第三節『最果て』④ ・限定依頼・
【セルス】から馬車でおよそ3時間。
【ヘルツ共和国】1の面積を誇る平原の最南端。
そこに悠然と聳え立つ1つの古城が、夕日を帯びて妖しく存在を主張している。
その城は遙か昔に一人の【天才】が建てたと、古くから伝わっているそうだ。
それが事実である事を告げるかのように、石造りの城の外観は雨風にさらされて黒ずみ、風化している。
ここはセルスで有名な【最果ての古城】。
その城壁の前で、大勢の冒険者達が今か今かとうねりを上げていた。
今回の【限定依頼】の舞台は、この【最果ての古城】だ。
セルス滞在6日目、時刻は夕方。
俺たちは昨日、【月華聖団】というクランに【限定依頼】の協力を求められた。
初めは戸惑ったが、結局優勝報酬欲しさに協力することにした。
優勝すれば晴れてF級冒険者から脱却できる。
何としてでも勝たなければならない。
そう気持ちを強く持ってこの依頼に参加したのだが、集まっている冒険者の数があまりにも多く、正直ビビっている。
頑丈そうな鎧と大小様々な武器を携えた冒険者がおよそ500人。
「絵面が怖いんだよな……」
ちなみに、今回の【限定依頼】には30組以上の【クラン】が参加している。
「諸君、此度はよくぞ依頼に参加してくれた!私は今回の戦利品を用意した商人のガーナだ!これより細かなルールを伝える!心して聞けい!」
冒険者たちを見下ろすように、【最果ての古城】の城壁に中年太りの男が現れた。
その男には数人の護衛がついている。
どうやら商人は商人でもかなりの金持ちのようだ。
贅肉をふんだんに含んだ頬が夕日をテカテカと弾いている。
「今回の【限定依頼】は宝探しだ!時間は無制限、初めに宝に触れた者が勝者だ!宝を見つけるための手段は問わない!ただし、人を殺した【クラン】はその時点で失格だ!強制退場に加えて報酬ポイントを-500、さらに罰金として金貨300枚を支払ってもらう。くれぐれも気をつけてくれたまえ!」
「え、殺す……?」
死傷者が出るくらい激しい戦いになるのか?
てっきり加減はされるものだと思ってた。
細かなというには大雑把な説明を聞いた後、冒険者たちは大きな雄叫びをあげた。
その叫びは1つの楽器となり、広大な草原に重低音を響かせる。
会場が一気に熱気に包まれた。
改めて自分のクランメンバーを見る。
ディアスは不気味にニヤリと笑い、ミーリックは他の冒険者同様叫び声をあげている。
今この瞬間が自分を1番解放出来るのだろう、昨日よりも生き生きして見える。
一方、シルバは目を瞑って顔を俯けている。
彼にはこの熱気が耐え難いものなのかもしれない。
プルハは腰に手を当て、動じることなく堂々と立つ。
その後ろでは、リンが緊張した面持ちで古城を見つめていた。
「シェイム君、凄い所に参加しちゃったね!」
フィリイは嬉しそうに語りかける。
そして、他の冒険者と一緒になって「おおー!!」と叫んでいた。
冒険者というには可愛すぎるな、その雄叫びは。
いつも楽しそうで何よりだ。
騒がしい冒険者たちをよそに、古城の城門が錆び付いた鉄を擦り合わせながら重々しく開き始める。
「開始の合図からの10分間は一切の戦闘を禁じる!古城内部に通じる入口は全部で11個ある!好きなところから始めるのだ!」
ガーナが説明を終えると同時に城門が開き切った。
「冒険者たちよ、【限定依頼】スタートだ!!」
合図と共に古城の敷地内に冒険者達が一斉になだれ込んだ。
【クラン】毎にそれぞれ目的の入口へ向かって疾走していく。
古城に通じる入口の情報については今朝通達されていた。
恐らくどの【クラン】も何処から開始するか決めている。
そして、それは俺達も例外では無い。
俺たちの作戦は大勢に囲まれる状況を作らないこと。
「城門から1番遠い入口に向かうぞ!」
ディアスは全員に指示を送る。
10分間は安全が保証されているのだから、普通はその間にできるだけ安全に探索を進めるのだと思う。
しかし、俺たちは人数が圧倒的に少ない。
接敵しないように1番遠い入口から内部に入る。
「あ!」
突然、フィリイが冒険者の波を見て大きな声で叫ぶ。
「どうした、フィリイ」
フィリイの目線を追う。
その先には、あのいけ好かないイケメンB級冒険者、ナゼルの姿があった。
「……ふん」
「確かヤツは【金星光】の【クランマスター】だ。数は50人くらいだっか」
「ハッハ!敵が誰だろうと全員倒してやるぜ!」
「ミーリックあんたね、何回も言うようだけど今回はなるべく戦わないようにするんだ。全く、忘れるんじゃないよ」
【月華聖団】のメンバーが思い思いの言葉を口にする。
一言一言にも個性が現れていて面白い。
「わ、私も頑張りますっ!」
珍しくリンが声を上げる。
きっと彼女は自分の意志を主張するのが苦手なのだろう。
頑張って声を上げたからか、頬が少し赤らんでいた。
同じB級冒険者としてナゼルに負けられない部分があるのかもしれない。
そんなリンを見たプルハは明らかに興奮した目でリンを見つめる。
「そうかいそうかい!そりゃあ頼りにしてるよっ!全く、あんたは可愛いねぇ!」
プルハがリンの頭をグリグリと撫で回す。
母性本能をくすぐられたのかもしれない。
しかし、忘れてはいけない。
リンは大人、俺より年上だということを。
「……このクラン楽しいね」
フィリイが俺を見て笑う。
その瞬間、不意に胸が高鳴った。
彼女の笑顔がこれまで見た中で1番優しい笑顔だったからだ。
「……そうだな。でもあんまり気を抜きすぎないようにしないとな」
何とか平然を装って答える。
これから死闘が始まるというのに、気を抜いたら頬が緩んでしまいそうだった。
○
「開始から10分が経過した、これより戦闘を認める」
ガーナの声が戦闘開始の合図を知らせる。
何かしらの【魔道具】を使って、声を城内に響かせているようだ。
「始まったな。全員気を引き締めるぞ」
ディアスの一言で【月華聖団】には緊張感が漂った。
古城の内部は、外観に比べて内部は全くと言っていい程風化していなかった。
城内は迷路のような通路が幾つも枝分かれして入り組んでいた。
通路の幅は5m程あり、かなり広く感じる。
通路全体を覆うように絨毯が敷かれてあるが、大して分厚くないのか足音はゴツゴツと重たい。
壁にはランプのような物が一定間隔で配置されており、蝋燭で灯りをともしている様だった。
……この蝋燭は一体いつからあるんだ?
ともあれ、この不思議なランプのおかげで城内は昼間のように明るい。
内部を観察しながら歩いていると、何処か遠くから微かな振動が伝わってくる。
どうやら戦闘は既に始まっているらしい。
「陣形を崩さないように進むぞ」
昨日の段階でどのような陣形を取るかは予め決めていた。
陣形は3列に展開され、先頭にはディアスとミーリック、真ん中にはリン、そしてリンを挟むようにして俺とフィリイが横に、最後列にはプルハとシルバが構えている。
これはリンが最大限に力を発揮できるようにと組み立てられた陣形だ。
やはりリンが主力だと言うのは本当のようだ。
事前に俺たち2人はF級だと伝えてあるので、俺たちの役目は前列、後列から漏れてきた敵をリンに近づけないこと。
F級だからか直接の戦力には数えて貰えなかったらしい。
でもまあ、そのお陰でフィリイはリンの横にいる。
リンの安全は護られたも同然だ。
いや、もちろん俺も頑張るけどさ。
「さて、そろそろ1度見てみるかねぇ」
プルハが目を瞑り、ゆっくりと息を吐き出す。
確かプルハの【特性】は【仙視】。
半径100メートルの球体の空間内なら任意の場所を見ることができる。
プルハは肩の力を抜き、上体を脱力させる。
口から細く長い息を吐き出す。
「……凄い集中力だ」
俺が【身体強化】を発動する時よりも、さらに研ぎ澄まされている。
それを歩きながらしているのがなお凄い。
しばらくしてプルハがゆっくりと目を開く。
その目からは橙色のオーラが風に煽られた炎のようにゆらゆらと溢れ出していた。
あれも【魔力】なのだろうか。
「【覚醒魔力】の【特性】を使う時はね、瞬間的に消費する【魔力】が多くて局所的に【魔力】の濃度が高くなるの。だからああやって色が付いているように見えることがあるんだって」
俺が不思議そうにしているのに気がついたのか、いつものようにフィリイが解説を挟んでくれる。
「……こりゃえらいことになったね」
プルハが緊張した面持ちで呟く。
「なんだ、囲まれているのか?」
ディアスは険しい表情で剣に手を掛ける。
しかし、プルハは首を横に振る。
「いや、そうじゃないんだ。あたしが驚いたのはこの城の事さ。あたし達が外で見てた古城は……ほんの1部だったのさ」
「どういう事だ?」
ディアスはますます表情を険しくする。
そして、プルハは有り得ないような事実を告げた。
「この古城、地中に埋まってるのさ。地下深くに地上に出てる所より何倍、何十倍も大きいのが隠れてるよ。あたしの【仙視】でも全貌を捉えきれない程の」
どうやら宝探しの障害になるのは人間ではなく、この巨大迷宮になりそうだ。
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