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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第四章『炎舞』

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第一節『第一歩』③ ・待ち伏せ・

 「よし、着いた。運び込むから手伝って」


イギルは俺とフィリイにそう指示すると、食料を小脇に抱えて目の前の梯子を登っていく。

しかし、俺たちは食料を抱えたまま立ち尽くしてしまう。

2人で顔を見合わせるのが精一杯だ。


イギルと八百屋の主人とのトラブルの後、俺たちは食料を運ぶ手伝いをする事になった。

彼が自分の家へ案内すると言ったので着いて行ったのだ。


そして現在。

イギルに連れられ森の奥へ進み辿り着いたのがこの場所。

組み立てが甘く下から覗けば中が見えてしまうようなツリーハウス。

それが大きな二つの木を跨ぐようにして浮いている。

お世辞にもこれが家だとは思えない。


しかし、イギルは当然のように食料をその中へと運び込んでいく。

呆然とする俺たちを見るとイギルは呆れた顔をした。


「何やってんだよ、早く持ってきてくれよ」


こいつ手伝ってもらってるのに全く感謝してないよな。


「ここがお前の家なのか?」


当然の疑問を投げかけると、イギルは得意げに言う。


「ばーか、これが家に見えるか?ここはな……俺の秘密基地だ!」


……は?

家に連れていくんじゃなかったのか?


先程にも増して呆然とする俺たちを見て、イギルは不機嫌そうに声を低くする。


「なんだよ、反応薄いな。すげえだろ、これ全部俺一人で作ったんだぜ!」


「いや、そうじゃなくて」


「じゃあなんなんだよ」


「イギル、お前家に案内するって言ったよな?」


問い詰めると、イギルは黙り込んでしまう。

そして、一瞬俯いてすぐにまた顔を上げる。


「……しょうがないだろ。家には、帰りたくないんだ」


イギルは消え入るような声で答える。

目線は全く別の方へ向いていた。


「あー、イギルちゃん、さては家出だな〜?全く、しょうがないなぁ。ご両親が心配しない程度なら、お姉さんが協力してあげよう」


フィリイがその場を茶化すようにふざけた調子で言う。

そして、イギルに声をかけて共に食料を上へ運び始める。


いつの間にかフィリイは「イギルちゃん」なんて可愛がっている。

受け入れるの早すぎるだろ……。


俺はイギルをいまいち責められずにいた。

何故なら、見てしまったからだ。

俯いた時にイギルが心底悔しそうな顔をしていたのを。


きっとイギルは何かを抱えている。

家出だって何か理由があったはずだ。


恐らくフィリイもそれに気づいている。

だからああやって突き放さずに寄り添っているんだ。


「ったく、おーいイギル、俺にも果物分けてくれよ」


頭上に声をかける。

仕方ない、もうしばらく付き合ってやるか。


「誰がお前なんかに分けてやるかよ!」


イギルは俺を見て憎らしく舌を出した。

あの生意気さが無かったらもう少し同情するんだけどな!



 ○



 昼も終わりを迎える頃、俺とフィリイ、そしてイギルの3人は街の広場に腰を下ろしていた。


「いやー、イギルちゃんのおかげで美味しいものいっぱい食べられたよ」


フィリイは満足そうに胃の辺りをさする。

それを見たイギルは嬉しそうに笑った。


「へへ、そうだろ。この街のことなら俺に聞けばなんでも答えられるぜ」


そう言うイギルはフィリイから凄いと褒められると、さらに得意げに胸を張るのだった。

そんな2人を見て俺は隣で微かに笑う。

2人はすっかり打ち解けたようだ。


日中、イギルの案内でこの街を巡った。

比較的小さな街なので数時間あれば大方見て回ることができた。


観光名所からこの街の絶品グルメ。

確かにイギルはこの街に詳しかった。

自分で言うだけのことはある。


自分が住んでる街の事は案外知らなかったりするものだ。

少なくとも俺は地元を案内してくれと言われてもできる自信が無い。


「そろそろ日が暮れ始める頃だな。フィリイ、依頼の事忘れてないよな?」


「あ、そうだった!」


「何となくそんな気はしてたよ」


フィリイは今日受けていた依頼のことを忘れていたようだ。


俺たちが受けたのはF級依頼のクレダケ20個の収穫。

クレダケとは夕暮れ時にしか姿を表さないキノコの事だ。

街を降りて少し離れた森に生えているらしい。


本当なら昼には街を出て、森で【魔力】について調べる予定だった。

【天才の魔力】について、分からないことが山のようにある。


ティリアと戦った時、俺は確かに【魔力】を覚醒させた。

そして、その時は【天才の魔力】を強く感じていた。


しかしフィリイ曰く、今の俺からは【天才の魔力】を感じないのだそうだ。

さらにあの日以来俺は【覚醒魔力】を使えない。


【覚醒魔力】が使えない事や【天才の魔力】を感じない事がこの腕輪の効力なのか、はたまた別の要因があるのか。

とにかく分からないことが多すぎる。


原因が分からないと、大勢の前で突然【天才の魔力】を発現させる、なんていう危険性がある。

それだけは何としても避けたい。


「そういうわけだから、俺たちはもう街を出るぞ。色々教えてくれてありがとな」


「なんだ、シェイムもちゃんとお礼を言えるんだな」


「イギルはもっとお礼を言えるようになろうな」


日中を共にしていたが、俺に対するイギルの生意気は直らなかった。

半ばもう諦めている。


「気をつけて帰るんだよ」


フィリイがイギルの頭を撫でると、イギルは嬉しそうに笑った。


「フィリイ姉ちゃん、バイバイ」


イギルは手を振ってその場から駆け出す。

あいつ、頭を撫でられて照れてやがったな。


ちなみにイギルは俺を呼び捨てにし、フィリイのことをフィリイ姉ちゃんと呼ぶ。

この差は一体何なのだろうか。


名残惜しそうにするイギルの姿が見えなくなるまで、手を振って見送った。



 ○



 「シェイム君、そっちにはあったー?」


「いやー、こっちにも無さそうだ」


時刻は夕暮れ。

太陽が空を橙に染めている。

クレダケ収穫には絶好の時間。

にもかかわらず、ひとつも見つけられずにいた。


「おかしいな、この辺のはずなんだけどな」


ギルドによるとこの辺りに生えているらしいが、それらしきものが1つも見当たらない。


「もう少し奥の方も調べてみようか」


しばらく進んだところで再び捜索を開始する。

しかし、そこでもまだ見つからない。


もう引き上げようと言いかけた、その時だった。


「シェイム君!あったよ!」


遠くの方でフィリイの興奮した声が聞こえてくる。

いつの間にか離れてしまっていたらしい。


フィリイの元へ駆け寄ると、彼女が指さす先には俺たちが必死に探していたものがあった。


「でかしたフィリイ!間違いない、あれはクレダケだ!」


1つの木の根元辺りに、大量のクレダケがあった。

あれだけ探していたのだから、今の俺には宝の山に見える。


「あんなに密集して生えてるんだな」


俺はクレダケへと近づいていく。


「そうだっけ?ギルドの資料にはそんなこと書いてなかったけど……」


「そりゃあクレダケだって群れたい時くらいあるさ」


「でもやっぱりちょっと変―――」


フィリイが迷わず進む俺を引き留めようとした、その時だった。


突然周囲の落ち葉がガサガサと音を立て始め、地面から大きな網が姿を表す。

その網は一瞬で俺を包むと、木々の間に俺をぶら下げた。


「おわ?!なんだこれ、出れねえ!」


脱出を試みようともがいていると、そこに猛スピードで近づいてくる足音がひとつ。

もがく俺と戸惑うフィリイがいる場所に飛び出してきたのは、一人の男だった。


「やったぜ、こんなに上手くいくとは!我ながら最高の作戦だったな!」


腰に手を当てハッハッハと高笑いをする男。

歳はまだ若い、俺とフィリイと同じくらいだ。


「……お前、誰だ?」


男はフィリイの存在に気づくと、何をしてるんだと言わんばかりの視線を向ける。


「え?!いや、その中に人……」


フィリイは慌てているのか上手く話せていなかった。

しかし、それでも断片的な情報を得た男は、ゆっくりと宙に浮く俺に目を向ける。


「そんな所で何してんだ?」


男は素っ頓狂に答える。


「俺が聞きたいわ!」


なんで俺は罠にかかってるんだ?

クレダケ取りに来ただけなのに!


男は滑車の縄を切ると、俺をどさりと地面へ落とした。

一緒に捕まっていた落ち葉たちが解き放たれて宙を舞う。


「いやー、すまねぇ。まさかこの罠に動物以外が掛かるとは思ってなかったぜ」


「動物じみた思考で悪かったな」


男が差し出した手を有難く受け取る。

俺が立ち上がると、男は再び手を差し出した。

今度は意図が読み取れない。


「俺はゴウってんだ。よろしく!」


「お、おう。俺はシェイムだ」


恐らく握手を求めているのだろう。

戸惑いながらもその手を握った。

正直、今の関係性ではよろしくできないけどな。


握手を交わすと、男はフィリイの所へ行って同じように握手をしていた。


「私たちクレダケを探していたんです。でも、この辺りに全然生えてなくて」


「おお、そういう事か。そりゃ生えてないだろうな。この辺りのクレダケは俺が全部取り尽くしたからな」


なるほど、そういう事か。

なんて迷惑なやつだ。


「そのクレダケ、少し分けてくれないか?」


改めてクレダケ溜りを見ると、その数は優に50は超えている。

それだけあるのにも関わらず、男は俺の提案に首を縦に振らなかった。


「すまねぇな、それは無理だ。こいつは大事なエサなんだよ」


大量のエサと罠。

ゴウは何かを捕らえようとしていたらしい。


「何を捕まえようとしていたんですか?」


フィリイが問いかけると、ゴウはふっふっふと笑った後、悪い顔をして言った。


「俺が捕まえるのはこの森の主……パララウス!」


「パ、パララウス……?」


ゴウは凄いだろと言わんばかりに鼻の下を人差し指でさすった。

しかし、聞き覚えのない名前に俺とフィリイは首を傾げる。

名前を聞いてもどんな生き物なのか見当もつかない。


「なんだよ、反応薄いな。逆にこの街にいてパララウスを知らない奴なんているのか?」


「俺たちは今日この街に来たばっかりなんだ」


俺がそう弁明すると、ゴウは腑に落ちたのか2回ほどコクンと頷いた。


「なら仕方ないな。パララウスは四足歩行で鋭い牙と爪を持つ魔物の事で、この森の覇者と呼ばれている。真っ黒の体毛を生やして俊敏に動き回るんだ。肉食かつ好戦的、体長は3メートルもある凶暴な魔物だ。街の人たちがこの森に来た時、何度も被害に()ってる」


「あ!そういえばギルドの依頼でパララウスの討伐を見た気がする!確か……D級依頼だったはず」


そこまで説明を聞いてフィリイはようやくその事を思い出したようだ。

俺は他の級の依頼を確認していなかったので存在すら知らなかった。


「そんな魔物が、そんな簡単な罠に引っかかるんですか?」


フィリイが足元の罠を指さして問う。


「簡単だと?!これは俺が考えに考え抜いた末ようやく辿り着いた完璧な罠だ!実際に、人間だって引っかかる程だったろ?」


「うっ……」


それを言われると何も言い返せない。

我ながら軽率だったと反省する。


「とにかく、俺たちはクレダケが欲しいんだよ。ちょっとくらい分けてくれてもいいだろ?」


話を逸らすように話題を変える。

そうだ、パララウスなんて知らない。

俺たちはクレダケが欲しいだけなんだ。


「いいや、ダメだね。この完璧な作戦は少しでも狂ったらダメだ。……いや、待てよ……」


断固として拒否を貫いていたゴウが、突然黙って考え込む。

真剣な顔をしていたゴウは、次第にニヤニヤと悪い顔へと変わっていく。

何やらろくでもないことを思いついたらしい。


「わかった、クレダケはやるよ。その代わり……ちょっと俺を手伝ってくれ」


日暮れを告げる夕陽が美しく空を染める。

ゴウの悪そうな笑顔に、俺たちの心には暗雲が立ち込めるのだった。

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