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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第四章『炎舞』

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第一節『第一歩』④ ・森の覇者・

 夕闇が生い茂る木々の隙間をすり抜けて森全体を包み始める。

昼と比べて視界は悪くなり、まるで森全体が人間を追い出そうとしているようだった。


この森には【セルス】周辺と比べてランクが高い魔物が多く生息している。

そして、その森の生態系の頂点に立つのがパララウス。

体長は3メートルを超え、真っ黒な体毛を持つ魔物。

夜の闇はパララウスの独壇場だとも言われる。


「あー、こんなにいっぱい()()()()取れて良かったなー!」


「そうだねー!()()()()がこんなにいっぱいあるなんて凄いねー!」


俺とフィリイは暗くなりゆく森の中を大声を上げて歩いていた。


あの時、俺たちは確かにゴウからクレダケを譲ってもらった。


「……ねえシェイム君、本当にこんなので良いのかな?」


「十分だろ。そもそもこんな作戦上手くいくわけ無いんだから」


俺たちが譲り受けた大量のクレダケは全て長いロープに括り付けられていた。

そして、そのクレダケだらけのロープを俺たちはタスキの様に体に巻き付けている。


さっき会ったばかりの人間に言う言葉ではないと思うが、あいつの頭はどうかしている。

絶対に狂っている。


クレダケをくれる代わりに狩りを手伝ってくれと頼まれた俺たちは、それは妥当な提案だと思い快く引き受けた。

その結果がこれ、ゴウが発案した「移動式(おとり)猟」だ。


初対面の人間を囮に使うなんてあいつは何考えてるんだ?


「大丈夫だ!お前らの安全はこの俺が保証する!任せろ!」


ゴウは俺たちにそう言っていたが問題はそこではない。

まあ、文句を言いつつもこうやって引き受けているわけだけど。


嫌々ながらも作戦を続けていた時、俺たちの背後で何かがガサガサと動いた。

思わずその場に足を止める。


背後で息づく何か。

その重厚な気配からは、その存在が大きなものであると感じられる。

ゆっくりと後ろを振り返った。


「グルルルルゥ……」


そこに居たのは、ヨダレを垂らしながら俺たちを真っ直ぐに見つめる一匹の魔物だった。

大きな体に、黒い体毛。

野生の厳しさで培われたであろうたくましい筋肉。

その風貌は、まさにこの森の覇者と言うのに相応しかった。


「ほ、本当にこんなんで釣られるのかよ……」


見るからに腹を空かせた様子のパララウスは、鋭い牙を覗かせながら俺たちとの距離を徐々に詰める。

低く唸りながら、牙を剥き出しにしている。


「ク、クレダケ食べるくらいだから草食なんだよな……?」


そ、そうだ。

肉食なやつがキノコなんか食うわけが無い。

俺たちは安全だ。

俺は勝手に一歩後退する体に必死に言い聞かせる。


「パララウスは普段は肉食だよ……。でもクレダケだけは特別でご馳走なんだって……」


「で、ですよね……」


フィリイはいつものように豆知識を披露してくれる。

最も、その豆知識を聞きたくなかったと思ったのは今回が初めてだ。


つまりは、パララウスからすれば今の俺たちは最高の料理。

好物が大好物と共に現れたのだ。


パララウスは大きな体をドクンと躍動させると、猛スピードで俺たちに向かって走り出す。


「逃げるぞぉぉぉぉ!!!」


合図と共に全速力で駆け出した。

事前にゴウと決めていたポイントまでの誘導を開始する。


パララウスはその見た目とは裏腹にとてつもないスピードを持っていた。

あっという間に距離が縮まっていく。


「シェイム君、【身体強化】を使おう!」


フィリイの合図で俺たちは身体に半透明の白いオーラを纏わせる。

その瞬間、体が軽くなった感覚があり再びパララウスを引き離す。

これなら問題ない。


「おー、やるなあお前ら!()()()連れてきてるじゃねえか!」


なんだよ「()()()」って!

自信の無い作戦に他人を巻き込むな!


「次はどうするんだよ!」


向かう先の木の上に立っているゴウに向かって叫ぶ。

彼は木から飛び降りると、その場にどっしりと構えた。


「そのまま走り抜けろ!」


目の前に着地したゴウを避けて指示通りに走り抜ける。

後ろを振り返ると猛スピードで向かってくるパララウスを正面から迎え撃とうとするゴウの姿があった。


「おい、無茶だ!」


パララウスは何tという質量を持つ。

そんなのと正面衝突してみろ、きっと全身の骨が砕ける。

相手はただの動物ではない、魔物なんだぞ!


ゴウの身体に【身体強化】のオーラが纏われる。

それを見た瞬間、驚きを隠せなかった。

彼が纏うオーラはそれ程までに精度が高かったのだ。


「こいやぁぁぁぁ!!」


パララウスはその巨体でゴウに飛びかかり、大きな口を開けてゴウに迫る。

ゴウが振るった右腕は迫り来るパララウスの脳天に激突した。

その瞬間、その場に強い衝撃波が広がった。


衝撃で辺りの落ち葉が宙を舞う。

そして、パララウスの巨体は壁にぶつかったかのように弾かれた。

そして数秒の後、ピクリとも動かなくなった。


「っくぅーー!重たかったぜ!」


ゴウは嬉しそうに笑いながら、右の拳をヒラヒラと扇ぐ。

森の覇者に勝利した者は堂々と敗者に近づく。


「気絶してるな」


ゴウはそう言うと前足の中間、胸の辺にある核を破壊してトドメを刺した。

そして、その場に立ち上がると俺とフィリイに礼を述べた。


「シェイムとフィリイのおかげで助かった。ありがとな」


「……ゴウは冒険者なのか?」


俺の口から出たのはゴウの礼に対する返事ではなく、その異質な存在に対する問だった。


フィリイ曰くこのパララウスはD級依頼として出されていた。

だから、ゴウがD級以上の冒険者でその依頼を受諾したと考えるのが普通だ。


しかし、D級冒険者とは何もD級指定の魔物を一撃で仕留められる人のことを言うのではない。

冒険者は三人一組で、同じ等級の魔物一匹と同等とされる。


それで言えばゴウの実力は最早D級では無い。

しかもパララウスは恐らくD級の中でも上級。

つまりゴウはもっと上、C級にすら留まるか分からない。


そんなゴウがこの依頼を受ける理由はなんだ。

わざわざ街の下に降りて依頼をしなければならないのに、もしゴウが冒険者ならあえてD級の依頼を受諾する意味が分からない。


ゴウが冒険者なのか、はたまた街の人を助けたいだけのいい人なのか知りたくなったのだ。


「俺はただの旅人だぜ」


考えを巡せている俺を嘲笑うかのように、ゴウはあっさりと答えた。


「旅人?ならなんでこんな自分を危険に晒すようなとこしてるんだ?」


「おっと、勘違いするなよ?俺は別に街の人のためにやった訳じゃねえ。こいつは俺の……晩飯だ」


そう言うとゴウは馴れた手つきでパララウスの血抜きを始めた。

逆さに吊られたパララウスからボタボタと血が抜けていく。


「こいつの肉は上手いんだよなぁ……!」


ゴウはキラキラと目を輝かせる。

俺は静かにゴウとパララウスから目を逸らした。


普段食べている肉も同じような処理がされているのかもしれないが、その光景があまりにも野性的すぎて食欲が湧かなかった。

それでもやはり慣れているのかゴウは既に腹を空かせているようだった。


しばらくして血抜きが終わると、ゴウは自分よりも遥かに大きなパララウスを背中に背負った。


「こいつを食べさせたい奴がいる。ついでだ、お前たちにも食わせてやるよ」


そう言ってゴウはのそのそと街の方へと歩いていく。

俺たちは、無気力に項垂(うなだ)れながら進んでいくパララウスの背中を追いかけるのだった。

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