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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第三章『暴露』

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37/69

『真の悪』② ・予兆・

 時刻は夜中の3時。

本来ならば静寂が支配する時間。


しかし、今日だけは様子が違った。

街には非常事態を知らせる鐘が鳴り響き、住人は不安な表情で北へと避難している。

街の兵士が総動員され、避難誘導を開始していた。


街の南側の門を背にして、防衛壁の外側には200人超の冒険者が立っていた。

全員が緊張した面持ちで武器を手にしている。

防衛壁の外側には街灯が無いため、簡易的な松明が作られ所々地面に刺されている。


「ナゼル、こればっかりはあんたのおかげだ。礼を言うよ」


「僕は紳士だからね。困っている人はたとえ生意気なやつでも放っておけないのさ。それに、これは君だけの問題じゃない」


共に最前線に立つナゼルはキザな笑顔で答える。


俺がこの事態に気づいた時、必死に訴えかけても行動に移そうとしてくれる冒険者は多くなかった。

そりゃそうだ。

どこの誰かもわからないやつが叫んだ所で信憑性が増す訳でもない。


困り果てていた時に声を上げてくれたのがナゼルだった。


「僕は参加しよう。紳士として、街の危機を見逃すことは出来ない」


B級冒険者であり、今回の優勝【クラン】の【クランマスター】であるナゼルがそう意思表示をしたのだ。

そのあとは驚くほどスムーズに全ての【クラン】が参加した。

時として知名度というのは力になる。


「おいシェイム。確信を持っていたようだが、何か知っているのか」


同じく最前線にいるディアスが尋ねてくる。

俺たち【月華聖団】も先頭に立っていた。


「ああ……心当たりがあるんだ」


俺は魔物を操る男を知っている。


なぜこのタイミングなのかまではわからない。

そもそもあいつの考えていることなんて分かりたくもない。


「その心当たりってのは――」


「シェイム君、何か聞こえる」


ディアスの言葉を遮り、フィリイが神妙な顔つきで呟く。

その言葉を聞いて周りの冒険者たちは耳を澄ました。


「……なんだ、この音は」


遠くの方で、低く唸るような地鳴りが聞こえる。

その音は次第に大きくなっていく。


「まさか……魔物の足音、なのか」


明かりのない暗闇の向こう、肉眼で捉え切れるギリギリの距離に薄い影が姿を表した。

それはたちまち大きく広がり、ひとつの巨大な生き物のようにも見える。


「ひいっ」


どこかで冒険者の短い悲鳴が聞こえた。

それもそのはずだ。

その魔物の群れは想像を遥かに超える数だった。

千匹を超えるであろう魔物達が狂ったように押し寄せている。


「お、多すぎる……!」


一生のうち、これだけの数の魔物の群れを見る人は世界にどれくらいいるだろうか。


ディアスの顔に緊張の色が映る。

その場にいる誰しもがそうだった。


ある一人を除いては。


「怯むんじゃない!」


周りの空気を壊すように声を上げたのはナゼルだった。


「僕達は誇り高き冒険者だ!君たちの血肉は、これまで培ってきた経験と努力、そして確かな力で出来ている!恐れることは無い、この街を守り抜く実力が僕たちにはある!」


「おおーー!!」


ナゼルの【クラン】を中心に、士気を上げる雄叫びが聞こえてくる。

それにつられて他の冒険者達も気合いを入れて叫ぶ。


「流石だな」


「当然さ」


戦場で一度心が折れた者は二度と戦えない。

生半可な気持ちで戦線に赴いても、脳裏にベッタリと焼き付いた恐怖が津波のように押し寄せ、身体は動かなくなる。


あのタイミングで活気づけることができるのは名の知れたナゼルだけが為せる技。

いや、それは知名度だけでなく、彼自身が持つカリスマ性によるものなのかもしれない。


「この暗闇で姿が見えるということは、もうかなり近い。作戦という程のものでもないが、考えがある。リンディブルネ、君の力が必要だ」


ナゼルは真っ直ぐにリンを見つめた。

その表情は、【最果ての古城】で見たような憎しみだけが込められたものではなかった。


今回の件を通してリンがナゼルのトラウマを乗り越えたように、彼の中でも何か変化があったのかもしれない。

彼の視線に宿るのは優しさ。


……いや、優しさと言うには生ぬるい。

そこにあったのは恐怖すら覚えるほどの圧倒的な信頼だった。


リンの【魔力】の威力を一番よく知っているのはナゼルだ。

一年半側にいて、自分の力に苦悩する彼女を嫌という程見てきたはずだ。


だからこそ、この場面で活躍する力だとわかっている。

その力を、信頼している。


「最初にまずリンディブルネが最高火力で【魔力】を撃ってくれ。それを皮切りに全員突撃する」


ナゼルが短く指示を出す。

お前ならできるだろと言わんばかりの威圧感。

リンはそれを聞いてこくんと頷いた。


【魔杖リタルス】を地面につく。


「【魔杖リタルス】第二形態、【魔力】解放」


ゆっくりと【魔力】を集めている時間はない。

細かな【魔力操作】はできなくなるが、初めからギアを上げて力を解放する。

今は威力優先、大きな力を使うだけなら繊細さはいらない。


【リタルス】が形を変え、リンが【魔力】を溜め始める。

その身体に纏う赤い光を急速に強くしていく。


広大な夜の暗闇にぽつんと光を灯すその赤は、俺たちの士気を高めるには充分だった。


「いきます!【紅蓮咆哮砲(ぐれんほうこうほう)】!!」


リタルスから凝縮された【魔力】が光の線となって射出された。


高速で射出された光線は大気と擦れてキィィィンと甲高い音を響かせる。

そして、それは真っ直ぐと大きな影へと吸い込まれていき、大爆発を引き起こした。


「冒険者よ、自らの力を示せ!!」


ナゼルの合図で、一斉に駆け出した。


俺も戦線へと飛び出す。

瞬く間に視界が魔物の群れで埋まっていく。


正面からやってきたのは狼型の魔物。

飛びかかってきたそれを受け流し、体側を切りつける。

しかし、分厚い毛皮に阻まれ決定打にはならない。


すぐに襲いかかって来た別の魔物を剣を盾にして食い止めるが、剣を越えて鋭い爪が体を貫こうとしてくる。

あまりの力強さにその場から動けない。


「シェイム君、危ない!」


フィリイの声で、真横から長い1本の釘のような角を持った鹿型の魔物が迫っていることに気づいた。

しかし、正面で抑えている魔物がさらに力を込めて押し込んでくる。


まずい……!


その瞬間、鹿の魔物が吹き飛ばされた。

魔物を吹き飛ばしたのは一枚の黒い板。


「随分と不甲斐ないじゃないか!」


助けてくれたのはナゼルだった。

なるほど、彼の【特性】ならば手数が多い。


彼はさらに板を十数個出現させると、それら全てを放つ。

暗い闇夜に紛れて板は四方八方に飛び回る。

周囲の魔物たちを押し返し、一瞬視界が開けた。


開けた視界の先でディアスが魔物に囲まれているのが見えた。

そして、その集団を他の魔物ごと叩き潰そうとしている大きな熊型の魔物。

魔物は腕を振り上げているがディアスはそれに気づいていない。


「ディアス、危ない!」


俺は慌てて走り出す。

しかし、到底間に合わない。


「シェイム、乗れ!」


前方にひとつの板が出現する。

ナゼルの【魔力】だ。


俺は一瞬でその意図を理解した。


板に足を乗せると同時に板は急加速する。

一瞬で魔物との距離を詰めて、正確に剣を振り抜いた。


熊型の魔物は喉を切り裂かれてその場に倒れた。

魔物は動かなくなった後、黒い霧となってその場に四散する。


やはり、懸念は正しかった。

この力は間違いない、あいつだ。


ディアスと背中合わせに立って剣を構える。


「すまん、助かった!」


「【限定依頼】では助けて貰ったからな!」


再び魔物をなぎ倒していく。


戦場は既に激化していた。

至る所で冒険者の悲鳴や血飛沫が上がる音が聞こえてくる。


戦っているのは寄せ集められた即席のチーム。

そもそも統率が取れておらず、陣形や作戦行動などは存在しない。

被害は甚大、戦況は劣勢。


この戦いでどれ程の死傷者が出るだろうか。

そう考えた瞬間、ふつふつと怒りが湧いてくる。


魔物の数も問題だが、想像以上に魔物が強い。

この前の紫小鬼の比ではない。

このレベルの魔物がこれだけいるなら、やがて押し込まれるのは目に見えている。


ここで戦っていても、埒が明かない。


「ディアス、ここは任せた。俺は親玉を探す!」


「親玉?!……よく分からないが、お前が行かなくちゃならないんだな?死ぬなよ、ここは任せて行ってこい!」


ディアスは深く詮索してこない。

背後に感じる背中をとても大きく感じた。


最前線を離れて街の方角を向いて走り出す。


「俺が、やらないとダメなんだ」


今度こそ勝つんだ。

この魔物の群れを操る男、()()()()に。


「シェイム君!」


後ろから声が掛かる。

気がつけばフィリイが追ってきていた。


「フィリイ、なんでここに――」


「シェイム君、洞窟の時の人を探すつもりなんだよね。私も一緒に行く!」


フィリイがティリアに会った時、「かなり強い」と言っていたのを思い出す。

彼女がそう言うのだ、最早あいつは化け物だ


フィリイの目を真っ直ぐに見る。

彼女はわかりやすい、目を見れば直ぐにわかる。

どうやら考えを改めるつもりは無いらしい。


「助かる、行こう!」


フィリイと共に走り出す。


時間が無い、考えろ、考えろ。

あいつは今、何処にいる!



 ○



 魔物との戦闘が繰り広げられている南門の真反対、セルスの街の北門。

そこにある街と外を隔てる防衛壁の門前に、その男は退屈そうに座っていた。


「ティリア!!」


前方に座る男の名を叫ぶ。

その顔を見るだけでふつふつと怒りが湧いてくる。


そんな俺を見たティリアは欠伸をした後、手を天に突き上げてぐいっと伸びをした。


「随分と遅かったですねえ。退屈してしまいましたよ」


ゆっくりとティリアが立ち上がる。

ここにたどり着くまでに一時間程掛かってしまった。


そうだ、もう少し早く気づくべきだったんだ。

なぜ魔物の大群は南側から来ている。

街を襲うことが目的なら、分散して違う場所から襲わせた方が効率がいい。

あのレベルの魔物があれだけいるのなら、分散しても押し切ることが出来たはずだ。


なら何故それをしないのか。

魔物を南から攻め込ませ、住人を北側に集めさせる。

冒険者たちは魔物の群れに、兵士は住人の避難に対応しているため、自分の邪魔をする者は居ない。

こいつの狙いはひとつ。


……この街の住人だ。


「貴方が来る前に殺してしまっても良かったのですが、せっかくなら目の前で殺した方が面白いですからねえ」


「なぜ何もしていない人たちを狙うんだ!!」


本当に、意味がわからない。

彼らが何をした、なぜ罪のない人間が命を狙われる。


「そうよ!どんな理由があろうと貴方がしていることは間違ってるわ!」


隣にいるフィリイも声を荒らげて叫ぶ。

その目には怒りが込められていた。


「おやあ、貴方は……確か洞窟でもお会いしましたねえ。あの時伝えたはずですよねえ、私と戦っても貴方に勝ち目は無い、と。忘れちゃったんですか?」


ティリアは笑顔で答えた。

その表情とは裏腹に強烈な殺気を感じる。

最早それだけで足が後退しそうになる。


「貴方も忘れたのかしら。私は言ったはずよ……やってみないと分からないって」


フィリイが戦闘態勢に入った。

彼女もまた、強烈な殺気を放っている。


本能が闇雲に戦うべきでは無いと大音量で警告している。

フィリイが強いことはよく理解している。

しかし、それでも体から冷や汗が流れ、ねっとりとした嫌な悪寒が体の奥底から伝ってくる。


「フィリイ、まて――」


俺が言い切る前にフィリイは飛び出した。

一瞬でティリアとの距離を詰め、抜刀と同時に下から上へと斬り上げる。


強化された肉体と斬撃による威力で地面が(えぐ)れ、宙には三日月の弧が描かれた。

しかし、その斬撃の軌道上にティリアはいなかった。


「なかなか速いですねえ」


いつの間にかティリアはフィリイのすぐそばにいて、耳元で囁く。


その声を聞いたフィリイはすぐさま声のするほうを斬りつけた。

しかし、既にティリアの姿はない。


「いい反応速度ですねえ。でも、それではまだ遅すぎますよ」


ティリアは元の位置に戻っていた。

まるでフィリイがついていけていない。

おかしい、いくらなんでも速すぎる。


「ならもう少しスピードを上げるわ」


フィリイを包む【身体強化】のオーラがより一層大きくなる。


そして次の瞬間、先程よりもさらに上を行くスピードで動き出した。


最早目で追うのが精一杯だ。

フィリイは連続で何度も斬りつける。

だが先程とは違う。

その剣が狙う先にはティリアの姿があった。


そしてついに、フィリイの刀がティリアを間合いに捉えた。

その軌道上には奴の首が乗っている。

彼女はそのまま全力で刀を横に振り抜いた。


「……やりますねえ」


フィリイの刀がティリアに触れる直前で止まった。

彼女の刀はガチガチと小さく震えている。


どれだけ力を込めても押し込めない。

気がつけば、刀はティリアが持つ漆黒の剣によって防がれていた。


「あら、いつの間にそんなものを持っていたのかしら……!」


そうだ、ティリアはさっきまで何も持っていなかった。

突然剣が現れたのだ。


「無知な貴方たちに教えてあげましょう。あの御方から頂いたこの【闇の魔力】は、万物に姿を変える!」


ティリアから凄まじい【魔力】を感じたかと思うと、ティリアの体から()()【魔力】の波動が広がる。

その波動にぶつかった瞬間、フィリイは勢いよく後方へと吹き飛んだ。


「フィリイ!!」


クソ、俺は何をやってるんだ!

早く加勢に――


「シェイム君!!」


フィリイの大声で俺はその場に静止する。

その気迫のこもった声に足を止められる。


「そこで見てて!申し訳ないけど、今のシェイム君が敵う相手じゃない!この人は私が倒すから、その後はお願い!」


「そんなこと言ったって――」


またもやフィリイは俺の言葉を待たずに戦闘を始める。


彼女に言われたことは、自分でもわかっていた。

今の俺が戦闘に参加したところで何も出来ない。

むしろ護らなければならないものが増え、足でまといになる。


「でも、それでも……!」


ここで見ているだけなんて悔しいじゃないか。

俺は本当に何もできないのか?!


彼女の攻撃はティリアに(ことごと)く防がれていた。

むしろ反撃をくらって血を流している。


このままフィリイがやられていくのを見ていることしかできないのか。


「そんなものですか!」


ティリアはフィリイの刀を弾いてがら空きの腹部に【魔力】の塊を放つ。

黒く、薄く紫に発光するその球体は彼女をいとも簡単に吹き飛ばした。


フィリイの身体は防衛壁に激しく叩きつけられる。

その衝撃で防衛壁の表面が崩れた。

崩れた防衛壁はフィリイと共に地面へと崩れ落ち、瓦礫の山と化す。


一瞬視界に写った彼女は、頭から血を流していた。


ダメだ、今のは流石に致命傷だ。

あんな威力の攻撃を喰らって平気な人間なんて居るわけない。


俺が絶望しかけた時、崩れた瓦礫の辺りから高濃度の【魔力】を感じる。

そして、瓦礫の山が弾け飛ぶのと同時に、白い半透明の巨大なオーラが姿を表した。


「私もまだまだね……結局この技に頼らないといけないんだもの」


そこには刀を納めた状態で構えるフィリイの姿があった。

傷口から血を流し満身創痍の姿。

しかし、その構えを見ただけで俺は希望を抱く。


「まだ何かするつもりですか。なら、とどめを刺してあげましょう」


ティリアもその場で構える。

フィリイを迎え撃つつもりだ。


だが、俺は知っている。

そんなことをしても無駄だ。


彼女の一撃はその軌道上にあるもの全てを両断する。

あの技は誰にも止められない。

ナゼルでさえ反応できていなかったのだから。


「【玉帝龍(ぎょくていりゅう)一刀抜刀(いっとういあい)王龍閃(おうりゅうせん)】!!」


フィリイの姿が、消えた。

次の瞬間、彼女はティリアとぶつかり凄まじい衝撃波を巻き起こした。


その衝撃に思わず顔を覆って、飛ばされないように足を踏ん張る。

二人を中心に風が吹き荒れた。


衝撃の波が引いたあと、辺りには静寂が訪れる。


ぶつかった二人。

次に俺が見た光景は、ティリアの頬を掠める刀と、フィリイに深く突き刺さる漆黒の剣だった。


「フィ、フィリイ!!」


心臓が、ドクンと強くうねる。

俺の中で何かが()()()

次第に体が熱くなる。


力が欲しい。

あいつを、ティリアを倒せるだけの力が……!


もう一度心臓がドクンと強く脈打った。

それは紛れもなく、反撃ののろしだった。

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