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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第三章『暴露』

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『真の悪』③ ・天才・

 「最後のは、流石に(こた)えましたよ」


頬の傷口から垂れる血を拭い、ティリアは口角を吊り上げた。

フィリイに刺した剣から手を離し、その場から数歩離れる。


彼女は刀を伸ばしたまま動こうとしない。


「貴方の負けです」


ティリアはフィリイを蹴り飛ばす。

攻撃を防ぐこともせず、呆気なく彼女は地面に転がった。


長い髪が顔を覆い、表情が見えない。


フィリイは胸郭をゆっくりと上下させていた。

まだ息はある。


地面をぐっと掴むようにして痛みを堪えるその手には、砂が溜まっていた。


彼女は腹部に剣が刺さった状態でもなお戦おうとしている、そう感じた。


まだ、負けてない。


「さあ、ようやく貴方の番ですねえ」


ティリアは倒れたフィリイから目を離して俺に向き直った。

奴の声がどこか遠くに聴こえる。


「最初に貴方はなぜ街の人間を狙うのかと聞きましたよねえ。教えてあげましょう……貴方がこの街に居るからですよ」


そうだったのか。

俺が危険に晒したのか。


「貴方が存在することを許容する人間なんてクズも同然、これっぽっちの価値もありませんからねえ」


俺が居たせいで、街の人たちが恐怖したのか。

俺が居たせいで、冒険者たちが死んだのか。

俺が居たせいで、フィリイが重症を負ったのか。


「俺の……せいなのか……」


存在するだけで周囲を危険に晒し、そのくせ護りたいものを護る力もない。


ならば俺に生きている価値はあるのか。

俺が今、ここに生きている意味はなんだ。


「全部貴方のせいですねえ。あれもこれも貴方が存在しているから……貴方が【天才】として生まれてきたからなんですよねえ!!」


ティリアは耳障りな高笑いを上げた。

黒い感情が俺を支配していく。


「シェイム……君が……【天才】……?」


フィリイは消え入るような声でそう呟いた。


彼女の瞳が俺を見る。

信じられないものを見るような目で、俺を見る。


彼女の目的は【天才】を殺すこと。

そりゃあ驚くよな、自分が殺したい相手がずっと横に居たんだから。


「……そうだ、俺は【天才】だよ。神に選ばれた、人類の敵だ」


「そん……な……」


「存在しているだけで罪を背負って、生きているだけでみんなを傷つける、人類の敵だ」


この世に生まれた時から運命は決まっていた、だから仕方ない。


セルスの街の人たちが、危険に晒されるのも仕方ない。

大勢の冒険者が、殺されるのも仕方ない。

フィリイが、大切な人が目の前で傷つけられるのも仕方ない。


「ようやく自分の存在が間違っていることに気づいたようですねえ。今なら分かるでしょう、貴方はここで死ぬべきなんですよ」


俺の人生が、ここで終わるのも仕方がない。


「……そんなわけあるか」


怒りが心の奥底から湧いてくる。

燃えるような思いが膨らみ続け、心から溢れだしてくる。


「俺が死んではい終わりって、そんな簡単に片付けて、良いわけないだろ……!」


俺が原因で傷ついた人や死んでいった人がいる。

なら俺が死ねば、贖罪になるだろうか。

……いいや、そんなことでは償われない。


ティリアはきっと、俺を殺しても街の人たちや冒険者たちを皆殺しにするだろう。


なら殺されるなんて、それはあまりに無責任だ。


「俺が今すべきことは、お前に殺されることじゃない。これ以上犠牲が増えるのを、防ぐことだ!!」


力が溢れてくる。

自分を中心に大気が震えているのがわかる。


「【天才】を選ぶ神が本当にいるなら、この際なんで俺が選ばれたかなんて、もうどうでもいい……選んだんなら、その力を使わせろ」


俺に、現在(いま)を守れるだけの力を。


「ティリア、お前を倒す!!」


身体の中で何かが弾けた。

今まで感じたことの無い感覚、身体がいつもより軽い。

拳を握る指先はいつもより力強く、髪の毛の先まで力が(みなぎ)っているようだった。

自分の中の【魔力】が手に取るように感じられる。


「凄いですねえ……これが噂に聞く【天才の魔力】ってやつですか。身体の奥底まで響く、本能的に恐れているんですかねえ……!」


見れば、ティリアは固い笑みを浮かべながら身体を微かに震わせていた。

無意識に一歩後退している。


【天才の魔力】を本能的に感じ分けられるという話は、どうやら本当だったようだ。


今この時、俺の【魔力】は()()した。


「これ以上お前の好きにはさせない!!」


【身体強化】とは違う光り輝く【魔力】を纏い、力一杯地面を蹴った。

その瞬間、身体は瞬く間に加速する。

自分でも驚く程に速い。


繰り出した拳はティリアの顔面を捉えた。

ぐにゃり、と生々しい感触がした。


初めての手応えに歓喜する気持ちを抑え、そのまま拳を振り抜いた。


ティリアは無抵抗のままなぎ倒され、何度も地面を跳ねながら転がっていく。


殴り飛ばされたティリアはすぐさま身体を起こして【魔力】の塊を5つ放って反撃する。


急速に迫るそれらの軌道を全て見切り、被弾することなく再びティリアに肉薄する。

一瞬見えたその顔には、恐怖の色が浮かんでいた。


反応が追いついていないティリアを力一杯蹴り飛ばす。

奴は為す術もなくただ攻撃を受けていた。


「そんなに弱かったのか、お前」


「急に強くなり過ぎですねえ……!これならどうですか!!」


ティリアが手を伸ばすと、【闇の魔力】から何十体もの魔物が誕生する。


「やっぱりお前の【特性】だったか」


「私の【特性】は【傀儡(マリオネット)】。街を襲わせているものとは比にならないくらいの【魔力】を込めて作りましたからねえ、簡単には倒せませんよ!!」


ティリアは意気揚々と叫ぶ。


目の前の魔物の群れに向かって、ゆっくりと右手を伸ばす。

あれだけ操ることができなかった【魔力】の使い方が、手に取るように理解できる。


「俺の存在が周りを傷つけるなら、危険に晒した人は全員、俺がこの手で守りきってやるよ」


これは、その為の力だ。


この先どんなに暗く長い闇が待っていようが関係ない。

これは、それを切り裂く為の光だ。


伸ばした右腕に膨大な【魔力】が集まっていく。

それは高密度のエネルギーへ姿を変え、眩い光を放ち始めた。


「【闇の一族(お前ら)】がどんな手を使おうと無駄だ。俺の運命は、俺が決める!」


凝縮されたエネルギーが手のひらから前方へと放たれる。

広範囲に広がる光線となったそれは、ティリアが出現させた全ての魔物を飲み込んだ。


視界が開けると、そこに居たのは悔しさで顔を歪めたティリアただ一人。

奴のあんな表情を見たのは初めてだ。


「どうやら出し惜しみをしている場合では無いようですねえ」


ティリアの身体から夜の闇よりも更に黒い【魔力】が溢れ出す。

霧のように揺れ動くその【魔力】は次第にティリアの身体に纏い始めた。


「【黒纏憑依(バースト)】」


ティリアがそう呟くと、漂っていた黒い霧が四散する。

残った霧は彼の身体を均一に黒く包み込んでいた。

それは【身体強化】のオーラによく似ている。


先程までのティリアが放っていた【魔力】とは明らかに()()()()


「この技を使うのは初めてですよ……体に強い負荷がかかると聞いていましたが、むしろ最高の気分ですねえ!!」


咄嗟に危機を察知した俺は【魔力】を球体にして勢いよく放った。


ティリアはそれをニヤついた顔で躱した。

そして、次の瞬間、こちらに向かって()()()()()


飛ぶというのはあながち間違いではなく、ティリアは一度地面を蹴っただけでありえない距離を低滑空していた。

勢いよく迫るその姿は正しく飛んでいるようだった。


勢いに任せて荒々しく振り抜かれた拳をその場から飛び退いて躱す。

ティリアは勢いそのままに地面を殴り、その衝撃で地面が抉れた。


「随分楽しそうだな……!」


「ええ、貴方を殺すのが楽しみで仕方ありませんからねえ!!」


ティリアは視線の先に俺を捉えると、【魔力】の球体を複数放った。

すぐさま【魔力】で全てを相殺する。


黒と白の球体がぶつかり発生した煙の中から、ティリアが飛び出した。


超速で迫る拳を見切り、それを左手で受け止める。

空いていた左手で攻撃をしようとした瞬間を見逃さず、動き出す前に手首を掴んでそれも阻止する。


お互いの力が拮抗し、硬直状態になった。

どれだけ押し込んでも動かず、少しでも力を緩めれば押し込まれる。

一瞬の気の緩みも許されないような緊迫感が漂う。


「先程までの勢いが嘘のようですねえ!!」


「うるせぇな――」


刹那、頭に強い衝撃が加わり、景色が瞬いた。

ティリアによる強烈な頭突きだった。


一瞬身体が怯んで力が抜ける。

その隙に逃れたティリアは蹴りを繰り出し、それが見事に脇腹を捉えた。

宙に舞った身体は木を数本薙ぎ倒して進んだが、多少の痛みと息苦しさを感じる程度で命に別状は無い。


どうやらあの時とは違うらしい。


「楽しいですねえ!もっと、もっと続けましょうか!」


狂った笑顔を浮かべながら肉薄するティリアを容赦なく蹴り飛ばした。


「耳障りなんだよ」


ティリアは後方の木に激突してその場に崩れた。

すかさず【魔力】を数弾撃ち込み、それと同時に走り出す。


【魔力】が全弾ヒットした後、追い打ちをかけるように拳を叩き込む。

ティリアは木々を薙ぎ倒しながら吹き飛んだ。


辺りに土煙が立ち込める。

低く、重い地鳴りが暫く鳴り響いていた。


土煙が引いた後に残っていたのは、変わり果てた地形と瀕死になったティリアだけだった。


ゆっくりと歩いて近づいていく。


「ハハ、まさか【原始の魔力】とは……す、少し驚きましたねえ……」


虫の息だと言うのに、ティリアは俺を嘲笑い憐れむような視線を向けてくる。

どこまでもブレない奴だ。


「あ、貴方がどれだけ足掻こうと……あの御方が居られる限り……【天才】に未来など、ありません……」


細かく息を継ぎながらティリアは言葉を紡ぐ。

奴は先程も「あの御方」と口にしていた。

誰のことなのだろうか。


「お前が言う『あの御方』って誰だ」


「……ひとつ、いい事を教えてあげましょう……以前貴方がいた学園が……ありますよねえ。ゴホッ……せ、先日、そこに【十八将】の一人が……向かいました……」


「……は?」


ティリアは俺の問いに答えなかったが、代わりにとんでもないことを告げた。


胸の中がザワザワと(うごめ)く。

焦りと絶望が入り交じり頭をぐちゃぐちゃにする。


「……おい、冗談はやめろよ。そんな訳ないだろ……そんな訳ない!!」


「このタイ、ミングで……私が、嘘を言う……とでも……」


「俺はもうとっくにそこを離れてるんだぞ!なんで攻撃する必要があるんだ!!……答えろ!!」


ティリアの胸ぐらを掴んで引き上げる。

身体に力が入らないのか、されるがままに足を引きずらせていた。


「せ……先日報告がありましてねえ……学園の生徒は……一人……残らず……死んだ……そうですよ……」


身体が硬直し、思わずティリアから手を離す。

頭の中に、懐かしい友の顔が()ぎる。


「ああ、嘘だ。やめろ、やめてくれ……みんな、みんな良い奴だったんだ」


これからの将来を夢見て頑張って、大変な生活の中でもくだらないことで笑いあって。

学級委員長のズベルフも、テストが全然出来なかったノディックも、あんなに強かったセルティアも、そして、唯一の幼馴染のマーラも。


「お前らは、あいつらまで奪ったのかよ。なんで、なんでそんなこと!!」


自然と涙が止まらなかった。


何が全員守る、だ。

もう既に何人の犠牲者を出したんだ俺は……!


「……こ、これも全部……貴方の……せいですねえ……」


「うるせぇぇえ!!」


俺は大きく腕を振りかぶる。

しかし、ティリアはその一言で息をするのをやめた。


冷たくなりつつあったティリアは、突然黒い風となってその場に吹き荒れ四散した。

そこには、もう何も残っていなかった。


「……クソ野郎ぉぉぉ!!」


右手を振りかぶったまま、動けなかった。

怒りをぶつける場所を、見いだせなかった。


今更後悔したところで、もうあいつらは戻ってこない。

失われた命は(かえ)って来ない。


怒りと虚しさに打ちひしがれていた時、突然吐血する。

全身の力が抜けてその場に倒れ込んだ。


「俺は……あいつらを護れなかった」


身体以上に、心が重い。


これから先、俺はどう生きていけばいい。

何を思って過ごせばいいんだ。

あいつらが死んで、俺がこの先も生き続けているのはどうしてだ。


罪悪感や無力感、絶望が押し寄せて胸を押し潰した。


「もういい。もう、いい。俺に生きる価値なんて――」


朧気とする視界に、血を流して倒れるフィリイの姿が写った。

ティリアの剣が消滅したことによって、傷口を塞ぐものがなくなり出血がより酷くなっている。


ふらつく身体を無理やり立ち上がらせ、ゆっくりとフィリイの方へ歩む。


「フィリイ……だけは……」


救えるものなら、まだ目の前にある。

彼女だけは、何がなんでも救ってみせる。

絶望するのも、死ぬのも、そんなのは後でいい。


今、手の届くところに救える命がある。


ここでフィリイを助ければ、彼女はその後俺を殺すのかもしれない。


それでも構わない。

以前ティリアに襲われた時、彼女に命を救ってもらったんだ。


……今度は俺の番だ。


ゆっくりとフィリイに歩み寄っていた時、突如上空から何かが降って降りた。

後方に落ちてきたそれは猛スピードで地面に着地し、地響きと土煙を立てた。

土煙の中には黒い影がひとつ、ゆらゆらと揺れていた。


「ようやく見つけたぞ」


黒い影は言葉を話す。

男性の声だ。

その声には、聞き覚えがあった。


「確認できていない【天才】は()()()()()()だった。やはりお前だったか」


男が姿を表す。

敵意に塗れたその目を向けてくる。


「なんで……貴方がここに……!!」


そこに居たのはルーディン=マークス。

【世界三大兵団】のひとつ、【政魔】の一番隊隊長を務める男だった。

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