第二節『偽りの』⑧ ・偽りの・
アルマさんの元を後にした俺たちは、紫小鬼との戦いについて話しながら街に向かっていた。
あの数には驚いただの、紫小鬼は全然小さくないだの、あの時【身体強化】を成功させたのが凄かっただの。
話題は尽きることを知らない。
ふと、疑問に思ったことを聞いてみる。
「そういえばさ、依頼って誰かが受けてる時は他の人は受けられないんだよな?ならなんで俺たちは同じ依頼を受けられたんだ?」
特に深い考えは無かったのだが、その質問にフィリイは目を輝かせる。
「よくぞ聞いてくれました!ふんふん、では私から説明しましょう!」
「お、おいフィリイ。なんか鼻息が荒いぞ……?」
……もしかして。
冒険者オタクのフィリイを焚き付けてしまったのかもしれない。
ゴクリと唾を飲み、これから来るであろう難しい説明に備える。
「基本的に依頼は1人しか受けられないんだけど、それじゃあ依頼の成功率が低かったり、依頼不足になったりするでしょ?だから、ギルドには【パーティ】と【クラン】っていう仕組みがあるんだよ!」
「【パーティ】と【クラン】。よし、今の所ついていけてる」
「まず【パーティ】って言うのは、2人~4人までのチームの事だよ。無料で組めて解散も簡単だから、今回は手を組もう〜みたいな感じで一回きり【パーティ】になる人も多いみたい。もちろん、長く【パーティ】を組む人もいるけどね。そして、【パーティ】を組むメリットはズバリ!報酬ポイントが全員に同じだけ入る事!」
「……報酬ポイント?」
冒険者証を発行した際、ギルドの仕組みを説明しようとしたお姉さんに対し、鼻息粗めに断っていたフィリイの姿を思い出す。
どうやらあそこで選択を誤ったようだ。
「報酬ポイントは依頼を達成すると貯まっていって、一定のポイントが貯まれば等級が上がるの。一人で依頼を達成すると報酬ポイントも一人分だけど、【パーティ】を組んでいると報酬ポイントが全員に配布されるの!例えば、ある依頼の報酬ポイントが10だとしたら、【パーティ】を組んで依頼を達成すると、全員に10ポイントずつ配布されるって事ね!」
「めちゃくちゃお得な仕組みってことか!これなら依頼が枯渇して永遠に等級が上がらない心配もないわけだ」
「【セルス】ではそれでも依頼がほとんど見つからないけどね……」
フィリイは一瞬肩を落としたが、またすぐに楽しそうな表情に戻る。
「次は【クラン】だね!【クラン】って言うのは5人以上のチームのことで、これは【パーティ】とは違って、結成にも継続にもお金が掛かるの。継続にかかる費用は【クラン】の人数によって変わるみたい。だからリーダーの【クランマスター】が毎月メンバーから集金するんだってさ」
「なんか【パーティ】と比べると面倒な仕組みだな、お金も掛かるし。なんでわざわざ【クラン】を組むんだ?」
「【クラン】を組む利点は、自分の等級以上の依頼を受けれること!受ける依頼の等級以上の冒険者を2人以上含むって言う条件付きではあるけど、依頼の等級が上がるほど報酬ポイントも大きくなるから、低級の冒険者にとっては1番効率よくポイント稼ぎができる方法かな。人数が多いから、単純に依頼の成功率が上がるのも利点だね」
「すごいじゃないか!じゃあ、俺達も【クラン】に入った方がいいよな?!」
興奮気味にフィリイに提案する。
しかし、意外にも彼女は浮かない顔をする。
「うーん。でも【クラン】は人数が多いほど払うお金が増えるんだよ?それはつまり、【クランマスター】が1人あたりに求める金額も増えるってことなの。そんな中、F級で、なんの実績もない私たちを受け入れてくれる【クラン】ってなかなかないんじゃないかなぁ」
「た、確かに……」
「一般的には、D級からが【クラン】に入る目安って言われてるよ」
言われてみれば確かにそうだ。
もう少し依頼を達成しないと【クラン】には入れなさそうだ。
「ん、待てよ」
俺たちは既に同じ依頼を受けてるよな。
それはつまり――
「フィリイ、もしかして俺たちって【パーティ】を組んでるのか?」
「うん、そうだよ……あれ?私まだ言ってなかったっけ?」
「うん、聞いてない」
「ごめん」
なるほど、ようやく疑問が晴れた。
知らぬ間にフィリイと【パーティ】を組んでいたらしい。
彼女が今回の依頼を受諾した際、ついでに組んでおいたのだろう。
フィリイの中で俺と【パーティ】を組むことが当然として扱われていたことに喜びを感じながらも、そういう大事なことは報告するように、と釘をさしておいた。
「じゃあこれからもよろしくな、フィリイ」
「うん、一緒に頑張ろうね!」
改めて握手をする。
相変わらずフィリイの握手は激しい。
ひ弱な人間だと肩が外れてもおかしくない。
「そういえば、フィリイは何で冒険者になったんだ?紫小鬼との戦いを見てると、今までに相当な鍛錬を積んでたと思うんだけど」
何気なく聞いたのだが、先程とは違いフィリイは表情を曇らせた。
「ああ、いや、ごめん!今のは忘れてくれ」
冒険者という職業を選ぶ人には、人には言いたくない事情を抱えている人も多い。
俺だって冒険者になった本当の理由は【天才】だという事を隠すためだ。
そんなこと言えるわけない。
冒険者に動機やそれ以前の事を尋ねるのはタブーとされている。
気を許しているとは言え、流石に今のは失礼に当たる。
「……ううん、大丈夫。シェイム君になら、話しても大丈夫な気がする」
神妙な顔つきで、フィリイは自分の動機について話し始める。
「……私はね、世界を旅するために冒険者になったの。もちろん冒険者っていう職業が好きって言うのもあるんだけど。正確には、世界を渡り歩いていても怪しまれない為に」
ん、ちょっと待て。
俺が冒険者になった理由にそっくりじゃないか。
こんな偶然があるんだろうか。
……内容次第では、彼女に本当のことを打ち明けてみようか。
「私が、世界中を旅する理由は――」
フィリイは一瞬言葉に詰まる。
何かの覚悟を決めた顔をしている。
意識が次に彼女から放たれる言葉に集中する。
その瞬間、風がピタリと止んだ。
今までさわさわと音を立てていた木々は一切の表情を無くす。
その瞬間だけ、世界が彼女を軸に回っているような気がした。
時が止まった世界で、彼女はその薄い唇を動かした。
「――私はね、【天才】を殺すために旅をしているの」
強く、風が吹いた。
急に吹き荒れた風は地面に落ちていた木ノ葉を舞いあげ、視界を荒れさせる。
一瞬の沈黙の後放たれた彼女の言葉は、確実に脳裏に焼き付けられて、聞き違いかもしれないという希望さえ抱かせない。
「……そうなんだ」
精一杯平静を保ち、相槌を送る。
目が、景色がチカチカする。
それに対し、フィリイは照れくさそうに笑う。
「あー、今そんなのできっこないって思ったでしょー。でも、実は【天才】が誕生したっていう報告も何件か挙がってるくらいね、既に【天才】が誕生してる可能性は高いんだよ?それに、ある国では――」
そこから彼女が話していた事は、あまり覚えていない。
あの日見た夢の光景を思い出す。
『貴方の命、私が頂戴する』
『私は、貴方を許さない』
何を勘違いしてたんだ、俺は。
いや、本当はずっと分かってたんだ。
フィリイは自分にとって敵になる存在なのだと。
それでも彼女に会ってからは思い込むようにしていた。
この人は俺の味方だ、俺の救いだ、と。
だが実際には違った。
彼女が普段向ける笑顔の裏には、【天才】に対する殺意が込められていた。
つまり、このまま彼女と共にいれば殺されるのも時間の問題。
……でも。
でも、それでもいい。
いずれ彼女に殺されるなら、それでもいい。
「シェイム君は、どうして冒険者になったの?」
何も知らないフィリイは、無邪気に聞き返してくる。
「……フィリイと同じだよ」
それだけ言って、先を行く。
「絶対嘘だー!シェイム君だけ言わないなんてずるいぞー!」
フィリイが後ろから駆け寄ってくる。
やがて訪れるその日まで、俺はこの偽りの関係を続けていたい。
次回から第三節「最果て」に入ります。
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