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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第二章『初陣』

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第三節『最果て』① ・スター・

今回から第三節「最果て」に入ります。

 「それでは、こちらが成功報酬になります」


いつも見るギルドの受付のお姉さんは、今日も決して笑顔を崩さない。

そんな彼女は、美しい笑顔でカウンターに銀貨10枚を置いた。

自分たちの目の前に差し出されたそれを、重々しくゆっくりと受け取る。


「……ありがとうございます」


礼を述べると、お姉さんはお疲れ様でしたと声を掛け、業務へと戻って行った。


受付を後にして、俺とフィリイは顔を見合わせた。

じわじわと、感情が湧き上がってくる。


「今のは……」

「今のって……」


「「初成功報酬!!」」


2人で人目もはばからずにヒャッホイとその場で飛び跳ねる。

何人かの冒険者はこちらを見ていたが、こんなことも珍しくないのか殆どの冒険者は全く意に介さなかった。


初の成功報酬を得た依頼は鮫兎(さめうさぎ)10体の討伐。

鮫兎は名前こそ強面だが、ギルドが定める基準ではF級の魔物だ。


体長は最大で50cm、鋭い牙を持ち俊敏に動き回る。

鋭い牙を持っているくせに草食で、農作物を食い荒らすためよく討伐の依頼が出ている。


そんな鮫兎がF級の理由は、その捕獲のしやすさにある。

鮫兎は生物の構造上、耳を掴んで持ち上げれば身動きが取れなくなる。

また、回避行動をとる時、相手がどの方向から迫ってきても1歩目は正面にジャンプするというなんともお粗末な習性がある。

つまり、2人いれば容易に捕獲できてしまう。


捉えた後は耳の付け根にある弱点の核を破壊すれば完了。

核を破壊するとパキィンという甲高い音がするのだが、今思えばこの前俺が倒したキュルネルラも偶然核を破壊できたから簡単に倒せたのだと思う。


受け取った銀貨10枚の内、5枚をフィリイに渡す。

報酬ポイントはお互いに同じだけ入っているが、貰える成功報酬は1回分だ。


3人で【パーティ】を組んでいるチームは報酬に関して揉めることが多いそうだが、幸い俺たちは2人なので揉めることはない。


「なあ、E級になるには後何回依頼を達成しないとダメなんだ?」


ふと疑問に思ったことをフィリイに尋ねる。

ギルドに関して分からないことは、フィリイに聞けば何でも答えてくれる。


「そうだねぇ、E級になるには報酬ポイントを300貯めないとダメなんだけど、F級の依頼はだいたい1回10ポイントだから、後29回……かな。」


フィリイは小さく息を漏らした。

あ、この人自分で29回って言って嫌気がさしてる。


「E級になると難易度の高い依頼もあったりするから、安全面でも、経験値を積むっていう面でもF級冒険者は依頼の数をこなさないといけないから仕方ないんだけど」


これは勝手な推測だが、フィリイはもっと強い相手を求めているのだと思う。

なんせ彼女の実力は超一流。


トップの冒険者がどれ程の実力があるかは知らないが、先日の活躍を見るに彼女はその人たちに匹敵するかもしれない。

そんな強者がF級の依頼を受けても、つまらなく感じるだろう。


E級に上がるのはまだまだ先だということがわかったが、とにかく今は初の依頼成功を喜ぼう。

俺たちは清々しい気持ちでギルドを後にした。


 時刻は1時。

腹ごしらえをするために、飲食店が建ち並ぶ大通りに訪れた。

ここはカフェがあった通りとは別の道で、腹を空かせた冒険者達でごった返す活気溢れる通りだ。


「すごい人の数だな……」


「はぐれないようにしないとだね。手でも繋ぐ?」


「な、何言って――」


「冗談よ、冗談。シェイム君ったら照れちゃってー」


「も、弄ぶんじゃないやい!!」


気がつけばもう【セルス】に来てから6日目。

フィリイとの距離も冗談を言い合えるほどに近くなっていた。


もちろん今朝も【身体強化】の練習をしてきた。

今日の記録は5秒。


……少し伸びたな。


残る練習期間は2日。

病院で過ごした2日間が勿体なかったと感じる。


「キャー!!」


突如、香ばしい香りが立ち込める大通りに女性の悲鳴が響いた。

ここにいる全員がその事態に足を止める。


よく見てみると少し先に人だかりが出来ている。

次第に叫び声を上げる女性が増えてゆく。

ただ事では無いらしい。


「フィリイ、行こう!」


彼女は頷くと共に駆け出した。

何があったのかは分からないが、トラブルがあったなら力になれるかもしれない。


人混みを掻き分け、人だかりの中に入る。

そういえばここに集まっている殆どが女性だが、この中心で一体何が起こっているのだろうか。


半ば無理やり中心に辿り着いた先に見た光景。

そこには、1人の男が立っていた。


「キャー、ナゼル様ー!私と結婚して!」


「ナゼル様こっち見てー!」


女性たちの悲鳴の原因、それはどうやらあの男らしい。

高身長で金の長髪をサラつかせるイケメンは、自分の周りに集まった女性たちに笑顔を振りまいていた。


「ナゼル様がこっち見た、キャー!」


「何よあんた、ナゼル様があんたみたいなブスを見るわけないじゃない!」


「なんですってぇ?!」


おいおい、どこかで喧嘩になってるぞ。

ていうか誰なんだこのクソキザなイケメンは。


ん、口が悪い?

別に嫉妬とかじゃない、全然。


「こらこら、子猫ちゃんたち。喧嘩はよさないか」


喧嘩に気づいたナゼルという男は仲裁に入る。

女性たちは喧嘩そっちのけで近くに来たナゼルにうっとりしている。

最早ノックダウン寸前だ。

なんだ、2人とも仲良しじゃないか。


ていうかなんだこの茶番は。

……心配して損をした。


「フィリイ、あの人誰か知ってる?有名人?」


ナゼルから興味を無くし、隣のフィリイに顔を向ける。

すると、フィリイは驚いた表情でこっちを見ていた。


「えー!シェイム君、ナゼル様を知らないの?!」


なんだ、フィリイも知っているのか。

ていうかなんだよ「様」って。

イケメンはそんなにいい呼称をつけてもらえるのか。


「ナゼル様は最近一気に有名になった冒険者だよ!登録からわずか2年でB()()になった凄腕冒険者なの!B級の中でも今大注目の冒険者だって今月の【月刊アドベンチャーズ】にも取り上げられてたの見てないの?!」


あのイケメンが、B級?!

顔が良くて実力があるとか欲張りすぎじゃないか?!

そんなやつが世の中には居るのか。


いや待てよ。

同じようなやつが幼い頃から近くに居たな。

彼は「様」は「様」でも「王子()」と呼ばれていた。

どうやらイケメンと「様」には深い因果関係があるらしい。


そもそも【月刊アドベンチャーズ】なんて初めて聞いたぞ。

冒険者派では有名な雑誌なのかもしれないが、根っからの兵士派だったので知らないのも無理はない、はずだ。


しかし、どうするんだこの騒ぎ。

収集が着きそうにない。


フィー!!


その場に甲高い笛の音が鳴り響いた。

人混みを掻き分け、ナゼルの元に隊服に身を包んだ男たちがぞろぞろと現れる。

あれは冒険者では無い、【ヘルツ共和国】の()()だ。


「なんだこの騒ぎは!混雑するだろう、早く散りなさい!」


兵士たちはキツい口調で冒険者達を叱責する。

女性たちは口々に文句を言いながらその場からとぼとぼと離れていく。

先程の騒ぎには関係なかった冒険者も、兵士達を睨む。


基本的に冒険者と兵士は仲が悪い。

互いに強さが求められる職業だが、その強さを測る基準が違うためお互いを認められないのだ。


「いやーすみません、騒ぎにするつもりは無かったんですけどね」


ナゼルは頭に手を当てて笑顔で謝罪を述べる。

おい、大丈夫か。

場合によってはヘラついているように見えるぞ。


「はんっ、なんだなんだ。少し等級が高い冒険者だからってさぞいいご身分だな」


案の定、ナゼルの態度が気に入らなかったのか兵士はあからさまに敵意を剥き出しにする。

これにはナゼルも黙っていられない。


「おや、その言い草ではまるで冒険者を舐めているように聞こえますよ?」


「そのつもりで言ってるんだが?」


……この雰囲気は不味い。

お、おい、みんな落ち着けって。


その場に漂う静寂。

周りの冒険者は事の成り行きを見守っていた。

しかし、その視線にはナゼルを後押しするような感情が入り混じっていた。


両者が剣に手を掛ける。

一髪即発の雰囲気。

しかし、今この場所に兵士と乱闘するB級冒険者を止めようとする人間などいなかった。


「いざとなったら俺たちで何とか――」


B級冒険者と言えど、実力ならフィリイだって引けを取らないかもしれない。


フィリイは両者の様子を伺っている。

止めるべきか否か、自分の中で葛藤しているようだった。


「カシャン」


どこかで皿が割れる音がした。

そして、それを合図に両者は動き出した。


腰から剣が抜かれて――


「そこまでにしようか」


突如、男の声が大通りにこだまする。

決して大きな声では無かったが、それは耳からすっと吸い込まれてくる。


思わずナゼルも兵士も動きを止めた。

兵士の後ろから1人の男が歩いてくる。


きっと、その場に居た全員が目を見開いたと思う。

それは俺も例外では無かった。

驚きの後、そこに居る人を見て目を輝かせる。


間違いない、本物だ。

あの人は――


「あ、あなたは!」


兵士も驚きを隠せない。

ナゼルも緊張した面持ちで苦笑いを浮かべている。


無理もない。

今この場に現れたのは、ナゼルとは比べ物にならないほど有名な人物だった。

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