひとつ残らず姿を消した。

彼女との距離はおよそ五メートル。

この距離なら、彼女が【魔力】を使う速度より、俺の剣の方が速い。


「降参しなセルティア」


(うつむ)くセルティアに切先を向け、勝利を確信する。

しかし、彼女は敗北を宣言しようとしない。


「……いいえ、その必要はないわ」


俯いたままセルティアはそう呟く。

彼女の表情が見えず意図が読み取れない。

しかし、この状況で何かができるとも思えない。


降参しないのか、仕方ない。

ならばここで意識を失ってもらうしか――


「ドン」


最初は、訳が分からなかった。

続けざまに大きな音が三回ほど鳴ったかと思うと、俺は地面に激しく叩きつけられていた。


体に力が入らない。

意識が朦朧(もうろう)とする。


(かす)む目で、セルティアを見上げる。

彼女は、俺を(さげす)むように不敵な笑みを浮かべていた。


「驚いているようね、無理もないわ。さっきまで勝ちを確信していたものね。でも残念。さっき貴方が必死に砲弾を斬っていた時、あたしは三式の大砲を用意して上空に打ち上げていたの。貴方があたしと距離を詰めても降参を求めて来るのは予測済みよ?」


まったく、自分が優位になるとよく喋る奴だ。

つまり、俺は読み合いに負けたということか。


これまで見てきた試合でセルティアが大砲を使い終える前に新しい大砲を作ったことは一度も無かった。

だから油断した、作られた大砲は五十個しか無いはずだと。


当然のことを考慮できていなかった、人は成長するのだと。

彼女の【魔力】操作にはまだまだ伸びしろがあるらしい。


「俺も、まだまだってこと、だな……」


言うことを聞かない身体を剣を支えにして無理やり立ち上がらせる。

ダメージが一定数を超えた場合、対象者は自動的に意識を失うようになっている。


俺はもう、意識を失いかけていた。


「……まだ立てるのね、それだけは計算外だわ。だけど――」


立っているのがやっとの俺に、セルティアは堂々と背を向けて距離を取った。

そして、2人の間に身の丈ほどもある大砲が一つ作り出される。


「この威力だと、それも関係ないわ」


絶望的とも思える状況、(かわ)す余力は無い。

真っ黒い口径が俺を睨む。


「……来いよ」


せめてもの強がりを見せ、笑みを浮かべる。

こういう時は信じるしかない。

俺はこれを受けきれる、何がなんでも耐えられる。


絶望する姿を見たかったのか、俺の挑発にセルティアは悔しそうに口を歪めた。


「貴方のそういう所が気に入らないのよ……弱者は弱者らしく、(みじ)めに泣き(わめ)いていればいいのよ!」


彼女の叫びの後、大砲は何の躊躇(ためら)いもなく大きく息を吐き出した。


その塊を剣を盾にして受け止める。


「おおぉおぉぉ!」


全身にありったけの力を込める。

負けない、負けない、絶対に負けない!


踏ん張る足が徐々に後ろに下がり始める。

砲弾を受け止める剣はガチガチと変な音を立てる。

体がバラバラになりそうな衝撃を必死の思いで耐え忍ぶ。


まだか、まだ耐えなければならないのか。

砲弾の威力は弱まることを知らない。

体から徐々に力が抜け始める。


もう、ダメか。


砲弾は弾けて爆風を巻き起こした。

その風圧にセルティアも思わず腕で顔を覆う。


程なくして、吹き荒れた風はその場にあった一切の音を連れて姿を消した。

辺り一帯が静まり返る。


そして、俺はその静寂の中に立っていた。


「なんで……なんで立っていられるのよ!」


セルティアは若干の恐怖を含んだ目で見つめる。


「……言ったろ、俺は勝つって」


呆然(ぼうぜん)とするセルティアに向けて、すかさず剣を投げた。

もう体は動かない。

相手の動揺を利用した最後の攻撃だった。


放った剣は切先で円を描きながら真っ直ぐとセルティアへと吸い込まれていく。

しかし、俺の剣がセルティアに触れることは無かった。


「そこまでだ」


いつの間にか俺とセルティアの間に現れた先生は、剣を空中で掴んでいた。


「先生、いつの間に――」


「シェイム、自分の身体を見てみろ」


先生は俺の言葉を(さえぎ)る。

混乱しながらも言う通りに身体を見てみる。


「なんで……!」


予想外の出来事に目を見開いた。

体には無数の傷が残っていて、傷口は血を流していた。


「こんな事は()()()だが、恐らくシステムに何らかの不具合が起きている。このまま続行するには危険すぎる」


傷を受けないこのシステムだからこそ本気で戦えるのであって、命の保証が出来なければ続行するには危険すぎる。


セルティアが五十式を放った時はペナルティがまだ効いていた。

恐らくシステムに異常をきたしたのは最後の一撃。

システムが正常に機能していたのなら間違いなくあそこで意識を失っている。

それ程の威力だった。


「勝者はシェイムだ。文句はないな、セルティア」


「は、はい……」


先生が下した判断にセルティアは仕方なく従う。

悔しそうではあるが納得がいっていない訳では無さそうだ。


「今日の模擬戦はここまでだ。残りの時間は各自で自習とする。ただし、対人練習は一切禁止だ」


こうして模擬戦は一回戦のみ行われ、その幕を閉じたのだった。

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