第三節『最果て』② ・月華聖団・
「あ、あなたは!」
兵士たちは驚きの声を上げる。
先程までナゼルと一髪即発状態だったにも関わらず、慌てて隊列を組み1人の男に敬礼する。
「お疲れ様です!マークス隊長!」
「やだな、そんなにかしこまらなくていいよ」
「いいえ、そのような無礼は決して!」
緊迫した兵士たちに対して、男はおどけた表情を返した。
隊長と呼ばれたその男は、【セルス】の兵士の上官では無い。
それでも、尊敬の念が止まずに所作を改める。
「シェイム君、あの人、本物……?!」
感動で震えながらフィリイを見ると、彼女の目はナゼルを見た時とは比べ物にならないほど輝いていた。
それもそのはず。
今目の前にいるのは、世界的に有名な人物だ。
「ああ。ルーディン=マークスさんだ……!!」
冒険者でさえ尊敬の眼差しを向ける彼の名は、ルーディン=マークス。
【世界三大兵団】である【政魔】。
そこで第一部隊の隊長を務める世界屈指の実力者だ。
「【政魔】の……強い人だ!!」
「あ、浅い……浅すぎる!!」
フィリイから出た言葉を聞いて、耳を疑った。
それじゃあちっともあの人の凄さがわかってない!!
「フィリイ、よく聞くんだ。【政魔】では上から【総大将】、【総副大将】、【各部隊長】の順に実力で役職が決められる。【総副大将】は三人だから、第一部隊の隊長を務めるマークスさんは、【政魔】で五番目に強いんだ。【世界三大兵団】で五番目、だ。まず、この凄さは分かるだろ?」
「う、うん。わかったけど、シェイム君なんだかいつもより鼻息荒いよ……?」
フィリイが若干引いている気がするが、話は終わっていない。
逃がさないからな?
「マークスさんの凄いところは、初就任から五年間、一度もその地位を譲っていない所にある。【政魔】は完全実力主義の集団だから、その各部隊の隊長は直接対決を行って決められる。つまり、彼は五年間ずっと勝ち続けているんだ。【世界三大兵団】で五年間、だ。それくらい凄いんだぞ?!」
「す、凄いね!!」
よし、ようやく理解したか。
冒険者界隈のことはよく知らないが、兵士界隈の知識ならオタクだと言いきれる。
「確か【世界三大兵団】は、トップの人が特に強いんだよね!」
フィリイは少し焦った様子で話を広げた。
「【一騎当千の三将】って呼ばれてる人たちだな。一人で一つの武装組織と同等の戦力を担うって言われてるから、きっと異次元の強さなんだろうな」
【魔力】を使い始めた俺にとっては、想像すら及ばない世界だ。
「さあ、みんな散った散った。何時までもこんな所に留まってても意味ないだろう」
マークスさんは右手でヒラヒラと宙を扇いだ。
それを合図に、人だかりが徐々に散っていく。
流石に世界的な実力者の言葉には凄みがあるようだ。
ナゼルは最後まで何か言いたげだったが、結局何も言わずにその場を離れていった。
「ナゼルよりもマークスさんの方が凄かったみたいだな」
「なんでシェイム君が得意げなの」
フィリイはまるで変人かのように見てくる。
仕方ないだろう、兵士派としては嬉しい出来事だったのだから。
マークスさんを見る。
凄い人なのは間違いないのだが、不思議なことに彼からはそれ程大きな【魔力】を感じない。
むしろ他の冒険者の方が大きな【魔力】を放っている気がする。
謎の原因を探っていると、ふとマークスさんと目が合った。
彼は始終にこやかな笑顔を浮かべていたが、その瞬間に真剣な表情になった。
「……フィリイ、俺たちも行こう」
すかさず踵を返して足早にその場を離れる。
「え?!シェイム君待ってよ〜!」
上手く言い表せないが、マークスさんと目が合った時、心の奥底を見透かされたような感覚がした。
彼ほどの実力者であれば、他の人には感じ取れないほど微細な何かを見抜けるのかもしれない。
……もし、腕輪が抑えている【天才の魔力】すらも感じ取れるとしたら。
【魔力】は万物に姿を変える。
世界屈指の実力者がどんな芸当を持っているかなんて、俺ごときの知識の範疇に収まるわけがない。
彼にバレたら確実に終わる。
あんな化け物と戦うなんて考えたくもない。
逃げるようにして向けた背中には、その後も探るような視線を感じていた。
○
昼食を食べ終えた俺たちは、再びギルドに赴いていた。
先程の飲食店で、【常駐依頼】が再開したという噂を耳にしたのだ。
【常駐依頼】とはその名の通り、常に張り出されている依頼のことだ。
この街の依頼内容は主に回復薬の元になる薬草の採取。
何でも、最近は生えている薬草の数が少なく、取り尽くしてしまわないように依頼を停止していたそうなのだ。
【常駐依頼】はどれだけ依頼を受諾する人が重複しても問題ないらしい。
薬草採取はF級なので、駆け出し冒険者には重宝されている。
目の前の依頼ボードには、しっかりと常駐依頼が張り出されていた。
「良かった、これで何とか数はこなせそうだね」
フィリイは苦笑いを浮かべた。
E昇格まで残り29回。
その内の何回かは薬草採取で済ませてしまってもいいかもしれない。
「あーあ、なんかもっと一気にポイント増やす方法ねーかな!」
重い気を紛らわせるように、あえて声に出してみる。
「君たち、ポイントに困ってないか?」
ふと、後ろから声が掛かる。
いきなりの野太い男の声に驚きつつも、ゆっくりと後ろを振り返った。
「貴方たちは……?」
視線の先に居たのは5人の冒険者だった。
俺たちに声をかけたのは恐らくこの1番近くにいる身体の大きな男だろう。
まるで筋肉で出来た防具を着ているようだ。
「そうだな、自己紹介が先だな。俺たちは【月華聖団】というクランを組んでいるんだ。俺は【クランマスター】のディアス。後ろに居るのはメンバーだ」
ディアスは目線でメンバーに名乗るように促す。
すると、1人の男が勢いよく名乗りを上げた。
「はっは!よお、若い兄ちゃんと姉ちゃん!俺はミーリックってんだ、よろしく頼むぜ!」
線は細いが筋肉で引き締まった身体をしたミーリックは、怖いくらいテンションが高かった。
口が引き裂けそうな笑顔だ。
「……俺はシルバだ。……ミーリック、少し声量を落とせ。うるさいぞ」
今度はもう1人の男が名乗る。
銀髪のシルバはミーリックとは対称的にかなり落ち着いた雰囲気だ。
よくこんなにテンションが違う人と同じクランでやっていけてるな。
「あんたたち、今は大事な時間なんだ。喧嘩なんて後でやりな。すまないねうちの男どもが。あたしはプルハ、よろしく頼むよ」
このプルハと名乗る女性は、ミーリックとは違った活発さを感じさせる。
女性にしては高身長で、頼れるお姉ちゃんという雰囲気だ。
これがいわゆる姉御肌ってやつなんだろうか。
そして、最後の1人は背の小さな女の子だった。
人見知りをしているのかプルハの後ろに隠れて顔を少しだけ覗かせている。
「わ、私はリンディ○□※◇……」
恥ずかしがっているのか、話すにつれてどんどん声が小さくなっていた。
最後の方を聞き取れた自信が無い。
そんな彼女を見て、プルハは豪快に笑い飛ばす。
「あんたは本当に恥ずかしがり屋だねえ。全く、しょうがないね。この子はリンディブルネ。気軽にリンって呼んでやっておくれ」
リンディブルネ改めリンは、プルハの後ろに隠れたままぺこりと頭を下げた。
今のところ、悪い人たちではないと感じる。
俺たちに一体何の用があると言うのだろう。
「俺はシェイムで、隣にいるのは【パーティ】を組んでいるフィリイです。何か御用ですか」
フィリイも彼らにお辞儀をする。
「さっきも少し言ったんだが、報酬ポイントが貯まらなくて困ってないか?」
「「困ってます!」」
俺たちは食い気味に返事を寄越した。
当たり前だ、この街のF級依頼は冒険者に対して数が少なすぎる。
まさか、何か簡単にポイントを貯められる方法を知っているのか?!
だとしたら何としてでも聞き出さなければ。
俺たちの返事を聞くと、ディアスはニヤリと口角を上げた。
「……そうか。【パーティ】もその2人だけで組んでるんだよな?……そこで提案なんだが、俺たちの【クラン】に入らないか?」
「え?!」
突然の提案に驚きを隠せない。
なんせこの前フィリイと俺たちみたいなF級冒険者を誘う【クラン】なんて無い、そう話していたのだから。
まさかこんな所で勧誘を受けるとは。
「でもなんで俺たちを――」
「【限定依頼】を受けるためですね?」
俺の問いかけを遮り、フィリイは探偵のような顔つきでディアスに言った。
「なんだ、知っているなら話は早い。今回の参加条件は『7人以上のクラン』なんだ。だから2人でパーティを組んでいる人を探していた」
「時期的にそうじゃないかと思いました!今回の【限定依頼】を受けるためだけの一時的なメンバーが欲しいんですね」
「そうだ。だから入団は一時的なもので、依頼が終わったら脱退して貰って構わない。もちろん【クラン】に関する諸々の費用はこちらが負担する」
ちょっと待ってくれ。
知らない話が知らない間にどんどん進んで行ってしまう。
「フィリイ、【限定依頼】って何?」
俺の質問にフィリイは一瞬驚いた表情を見せるが、直ぐに納得した顔をした。
「そうだった、シェイム君は冒険者のこと殆ど知らなかったんだよね……」
フィリイの言葉に若干の呆れを感じるのは気の所為だろうか。
「【限定依頼】っていうのは、ギルドが定めたルールに従って冒険者どうしで争う、一種の大会みたいなものだよ!その依頼を受けるには毎回異なる制限があって、今回はそれが『7人以上のクラン』なんだって」
なるほど、そんなイベントみたいなのも開催されるのか。
説明を終えると、彼女は少し険しい表情をディアスに向けた。
「でも、今回の制限は『7人以上のクラン』ですよね?ってことはつまり、クランの人数上限が無いですよね。そんな中、私たち2人を加えた7人だけで参加するって、何か勝算があるんですか?」
確かに、よく考えてみれば圧倒的な人数不利に陥る事も有りうる。
それでも見ず知らずの俺たちを誘ってまで参加するのだからそれなりの勝てる理由があるのかもしれない。
「まず、今回の競技は『宝探し』だ。決められた場所の何処かに隠された宝を見つけ、最初に触れたクランが優勝だ。優勝報酬は大金貨2枚と――」
ディアスはそこで言葉を詰まらせた。
そして、俺とフィリイにゆっくりと目配せをした後、ニヤリと笑って続けた。
「……報酬ポイント、300ポイントだ」
……マジで?
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