第三節『最果て』⑨ ・F級冒険者・
目の前から殺気に満ちた大勢の冒険者達が迫ってくる。
彼らは皆ナゼルの手下達。
当の本人は余裕の表情で後ろから指示を出している。
「この冒険者たちは私が引き受けるから、シェイム君はナゼルの所に行って!!」
「そんな、一人でどうにかできる人数じゃないだろ?!」
フィリイから伝えられた作戦に、動揺を隠しきれない。
彼女は50人の冒険者を一人で相手取ると言っている。
「私は大丈夫!でもナゼルに加勢されると厳しいだろうから、私が戦ってる間だけ邪魔ができないようにして欲しいの!」
「時間を稼ぐってことか」
「うん!お願いするね!」
相手は注目のB級冒険者。
俺が戦って勝てるような生半可な実力ではない。
「……よし、やってやる……!!」
「シェイム君なら大丈夫だよ!それに、終わり次第私もそっちに向かうから、それまで頑張ってね!!」
フィリイは俺を信頼してくれている。
その期待になんとしてでも応えたい。
「今から道を作るから、そこを通って!」
「道?」
フィリイは剣を抜いて【魔力】を刀に収束させる。
そして、溜めた【魔力】を三日月型の斬撃として放った。
冒険者達は斬撃を飛び退いて躱す。
その様子はまるで剣撃が雲を裂いているようだった。
「シェイム君、行って!」
剣撃が通った場所には冒険者達が避けて出来た道があった。
道の向こうにはナゼルが見える。
「ありがとうフィリイ!」
躊躇無くその空間を駆け抜ける。
冒険者達は特に行く手を阻もうとしてこない。
自分たちのリーダーの実力を信じているからだろう。
呆気なくナゼルと対峙する。
「おやおや、レディーを1人にしてしまっていいのかい?あの人数を相手にするのはそれなりに骨が折れるよ」
ナゼルがニタニタと笑いかける。
戦闘の構えすらとろうとしない。
「あんたこそ仲間の心配をした方がいいぞ。フィリイに掛かればあんたの部下たちなんて瞬殺だろうからさ。それに――」
腰に携えた剣を抜く。
重みを腕に感じながら切先をナゼルに向ける。
「俺も負けるつもりなんて無いからな」
ナゼルから片時も目を離さずに集中する。
まだ【身体強化】を完全に使いこなせなくても、集中する感覚は掴めてきた。
相手がB級?
そんなの関係あるか。
こうして対峙した瞬間から相手とは同じ土俵の上だ。
相手をよく見ろ。
呼吸、重心、視線、思考。
戦闘中相手から読み取れる情報は膨大。
その全てを見逃すな。
「上等だ、かかって来い少年」
ナゼルが腰から剣を抜いた。
それを合図に地面を強く蹴って駆け出した。
急加速して正面から剣を振りかぶる。
それを見たナゼルは僅かに剣を構えた。
その微細な動きを見逃さない。
流石はB級冒険者、反応速度が尋常じゃない。
しかし、この上段からの攻撃はフェイク。
反応速度が早いが故に陽動に掛かり、次の攻撃で後手に回る。
剣を振り下ろす直前、俺はナゼルの右側へ高速で移動した。
正面からは有効打にならない可能性が高い。
相手の意識を逸らし、相手の意表を突く。
魔物相手の慣れない戦闘ばかりで忘れかけていたが、元より俺はそういう戦い方だ。
がら空きの脇腹に向かって横薙ぎを繰り出した。
しかし、思いがけずその一撃はナゼルの剣によって防がれる。
「その程度で不意をついたつもりかい」
ナゼルの目は完璧に俺の動きを捉えていた。
剣が頭上に振り下ろされる。
瞬時に反応して剣を躱した。
気がつけば先手を取っていた俺の方が回避に専念している。
やはり強い、少し剣を交えただけで実力の差を感じさせられる。
「これがB級冒険者か……!」
「流石に今のでは決まらないか。僕に立ち向かってきただけの事はある。ここからが本番だ!」
今度はナゼルが駆け出した。
【身体強化】を使っていない様だが、かなりの速さだ。
剣を後ろに大きく引いて構えている。
攻めから転じてすぐさま迎撃の体勢をとる。
今度はどこから来る、全てを想定して対処しろ。
ナゼルの剣に意識を集中させる。
少しでも動いたらすぐに反応して防ぐ。
彼が猛スピードで肉薄した次の瞬間、俺は強い衝撃で後方へ飛んでいた。
息が出来ずに声にならない声がこぼれる。
腹部が鉛のようにずんと重くなり、強烈な痛みが伴う。
ナゼルが繰り出したのは、腹部への蹴りだった。
「相手の意識を逸らすとはこういうのを言うんだよ!」
なるほどな、どうやら相手に次の一手を信じ込ませることが大切なようだ。
それにまんまと騙されたという訳だ。
飛ばされている方向に先回りしていたナゼルは、背中に強烈な蹴りを叩き込む。
今度は海老反りの姿勢で前方に吹き飛ばされる。
「く……そが……!!」
もう既に意識が飛んでしまいそうだ。
ナゼルが再び前方に先回りしているのが目に入る。
そして今度は剣を構えていた。
ナゼルの間合いに入った瞬間、彼は突きを繰り出した。
しかし、間一髪のところで身を翻し、剣でその攻撃を弾く。
空中で体勢を整えナゼルの後方に着地し、すぐさま剣を中段に構えた。
……ギリギリだ。
まだ意識を失っていないのが奇跡。
正直ここまで実力差があるとは思わなかった。
ようやく息を吸い込むことができ、肩を揺らす。
「今のを防いだのは褒めてあげよう。少しは持ちそうじゃないか!」
ナゼルは再び走り出した。
そこからは、本当に防戦一方だった。
ナゼルの高速の連撃を防ぎ、躱すのが精一杯で反撃に移ることができない。
それどころか、攻撃を食らって徐々に身体が重くなり始める。
恐らくこれは学園のシステムにもあったようなペナルティなのだろう。
ダメージを受けた分だけ身体機能が制限されていく。
それにより、受ける攻撃がさらに増える。
「ははは!どうした、そんなものか!」
ナゼルはまたしても俺を蹴り飛ばした。
今度は腕を盾にして直撃を避けたが、それでも威力を殺しきれずに何度も地面を転がった。
あまりの身体の重さに膝を着いてしまうが、剣を支えにして力を振り絞り、無理やり体を持ち上げる。
「そんなわけねぇだろ」
ナゼルとの距離はおよそ10メートル、距離は充分。
「……賭けてみるか」
戦いに夢中になっていた為、どれだけの時間を稼げたかは分からない。
しかし、俺の身体もそろそろ限界だ。
結果はどうであれ次の攻撃が最後になるだろう。
深呼吸をして、ゆっくりと目を閉じた。
「まだなにかするつもりか!いいだろう、このナゼル、お前の全力を受けてやろう!」
ナゼルはその場に構えて動こうとしない。
舐めているのか純粋に戦いを楽しんでいるのかは分からない。
しかし、願ってもない展開だ。
「じゃあ、全力で行かせてもらう」
身体に流れる【魔力】に意識を集中させる。
徐々に体温が上昇し、鼓動が早まっていく。
【魔力】を体外に放出し一定の距離に留め、全身に均等に纏わせるイメージ。
世界が切り取られ必要最低限の情報を掌握する。
……完璧だ。
息を吐き出してゆっくりと目を開いた。
「何かと思えば、ただの【身体強化】じゃないか」
視線の先ではナゼルが余裕の笑みを浮かべている。
それじゃあ、存分に油断してくれ。
「これが最後の一撃だ!」
剣を大きく後ろに引いて、思いっ切り地面を蹴った。
先程とは比べ物にならないスピードでナゼルに近づく。
そして、正面から剣を横に薙いだ。
「キィィィィン!!」
辺りに甲高い音が響く。
音の中心では鮮やかに火花が散っていた。
極限まで集中して【身体強化】を施した一撃は、ナゼルによって防がれた。
「どうだ!お前の全力を防いでやったぞ――?!」
ナゼルは視線を泳がせあからさまに慌てている。
それもそのはず、自分の目の前から敵が消えているんだから。
「終わりだ」
紫小鬼と戦った時、【身体強化】は一瞬しか保てなかった。
しかし、今は違う。
一撃目は陽動、本命は二撃目。
最初と何らやっていることは変わらない。
しかし、剣が交わった瞬間に移動する技術、【身体強化】、この戦いで初めて見せる要素はそれだけで意表を突く材料になる。
そして、「最後の一撃」という宣言。
お前が教えてくれたんだ、相手の意表を突くには相手を信じ込ませることが大事だってな。
「ガチィィィン!!」
硬い音が辺りに響き渡る。
「……?!」
全てを賭けた渾身の一撃。
それは空を切って地面に叩きつけられていた。
そこに、ナゼルの姿は無かった。
「正直、君のことを舐めていたよ」
慌てて声のする方を振り返るが、そこから伸びてきた剣によって吹き飛ばされる。
狙われたのは防具のない場所、本来ならば串刺しになっている程の威力。
……致命傷だ。
案の定、その場から立ち上がることが出来ない。
ナゼルを見てみると、身体に半透明の白いオーラを纏っていた。
「そういえば、まだ【身体強化】使ってなかったな……」
このままではまずい、何とか身体を起こそうと藻掻く。
しかし、システムのペナルティには抗えない。
「君には【身体強化】すら要らないと思っていたんだが、僕もまだまだ相手の読みが足りないらしい。」
ナゼルはゆっくりと歩いてくる。
その間も【身体強化】を保持している。
恐らく万全を期してとどめを刺すまで解かないつもりなのだろう。
参ったな、身体は動かず相手は全く油断を見せない。
残念ながら、こうなってしまった以上勝機はない。
「君はまだまだ強く成れるが……今回は僕の勝ちだ」
ナゼルが振りかぶった剣が、高速で振り下ろされた。
次の瞬間、ナゼルは剣を弾かれて体勢を崩した。
重心を保つために数歩後退る。
「ごめんね、遅くなっちゃった」
声の主は俺を庇うようにして立っていた。
本当にあの数をたった一人で倒してしまったらしい。
「……いや、バッチリだ」
俺の役割は完了した。
ナゼルにとって本当の戦いは、これからだ。
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