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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第二章『初陣』

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第三節『最果て』⑥ ・犠牲と確信・

 「――くん、――イム君、シェイム君!」


はっと、目が覚めた。


「ここは……何処だ……?」


目を開いているにも関わらず、真っ暗で何も見えない。

1寸先どころか自分の身体の輪郭さえ認識できない。


「シェイム君お願い返事して!」


何処からか、今にも泣きそうなフィリイの声が聞こえてくる。

広い空間にいるのか、彼女の声は何度もこだましていた。


「フィリイ、無事か?!」


その場に立ち上がり、大声で叫ぶ。


「思い出したぞ、俺はここに落ちてきたんだ」


恐らく気を失っていたのだろう、あれからどれくらいの時間が経っているのか分からない。


「……シェイム君?!良かった、そこにいるのね!」


「ああ、俺は大丈夫だ!フィリイ、怪我は無いか?!」


あの高さから落ちてきたのだ。

最悪の場合――

頭の中に悲惨な光景が浮かぶ。


「私は大丈夫だよ!シェイム君の近くにリンさんは居る?!私の近くには居ないの!」


そうだ、リンが居ない。

慌てて辺りを手探りで探すが何も見つからない。


「ダメだ、俺の近くにも居ない!」


……まずいな。


この暗闇の中で意識を失っているとしたら、見つける手立てが無い。

心の中に焦りが広がっていくのを感じる。


「どうすれば……!」


「皆さん!わ、私は大丈夫です!」


暗闇の中に、振り絞ったような声が響く。


「リン、リンだな?!無事か!」


今の声は間違いなくリンだ。

声を張れるくらいなのだから、大きな怪我はしていないのだろう。


「今から見える光に集まってきてください!」


再びリンの声が響く。

光?

そんなものがあるのだろうか。


しばらくすると、離れた場所がほのかに光る。

その光は、蝋燭の火のようにゆらゆらと揺らめいていた。

なるほど、その手があったか。


俺は覚束無い足取りで夜光虫のようにその光を目指す。

炎に近づくと、その中心には杖を構えたリンの姿があった。


リンは【魔力】を使う時、眩い光を放つ。

今回はそれに助けられた。


リンと合流した少し後に、反対側にフィリイの姿が映った。


「良かった、皆無事なんだな!」


2人とも見る限り別状はない。

どうやら奇跡的に3人とも無傷で済んだようだ。


「……()()、か……?」


微かに生まれた疑問は、考える度に大きな違和感へと成長する。

いや、おかしい。


「シェイム君、そんなに真剣な顔してどうしたの?」


フィリイが心配そうに見つめていた。

自分がかなり険しい表情をしている事に気が付き、すぐに眉間のシワをとる。


「いや、まだ分からないけど、この古城にはルールがあるんじゃないかなって思ってさ」


「ルール……」


フィリイは俺の言葉を自分の中で何度も反芻(はんすう)しているようだ。

珍しく難しい顔をしている。


「考え込んでいる時にすいません。ここから出る方法を先に探しましょう。私の【特性】は【爆発】、この明かりは副産物に過ぎません。私の【魔力】で照らせる時間はそう長くないです」


リンははっきりとした口調で話す。

先程【魔力】を使った時にも思っていたのだが、どうやら【魔力】を使っている間はいつもより自信のある性格になるようだ。


「確かにそうだな。明かりを出してくれてありがとうリン、助かるよ」


礼を述べると、炎の中のリンが一瞬だけ普段の恥ずかしがり屋な表情に戻った気がした。


「さて、どうしようか――」


ガシャン。


俺の言葉を遮るように機械音が鳴ったのと同時に、空間全体が明るく照らされた。

急に明るくなったせいか目の前が真っ白になり視界を奪われる。


目の奥の痛みを堪えて恐る恐る瞼を開く。

そこには、想像を遥かに凌駕する巨大な空間が広がっていた。


「なんだ、ここは……!」


空間は円柱のようになっていて、大きさはおよそ俺が通っていた【国立栄華学園】の第1演習場くらいはある。


上を見上げても暗がりになっていて先が見えない。

俺たちは一体、どれ程の高さから落ちてきたというんだ。


「シェイム君、あれ、何」


フィリイが肩を叩く。

彼女が指さす先、この空間の中心に位置する場所に大きな何かがあった。

リンも【魔力】を解いてその物体を注視する。


少し遠くて分かりずらいが、何となく人のような形をしている気がする。

それも地面に(ひざまず)いてこうべを垂れているような格好だ。


「なんか不気味だね、あれ」


フィリイがおぞましいものを見るような目で訴えかける。

いや、助けを求められてもなんにも出来ないぞ?


「とにかく出口を探した方が良さそうだな」


明るく照らされた壁に扉が無いか隈無く探す。

しかし、どれだけ視線を凝らしてもそれらしき場所は一向に見当たらない。


それどころか新たな問題が発生する。

先程の大きな物体が、()()()()()


重々しい音を立ててそれは立ち上がる。

やはりあれは人型をしていたようだ。

目を赤く光らせ岩で出来たそれは、7m程の大きな身体をしていた。


図太い胴体に太い手足。

赤く光る目は確実に俺たちを捉えていた。

その巨漢を重たそうに動かしゆっくりと近づいてくる。


「ねぇ、もしかしてこれってピンチなんじゃない?」


「いやいや、この出口のない空間であの化け物に襲われるような理不尽は流石に無いって。多分近づいて来てるのも、敵意を向けられてるのも気のせいだ」


半ば強制的に自分に言い聞かせる。

そうだ、気のせいだ。


ゆっくりと歩いていた化け物は軽快なリズムで走り出す。


「随分と軽そうに動くなぁ。おもちゃなんじゃないか?あれ」


しかも俺たちに攻撃しないわけだし?

何も怖くないね。


「シェイム君、早く逃げて!」


後ろを振り返ると、フィリイとリンは既に距離を取っていた。

再び前を向くと、腕を振りかぶった化け物が目の前に迫っていた。


「流石にもう無理ぃ!!」


情けない悲鳴を上げながらその場から飛び退く。

直後、俺がいた場所には強烈な打撃が炸裂していた。

化け物の拳によって空間内がとんでもない地響きを立てる。


「あんなの食らったら一撃だろ……!」


驚きなのはそれでも地面に傷一つ付いていなかったことだ。

どうやら壁や床を壊して外に出ることは不可能らしい。


頑丈なのはこの建物だけではない。

あれだけの威力で地面を殴ったにも関わらず、化け物の拳は無傷だった。

生半可な攻撃では傷一つ付けられない。


岩の化け物は再び軽快に走り出した。


「俺が時間を稼ぐ。リンはその間に【魔力】を溜めておいてくれ、頼めるか」


振り返ることなく後ろのリンに作戦を伝える。

いや、作戦というほどのものでは無い。


「多分、あいつに傷を与えられるのはリンだけだ」


「そういうことなら、私も一緒に行くわ」


「ああ、助かる」


既に抜刀したフィリイが横に並ぶ。

これ以上なく心強い助っ人だ。


「ちょ、ちょっと待ってください!わ、私の【魔力】で倒せる保証もありませんし、それに……お二人が危険すぎますっ!」


リンが後ろから必死で訴えかける。

しかし、化け物はもうそこまで迫ってきている。


悩んでいる時間は無い。


「リンなら大丈夫だ!」


「そんな――」


その言葉を最後に、その場から駆け出した。

フィリイもピッタリと横についている。


「できるだけ時間を稼ごう、立ち位置を入れ替えながら掻き乱す!」


「いきなり合わせられるか分からないけど、やってみよう!」


化け物に近づくと、奴は俺たち目掛けて両腕を振り下ろした。

間一髪でそれを躱し、それぞれ左右に飛び退く。


「チェンジだ!」


掛け声を合図に、大きく半弧を描きながら立ち位置を入れ替える。


俺たちの役目はリンが【魔力】を溜める時間を稼ぐこと。

剣での攻撃は通らない可能性が高い。

だから、攻撃は最小限でいい。


的を絞らせないことで攻撃を分散させ、より長く時間を稼がなくてはならない。


化け物は一瞬混乱するが、標的を俺に絞り攻撃のモーションをとる。

しかし、背後に回り込んでいたフィリイに後ろから切りつけられ、今度は意識をフィリイに向ける。


化け物がフィリイに攻撃しようとした所を、今度は俺が切りつける。

再び化け物は混乱しているようだった。


どうやらそこまで知性も俊敏性も高くない。

単純な動きを繰り返しているようだ。


しかし、俺たちの攻撃では傷一つ付かない。

わかってはいたが、やはり決定力が足りない。


「【魔杖リタルス】初期形態、【魔力】解放」


リンの声とともに赤いオーラが放たれる。

どうやら俺たちの安全性を証明できたらしい。

炎に包まれる彼女は覚悟を決めた顔をしていた。


「リンさん、出来るだけ大きな【魔力】を集めてください!この人硬いです!」


フィリイが攻撃を躱しながらリンに叫ぶ。

その目は完全にリンを信頼していた。


俺たちが【月華聖団】のメンバーと過ごした時間はかなり短い。

それでも、彼らの事を心から信頼していた。

短期間でそう思えるほど、彼らは温かかった。


引き続き化け物の気を逸らしつつ、安全に時間を稼ぐ。

リンから放たれる【魔力】が次第に大きくなっていく。


「【魔杖リタルス】第2形態、【魔力】解放」


リンがそう言い放つと、杖がひとりでに宙に浮かび、静かに形を変え始める。


ひとつだった円が4つに複製され、端が重なり合う形で上下に2つずつ配置される。

下の2つの円は上の2つよりも小さくなっていた。

そして、細長い菱形はひとつの円に1つずつ付けられ、四隅を貫く。


形を変えた杖はゆっくりと降下してリンの手に帰る。

その瞬間、リンから放たれる【魔力】が膨れ上がった。

オーラが放つ光も一際強くなる。


「皆さん、岩の化け物の攻撃を地面に打たせてください!どうやら地面を殴ると一瞬だけ硬直するみたいです!地面を殴ったら、すぐにその場から逃げてください!」


リンが大きな声でそう叫ぶ。

十分な時間を稼げたようだ。

彼女から大きな【魔力】を感じる。


俺とフィリイは合流し、距離を取って化け物の攻撃を誘う。

それを見た化け物は軽快なリズムで走り出した。


やはり、この動きはさっきと同じだ。

あいつの行動パターンが限られているのならば、この後は腕を振り下ろして殴ってくる。

それを避ければ絶好のタイミング。


目の前に迫る巨大な化け物。

しかし、俺たちはまだその場から動かない。


「ギリギリまで引きつけろ……!」


そして、化け物が攻撃のモーションを取った。

勢いよく腕を振り上げる。


「フィリイ、今だ!」


その場から飛び退いた、瞬間。


化け物が腰を切れ目として上半身を一回転させる。

猛スピードで回転した拳は、威力そのままにフィリイに直撃した。


まだ地面に足をつけていなかったフィリイは吹き飛ばされる。


「フィ、フィリイ!!」


こんなのは、想定外だ。

どうして急に動きを変えたんだ……!


今、この期を逃せば二度と反撃のチャンスはやってこない。


「考えろ、今、俺にできることを……!」


焦る頭の中で苦渋の決断をする。

迷っている時間はない。


咄嗟に化け物の頭に飛び乗り、首と胴体の隙間に剣を差し込んだ。

しかし、その程度では化け物は止まらない。


俺を振り落とそうと激しく藻掻き始めた。

それでも俺は必死にしがみつく。


「リン、このままやれ!!」


リンに向かって叫び訴えかける。

苦渋の決断とは、俺ごと化け物を爆発する事だった。


「今が、絶好の好機だ!この一撃を外すわけにはいかない!」


しかし、彼女は【魔力】を放とうとしない。

先程とは一転し、炎の中にいる目が泳いでいる。


「躊躇うな、やるんだ!」


「そんなことをしたら、シェイムさんが死んじゃいます!!」


「リン、大丈夫だ!俺を信じてくれ!!」


俺はある確信を持って叫ぶ。


リンは涙を流していた。

この期を逃せばもうチャンスは無いとわかっているのだろう。


彼女の口元が微かに動く。


そして、【魔杖リタルス】は溜め込んだ膨大な【魔力】で、強烈な一撃を放った。

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