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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第四章『炎舞』

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第二節『光無き』③ ・来訪・

 【メルバイン】滞在8日目。


「わ〜!美味しそう!」


「早く食べようぜ!」


目の前に並べられているのはヨダレが出てくるような美味しそうな料理の数々。

大きなお肉が旨味を閉じ込めるようにして焼かれ、テカテカと輝いている。


そして、それと同じくらいフィリイとイギルの目も輝いている。


この店は【メルバイン】の中でも1番美味しいと評判の料理屋で、肉、魚、野菜、何をとっても頬が落ちるような美味しさだ。


「それじゃあ、フィリイとシェイムの昇級を祝して―――」


「「「「いただきます!!」」」」


試合開始のゴングと共に、イギルとフィリイは猛攻を仕掛けた。

手当たり次第に料理を口に放り込むため口がパンパンになっている。


「ふぇひふふん、こふぇへんふおひひひ!」


「何言ってるかわからん!」


「ふぇひふほははくふへよ。へんふふっひまふほ」


「お前もだイギル!」


頼むから2人共落ち着いて食べてくれ……。

さっきからお前たちの勢いに店員さんが目を丸くしてるんだよ。


ほんと、すいませんね……。


―――いや、なんで俺が謝らなくちゃならないんだ!


俺たちのやり取りを見て、ゴウは愉快に、豪快に笑う。


「お前ら、料理は逃げねえからゆっくり食べろ」


四人で美味しいものを食べて笑い合っているのは、楽しかった。


それでも、俺は【メルバイン】での生活に焦りを感じていた。

当初の目的である【天才】を見つけることは未だ達成出来ていない。

それどころか、見つかりそうな兆候すらない。


フィリイの情報が間違いだったか、それとも【天才】が既にこの街を発っていたのか。

どちらにせよ、このまま楽しい日々を過ごしているだけでいいのかと疑問を抱いていた。


もちろん、E級昇格やゴウと共に行っていた【身体強化】の訓練など、この街で得たものもある。

ちなみに早朝の階段ダッシュも、今では頂上まで走りきれるようになった。


そして、何より皆の幸せな顔を見ているとこの生活も悪くないと思うのだ。

いっそ【天才】だということを隠して、【天才】を探すのも諦めて、このまま、幸せなまま皆で生活するのも良いんじゃないかと思う瞬間もある。


「シェイム君、どうかした?」


フィリイが心配そうな目を向ける。

考え込んでいた為、手が止まっていたようだ。


「いや、なんでもない」


俺は再び料理を口に運ぶ。


このまま幸せな日々がずっと続けばいい、心からそう思った。



 ○



 「いやー、お腹パンパンだ」


満ち足りた表情で店を後にした俺たち。

街の異変に気づいたのはその時だった。


「なんだ、妙に人気(ひとけ)が無いな」


どうやらゴウも同じことを思っていたらしい。

昼時だというのに普段から人通りの多いこの通りに殆ど人影が無い。

こんな事はここに来て初めてだ。


その時ふと、強い風が吹いた。

風に乗って何処からか微かな歓声が聞こえてくる。

かなり盛り上がっているようだ。


「行ってみるか」


俺たちは誘われるようにしてその声の残像を辿る。

そして、辿り着いたのは街を出入りする門から伸びる大通り。

その通りを囲うようにして集まった街の人々は、一様に大歓声を上げていた。


()()()()()様万歳!!」


「あなたは正しく【英雄】だ!!」


「我らが【最高代員】様!!」


街人たちは三者三様の褒め言葉を並べる。

きっと彼を褒める言葉が尽きる事などないのだろう。


全身装備(プレートアーマー)の男は馬をゆっくりと歩ませて、歓声に手を振って応えていた。


その体は鎧の上からでもわかるほど筋骨隆々、背丈は恐らく2メートルを超える。

野性味のある堀の深い顔をしていて、頬や鎧から覗く首筋などに怪我の後があり、歴戦の猛者であることが伺える。


「【英雄】ヴァルバロじゃねえか!そんな奴がなんでこの街に……!」


ゴウは少し上ずった声で言う。


「有名な人なのか?」


「有名なんてもんじゃねぇ、ヴァルバロ伝説を知らない奴はこの国にはいねぇよ」


「ヴァルバロ伝説?」


フィリイがキョトンとした顔で問いかけた。


「俺も詳しく知ってる訳じゃねぇが、数年前の侵略戦争で多大なる功績を残したんだとよ」


「そんなに強いのか?」


「……ああ、そのあまりの強さからから【英雄】の二つ名で呼ばれてるらしい。この国では一番強いやつが政権を握るらしいから、今はヴァルバロがこの国の最高権力者、【最高代員】ってことになるな」


「……そんな強い人がなんでこの街に来たんだ?」


「いや、それは俺にもわかんねぇ。それでも【最高代員】なんて滅多にお目にかかれるもんじゃねぇ。運が良かったな」


しっかり目に焼き付けておけよとゴウが念を押す。

それをわかったわかったと軽くいなした。


最近気づいたのだが、ゴウには少し熱くなり過ぎるとこがある。


「世の中には凄い人がいるんだねえ。見れば見るほど強そうだもんね。でも、あの人なんだか少し―――」


フィリイはヴァルバロをじっと見つめた後、少し表情を暗くして言った。


「―――怖いね」


改めてヴァルバロを見る。

先程と変わらぬ様子で顔に似合わない爽やかな笑顔を振りまいていた。

しかし、フィリイが言った言葉の真意は良くわからなかった。


ふとイギルの方を見てみると、彼女は別段興味無さそうに時間を持て余していた。


「見ておかなくていいのか?珍しい人なんだろ」


「珍獣みたいな扱いだな。……いいよ、別に」


そう言ってイギルは再び目線を外す。


「淡白な反応だなぁ」


俺がイギルくらいの時は騎士みたいに強くなる!とはしゃいでいたのだが、イギルは不思議なくらいに落ち着いている。


「なんで急に【最高代員】様がお越しになったんだろうな?!」


「この後【最高代員】様がその事について広場でお話をされるそうだぞ」


不意に前にいる街人の会話が耳に入ってくる。

どうやら今回の訪問は突然のことだったらしい。

そんなサプライズ要素も相まって街人たちは歓喜していたのかもしれない。


「俺達も広場に行ってみよう」


「お、シェイムもファンになったのか?」


「いや、そういう訳じゃないけど」


単に【英雄】と呼ばれる程の人がどんな話をするのかが気になるだけだ。

それに、元より俺は物見高い性格だ。



 ○



 太陽が傾き空が橙色に染まる頃、広場には街人達が詰め込まれたように集まっていた。

そんな人々を【帝君】を象徴する石像が凛々しい顔つきで見下ろしている。


広場には小高いステージが用意されていた。

恐らくあそこに【最高代員】、ヴァルバロが現れるのだろう。

その為ステージの前方には少しでも近くで【最高代員】を見ようとする人達で溢れていた。


その激戦区の少し後ろで陣取り、ステージを眺める。

そんなに近くで見たい訳では無いが、どうせなら正面で話を聞きたかった。


そんな時、突如ゾロゾロと現れた【メルバイン】の兵士達が、自らを肉壁として人混みを掻き分けて細い通路を作り出す。

そして、その中を悠然と歩く男が1人。


「ヴァルバロ様ー!!」


「凄い、ホンモノだ!!」


「次の【ヴァルバロ伝説】を楽しみにしてます!!」


その姿が公然に晒された瞬間、広場は大歓声に包まれた。

余りの熱量に()()()の俺は思わず身を縮める。

この調子じゃ鼓膜がいくらあっても足りない。


兵士の壁の隙間を縫って、伸ばされる手をするりと躱しながらヴァルバロはステージに辿り着いた。

そうしている間にも歓声は鳴り止まない。


気分が高揚して上着を脱いで振り回している人もいた。


どういう心境なんだ……?


ステージに立ったヴァルバロは騒然たる広場を少し見渡した後、両腕をすっと挙げた。

その瞬間、先程までの大歓声が嘘のようにピタリと止んだ。


けたたましく叫びを上げていた民衆は、気づいた時には一様に右手の拳を左の胸に当てて静止していた。

ステージ上のヴァルバロがその姿勢を取っていたからだ。


慌てて俺達も同じ姿勢になる。


「……【帝君】の加護の元に」


ヴァルバロが口を開き重厚感のある声で静かに唱える。


「「「「【帝君】の加護の元に」」」」


ヴァルバロの後に続いて街人達は声を揃えた。

流石にこれは真似出来なかったのでそれっぽく口を動かしておいた。

幸い誰にも怪しまれていない。


「……親愛なる【メルバイン】の民よ。突然の来訪にも関わらず、此度の歓迎を感謝する。帝都から離れたこの街にも、【帝君】の加護が行き渡っているのが(しか)と伝わった」


ヴァルバロは表情を変えずに話を続ける。

人々はそれを一言一句聞き漏らさないようにという気迫で静かに聴き入っていた。


俺はと言うと、そんな前口上はどうでもいいから早く本題に入って欲しい、そんな失礼な事を考えていた。


「然しながら、この街には【帝君】の加護を受けるべきではない人間が混じり込んでいるようだ」


ヴァルバロは表情をそのままに声色を変える。

その一言に、街人達はザワつき始めた。


「加護を受けるべきではない人間……?」


【帝君】を信仰していないっていう事だろうか。


「先日【帝君】より()()を授かった。此度の来訪はそれに基づいたものだ。民よ、心してその天啓を聞くがよい」


広場に再び静寂が訪れる。

しかし、今度の静けさには緊張が混じっていた。


ヴァルバロの言葉から察するに、この街に何か良くないことが起こっているようだ。

それも普段はここから離れた帝都にいるはずの【最高代員】自らが出向く程の。


街人達は固唾を呑んで次の言葉を待つ。

そして、ヴァルバロがゆっくりとその口を動かした。


放たれたのは、短い一言だった。


「……【天才】が、この街に居る」


その瞬間、街人達の間にどよめきが起こる。

その顔には明らかに不安が現れていた。

最早ヴァルバロの話を聴ける状態ではない。


「嘘……だろ……?」


酷い頭痛がして急激な目眩と吐き気が襲う。

身体のバランス感覚が崩れ、後ろに倒れ込みそうになる。


「シェイム君。」


倒れる寸前にフィリイが俺を支えてくれた。

その目は真っ直ぐと俺を見つめている。


「ん?シェイム、大丈夫かよ」


イギルが珍しく少し心配そうに声を掛ける。


「あ、ああ」


「……?」


素直にその心配を受け取ったからか、イギルは不思議そうに俺を見ていた。

確かに、普段ならもっとひねくれた受け答えをしている所かもしれない。


チラリとゴウを見ると、彼は俺がフラついた事にも気づかない程、地面の一点を見つめていた。

その眉間にはしわが寄り、唇を微かに噛み締めている。

握った拳は震えていた。


「シェイム君、どうする」


フィリイが耳元で小さく呟く。

その顔には焦りが含まれていた。


「……今晩、街を出よう」


フィリイに小さく返す。


良く考えれば簡単な事だ。

俺は【セルス】でマークスさんに見つかっているのだ。

つまりは【政魔】に正体を知られてしまったと言う事。

【世界三大兵団】から逃れることなど出来ないというわけだ。


「民よ、何も心配などしなくとも良い。【帝君】と同じ【天才】でありながら人類に厄災を(もたら)し、その顔に泥を塗った【天才】などこの世から完全に消し去ってしまわねばならぬ。……我は、その為にここに来た」


ヴァルバロの言葉で街人達は冷静さを取り戻す。

誰かも知れぬ1個人が同じ言葉を紡いでも何の効力も無いだろう。

しかし、この言葉は【最高代員】から発せられた。

一言で心境を変えられるのは、街人達の彼に対する絶対的な信頼の為せる業だ。


「そうだ、ヴァルバロ様がついてるんだ」


「あ、ああ、大丈夫だ。【天才】は【英雄】様が退治して下さる」


不安を消し去るように、人々は口々に安堵の言葉を並べていた。

広場には穏やかな雰囲気が漂い始める。


着実に事態は収束を迎え始めていた。

そんな中、ひとつの声が広場に響いた。


「【天才】を退治するのは、本当に正しいことなのかねぇ」


余りに場にそぐわないその発言は、はっきりと民衆の耳に届いた。

街人達は次々に顔を氷のように青くしていく。


それもそのはず。

声の主が放った言葉は、()()を授かったヴァルバロの言葉、【帝君】の意思そのものを否定したことになるからだ。


「……今、ふざけた事を言ったのは誰だ」


ヴァルバロが低い声で問い詰める。

その表情は先程までの冷静で厳格な【最高代員】としての顔ではなく、自分に敵対する者を狩ろうとする戦士そのものだった。


一瞬で恐怖に支配された街人達は、普段の温かさなど忘れたかのように冷徹に声の主から距離をとる。


人だかりの中にぽっかりと空間が生まれる。

そして、その中に佇む1人の老婆。


「……お前だな?」


ヴァルバロが殺意の籠った目で見つめるその先に居たのは、俺たちが【メルバイン】に来た日、この広場にある【帝君】の石像について教えてくれた老婆だった。

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