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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第三章『暴露』

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『真の悪』④(2)・ルーディン・

前回のお話の別視点です。

初めて三人称で描いてみました。

読みにくいと感じた方はすみません…

 男は全速力で走っていた。

しかし、彼が駆けている場所は地上ではない。

日夜冒険者が生まれる街、【セルス】を魔物の脅威から守る防衛壁。

男はその上を走っていた。


男の名はルーディン=マークス。

世界トップクラスの戦力を誇る軍隊【世界三大兵団】のひとつに数えられる【政魔】という組織で、第一部隊の隊長を務める。


第一部隊の隊長ともあれば、【政魔】の中でも5本の指に入る屈指の実力者。

そしてそれは、彼自身も理解していた。


自分は強い、並大抵のやつに負けるはずが無いと。

それこそ【政魔】の総副隊長クラスでないと負けることは無いと感じていた。


だからこそ彼は走っていた。


現在、【セルス】は魔物の群れの襲撃を受けていた。

推定千体を超える魔物の群れが街を襲う未曾有の危機。

しかし、その群れはどこか妙だった。


普段街を魔物達が積極的に襲いに来ることは無い。

自分たちの縄張りでは無いからだ。

何より、その群れは数多の魔物で構成されていた。

ルーディンの記憶の中にそのような群れは存在しない。


そんな異常事態を聞きつけ、彼は魔物の討伐をしている冒険者たちに加勢した。

ルーディンが加勢したのは魔物の襲撃が始まって1時間が経過した頃だった。


その時だ。

この街の北側、ちょうど街の人々が避難している方角で、【天才の魔力】を微かに感じたのだ。

更なる非常事態に、彼は魔物の群れを即座に片付けると【魔力】を感じた方へ走っていた。


彼ら【政魔】の目標は世界平和。

そして、そのためには【天才】を消す必要がある。


【天才】は世界に混沌と厄災をもたらす。

【天才】はこの世に存在してはいけない。


ルーディンが【天才】がいると確信した理由のひとつには、あの魔物の群れも含まれていた。

彼が倒した魔物は等しく黒い煙のような物になって消えていった。

彼はそれが【闇の魔力】だと知っていた。


【闇の魔力】を使う人間がいる組織はただ1つ、【闇の一族】だけだった。

その組織は【最終戦争】があった時代、【反天才軍】のリーダーであった男が率いている。

【闇の一族】がこの街に居るということは【天才】が存在することの根拠にもなりうる。


【政魔】と【闇の一族】は完全に対立している訳では無かった。

【政魔】が掲げるのは世界平和。

そして、その為には【天才】を排除する必要がある。


一方、【闇の一族】が掲げるのは【天才】がいない世界、真の自由を人類に与えることだった。


両者ともに【天才】を排除するという点においては同じ考えを持っているのだ。

しかし、【闇の一族】は【天才】を消すためなら手段を選ばない。

そしてそれは、しばし一般市民にも害が及ぶ。


世界平和を掲げる【政魔】としては、関係のない市民が巻き込まれるのは容認し難い。

その為、【政魔】は【闇の一族】を完全な協力関係にはなかった。


ルーディンが北門近くまで来た時、壁の外側が白く輝き地響きを立てる。


「【天才の魔力】だな」


ルーディンはそう確信した。


避難していた街の人々は外で起こっている事態に怯え、肩を寄せあって震えていた。


しばらくして防衛壁の最北部に着いた彼は、防衛壁を強く蹴って街の外へ跳んだ。

そして、勢いよく地面に着地する。


砂埃が収まり視界が開けた先には一人の少年と、血溜まりの中に倒れる少女の姿があった。

そこでふと、ルーディンは気づく。

あの少年にはどこかで会った記憶がある。


彼はすぐさま記憶を辿る。

そして、直ぐに答えを見つけ出した。

それは金髪の冒険者と兵士達が乱闘を起こしかけていたのを止めた時だと気づいた。


ルーディンはあの時、今目の前にいる少年を見て違和感を覚えたのだ。

特に目立った服を着ているわけでも、強力な【魔力】を放っている訳でもない。

それでもルーディンの記憶にはその少年の姿がはっきりと焼き付いていた。


それは何故か。

答えは今わかった。


その少年が、【天才】だからだ。


「魔物が攻めてきてるって聞いたからそっちを手伝ってたのに、北の方から【天才の魔力】を感じるんだから少し焦ったよ」


ルーディンの目が少年を捉える。


「魔物の群れはほとんど壊滅させてきたから向こうは大丈夫だと思うんだけどね。死傷者はそれなりにいるみたいだけど……問題はお前だ」


【政魔】として最も大切な瞬間。

【天才】を殺すチャンス、失敗は許されない。


「遂に化けの皮が剥がれたな。逆に今までどうやって隠れていたのかが気になる。あの時の違和感は正しかったというわけだ」


ルーディンは疑問に思っていた。

今この少年からは【天才の魔力】をはっきりと感じる。

しかし、少年に初めて会った時には全く感じなかった。

それは何故だろうか、と。


ルーディンは知らなかったのだ。

彼の目の前にいる【天才】が、【天才の魔力】を抑えることが出来る腕輪を身につけている事を。

その腕輪は少年の父が彼に(のこ)した、正しく愛の造形だった。

そして今、少年は腕輪の効力と引き換えに【魔力】を覚醒させたのだ。


「貴方の狙いは俺なんですよね……だったらお願いします、彼女を助けてください。どうか、お願いします」


少年はゆっくりと姿勢を低くしていき、最後には両手両脚を地面に着いて、頭を地面に着ける。

少年はルーディンに向かって、土下座をしていたのだ。


少年が言う「彼女」とは血溜まりの中に倒れる少女の事だろう。

血の量を見るに、そう()()()()

【天才】はその少女を助けてくれと懇願しているのだ。


その姿を見て、ルーディンは一瞬混乱する。

目の前にいるのは確かに【天才】だ。

世界に混沌と厄災をもたらす【天才】の1人だ。


そいつがたった1人の命を救うために、プライドも何もかもをかなぐり捨てて助けを求めている。

その姿はルーディンが想像する【天才】とはかけ離れていた。


しかし、ルーディンはすぐさま我に返った。

騙されるなと自分に言い聞かせる。


【天才】は人類の敵だ。

現に先代の【天才】は世界を巻き込む戦争を起こしている。


きっと先人たちも【天才】のこういう姿に騙されたのだ。

だからこそ【天才】の本性に気づけず、戦争を食い止める事が出来なかった。

もう、同じような悲劇は繰り返させない。


「……何を言ってるんだ、お前」


何を言っている、【天才】。

【天才】は人類の敵、【天才】が人間の命を大切に思っている訳がないだろう。

そうだ、あれは()()だ。


ルーディンはこの【天才】に、こう演技すれば同情を買えるだろうと思われた事が腹立たしかった。

そして同時に、そうやって狡猾なまねをする【天才】が憎らしかった。


「そいつがお前にとってどんな人なのか、なんて知らん。ただ一つ分かることがあるとするならば、【天才】に庇われる人間なんて【天才】同様に無価値だと言う事だ」


そうだ、きっとあの少女はこの【天才】の協力者なのだ。

だからこそこの【天才】は庇っているのだ。

ルーディンはそう結論づけた。

【天才】の味方なら、構うことは無い。


「俺は昔から……【政魔】に憧れてました。強い力と高い志でみんなを守るかっこいい人達だって」


少年がゆっくりとその場に立ち上がる。

ルーディンは少年が何故今そのような事を言ったのか理解できなかったが、すぐにそれが嘘だと気づいた。

【政魔】は【天才】排除に向けて大きく活動している。

そんな【政魔】に【天才】が憧れを抱くなどありえない話だ。

またこいつはくだらない小芝居をしている、そう思った。


少年は両手を広げ、倒れる少女の前に立つ。


「彼女だけは、必ず守る」


【天才】のその言葉を聞いて、ルーディンの怒りはさらに膨れ上がった。


彼は自分が強いことに自覚があった。

むしろ、その自信が強さに繋がっていると言っても過言ではない。


そんな彼に向かってあの【天才】は()()と言ったのだ。

つまりそれは、ルーディンではあの【天才】を倒せないという事を意味する。


「……守る、だ?【魔力】も未熟なお前が、俺を相手に守るって言ってんのか」


ルーディンは今まで最小限に()()()()()【魔力】を放出する。

膨大な【魔力】を【身体強化】に練り上げる。


昔【天才】が特別視されていたのは周りの人間が【魔力】を持っていなかったからに過ぎない。

現代において【天才】は強さの証ではない。

やはり【天才】は未だに自分たちを特別だと勘違いしている。

そういった考えが人類に災いをもたらすのだ。


「守ってみろよ。お前諸共消し飛ばしてやる」


ルーディンは放出していた【魔力】を右の拳に集中させる。

彼の【特性】、それは【一点突破(スパイク)】。

【魔力】を一点に集中させた時、その【魔力】は本来の何十倍にも膨れ上がる。


一撃の威力で言えば【政魔】の中でもトップクラス。

この【特性】でルーディンは一番隊の隊長にまでのし上がった。


【天才】の後方には街がある。

そこまで被害を出す訳にはいかない。

ルーディンはちょうど【天才】がいる範囲までを消し飛ばせるように【魔力】を調節する。

出力は充分、確実に仕留める。


「消えろ、【天才】」


ルーディンは拳を突き出して【魔力】を繰り出した。

目の前の景色が徐々に消えていく。


【天才】は抵抗しようとしない。

完全に殺った、ルーディンはそう確信した。


次の瞬間、目の前が一瞬眩しく煌めいた。

そして、強烈な【魔力】がルーディンを襲った。


急速に迫るその【魔力】は一瞬にして彼を包み込む。


訳が分からないまま咄嗟にルーディンは自らを高濃度の【魔力】で包み込み衝撃を和らげるが、それでも威力を抑えきれない。

自分の何百倍もの質量を持つ物がぶつかってきたような衝撃。


僅か一瞬の出来事の後、ルーディンは大きく(えぐ)れた地面に倒れていた。

幸い意識を保っている為、すぐさま【天才】がいた方向を確認する。


自分がいる場所と同じように抉れた地面。

しかし、そこに【天才】と少女の姿は無かった。


――逃がしてしまった。

ルーディンはそう直感した。


たった今ルーディンを襲った【魔力】を、彼は誰よりも知っていた。


「……俺の技だ」


上体を起こしたルーディンは、そう呟いた。

ルーディンを襲ったのは、紛れもなく彼が繰り出した技だった。

普段から使い慣れているからこそ間違いないと言いきれる。


目の前が煌めく直前に見た景色を、ルーディンは受け入れられずにいた。

彼の技は確かに【天才】を飲み込もうとした。


しかし、その直前。

【天才】の前に飛び出したのは血溜まりの中に倒れていたあの少女だった。

苦痛の表情で彼女が両手を前に突き出すと、辺りが一瞬明るく煌めいた。

そして、ルーディンは自分の技を喰らったのだ。


彼の予想通り、あの少女は【天才】の味方だった。

しかし、そうなると厄介なことになる。


何度も繰り返すが、ルーディンは屈指の実力者。

あの少女はルーディンの技をそのまま弾き返したようにも見えた。

それがもし事実だとしたら、彼女の【魔力】は非常に危険だ。


そんな力を持った人間が【天才】側についたとなると、あの【天才】を殺すのが難しくなる。


「なんだったんだ、あいつら」


ルーディンは力尽きたようにパタンと上体を倒す。

視界いっぱいに星空が広がる。


彼は総隊長にどのように報告しようかと頭を悩ませた。

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