第三節『最果て』③ ・小さき実力者・
「優勝報酬には、300ポイントが含まれる……?」
たった今聞いた事実をそのまま繰り返す。
あまりに破格の報酬設定を半ば信じられなかった。
報酬ポイントが300なんて、F級冒険者はそれだけでE級に昇格してしまう。
これほど嬉しい事があるだろうか。
「シェイム君とっても嬉しそうだけど、それだけ【限定依頼】は競争率が高くて難易度が高いんだよ?」
「そ、そうだよな……」
これほどまで豪華な戦利品が用意されているのだ、当然参加する【クラン】は山の数ほどいるだろう。
フィリイの実力は問題ないとして、【月華聖団】の実力は知っておく必要がありそうだ。
「勝算は二つある。一つはプルハの【仙視】という【特性】だ。自分を中心とした半径100mの球体の空間内なら、任意の場所を見ることが出来る。この【魔力】があれば、不利な状況に陥る可能性もかなり低くなるし、何より宝を探す効率が段違いになる」
「なるほど」
「七人で参加するなら、最も気をつけるべきは人数不利で囲まれること……プルハさんの【特性】なら、最悪の事態は避けられそうですね」
参加する【クラン】の人数上限が無いため、いくら実力があっても敵の数に押し切られることだって考えられる。
プルハの【魔力】は今回のイベントにうってつけという訳だ。
「勝算の二つ目なんだが、これは過大評価でもなんでも無く、俺たちは強い」
おお、凄いぞこの人。
自分の【クラン】を強いと完全に言い切った。
余程仲間を信頼していないとそこまで自信を持って言えないと思う。
「皆さんの等級をお聞きしてもいいですか?」
「冒険者として強さを証明するなら、等級を開示するのが一番手っ取り早い、か」
ディアスはニヤリと片方の口角を上げた。
「俺はC級の冒険者だ」
一番に名乗り出たのはディアスだった。
冒険者として素質のある者が辿り着ける最終地点がC級だ、と以前フィリイから聞いたことがある。
D級以降、昇格するのには特定の依頼をクリアする必要があるようで、D級からC級に上がる依頼に比べて、C級からB級に上がる依頼は難易度が桁違いなのだそうだ。
よって、C級は冒険者としてかなりの戦力になる。
「ハッハ!俺はD級だ!だが侮るんじゃねぇ、直ぐにC級に上がってやるぜ!」
ミーリックは相変わらず物凄いテンションで言葉を放つ。
そんなミーリックはD級、と。
「ミーリック、何度も言わせるな。耳がおかしくなりそうだ。……俺はディアスと同じ、C級だ」
ミーリックを怪訝そうに見つめるシルバはC級、と。
確かに、ディアスと雰囲気は違えどシルバからも強者の雰囲気を感じる。
「あたしはミーリックと同じD級だよ……なんだい、あんた今妥当だって顔しなかったかい?」
「いやいや、してない!!」
だからそんなに睨まないで!
それとそんなに胸の辺りが開けた服で前屈みにならないで!
近い!
何とか誤解を解いて胸を撫で下ろす。
俺に胸は無いのでプルハとは違って撫で下ろすのも簡単だ。
落ち着いた所で、さっきの続きを聞く。
「リンさんは等級どれくらいなんですか?」
プルハの後ろから顔を覗かせるリンに、フィリイが尋ねる。
改めて本当に背が小さいな。
140cmくらいか?
まだ子供なのに冒険者だなんて、きっと彼女にも深い事情があるのだろう。
「……ええっと、その……わ、私は……び、B級……です……」
ふんふん、リンはB級、と。
……ん?
B、級……?
「「えぇぇぇえ?!」」
あまりの衝撃に、俺たちは声を揃えて叫んだ。
「めちゃくちゃ凄いじゃないですか!!」
あのいけ好かないイケメン、ナゼルと同じ等級だ。
厳しい昇格依頼もクリアした実力者って事だろ、それなのになんでこの子はこんなに自信無さげなんだ……。
ゆっくりとリンに歩み寄る。
そして、リンの目線に合わせるように腰を屈め、優しく頭を撫でた。
「リンちゃん、まだ小さいのに凄いね」
俺が近くに来て緊張した表情だった彼女も、気持ちよさそうに頭を委ねている。
フィリイも微笑ましそうにそれを見ていた。
ああ、例えるならまるで猫みたいな――
突然、リンがハッとした表情で慌てて頭から手を払った。
顔を真っ赤にした彼女は、先程とは一転して大きな声で言い放った。
「わ、私は大人です!!」
リンは小さな体を目一杯使って俺に叫んだ。
そこには怒りと、照れと、恥ずかしさが混ざったようななんとも複雑な感情が込められていた。
ふんふん、リンは大人、と。
……ん?
おと、な……?
俺たちは顔を見合わせた。
本日2度目。
やることは分かりきっている。
「「えぇぇぇえ?!」」
驚く俺たちを見て、プルハが豪快に笑い飛ばした。
「あっはっは!こりゃいい!あんたらリンが子どもに見えたのかい!あっはっは!」
「わ、笑っちゃダメですよう!プルハさんったらぁ!」
未だに笑い続けるプルハの後ろから、リンがポカポカと叩いている。
大して威力が無いため効果は全くない。
他のクランメンバー達もそれを見て笑っている。
当のリンは顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。
「ご、ごめんなさい……」
「きっ、気をつけてください!」
僅かに頬を膨らませて拗ねるリン。
改めて見ても子どもにしか見えない、色々……。
「そんなわけで、俺たち【月華聖団】は、D級冒険者2人、C級冒険者2人、そして主戦力、B級のリンがいる。これが俺たちが強い理由、宝探しに勝てる根拠の二つ目だ!」
ディアスは誇らしげに胸を大きく張った。
彼の言うように、【月華聖団】の戦力は十分だと感じる。
B級冒険者のリンに加えて、かなりの実力者であるフィリイがいる。
……負ける気がしない。
「それで、正式に返事を聞こうか。俺たちと共に宝を見つけに行くか?」
ディアスの問いに、俺とフィリイは再び顔を見合わせる。
フィリイは真剣な表情で俺を見ていた。
その瞳の奥には、俺と同じ考えがしっかりと宿っていた。
ディアスに向き直る。
そして、大きな声で告げた。
「「よろしくお願いします!!」」
○
夜。
新月だからか、普段よりいっそう星が瞬いている。
姿を消した月はきっと散り散りになってこの街に降り、街頭となってこの街を照らしているのだろう。
何となくそんなことを考える、そんな夜。
小さな月明かりのお陰か、この街の夜は昼の活気を感じさせないほどに静かだった。
虫や動物たちの声が時折聞こえてくる。
なんだか今日は寝付けそうにない。
窓の外を見るのをやめて寝返りをうった。
同じベットにフィリイが寝ている。
同じ方向を向いているから後頭部しか見えないけど。
初めこそ戸惑ったが、【セルス】滞在5日目を終えようとしている今日、そこにフィリイが居ることに何の違和感も感じなくなった。
むしろ彼女がこんなにも近くに居てくれることに、安心感さえ抱いている。
可笑しいよな、安心感なんて。
フィリイといつ離れることになるか、いつ殺されるかも分からないって言うのに。
……やっぱり、俺はフィリイに殺されるんだろうか。
あの日見た夢のように、怒りと憎悪に塗れた表情で俺を見るんだろうか。
再び体勢を変えて天井を眺める。
月明かりに包まれたこの街の、この時間が、永遠に続けばいいと思った。
「どうしたの……?」
いつの間にかフィリイがこちらを見ていた。
半分しか開いてない目で少しずつ近づいてくる。
「フィリイ、寝ぼけてるのか?」
俺を見ているんだろうけど、その瞳に俺が映っている気がしない。
すると、突然フィリイは頭に右手を覆い被せた。
「えっ、フィリイ何して――」
「大丈夫、だよ。私が……守ってあげる、から……」
フィリイはそれだけ言うと、再び眠りに落ちた。
「……今のは、誰に向けた言葉なんだか」
不覚にも、この場から動く気になれない。
急激な眠気が俺を襲う。
あれだけリンを子ども扱いしたくせに、これでは俺の方が子どもみたいだ――
安心したのか、すぐに眠りについた。
今夜のことは、多分忘れない。
夏の夜、月が降った夜、フィリイの温もりを感じた夜。
しかし、これが嵐の前の静けさだった事を、この時はまだ知らない。
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