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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第二章『初陣』

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第二節『偽りの』⑦ ・決意・

 間一髪、頭上を掠める棍棒を紙一重で回避して懐へと潜り込む。

そして、一瞬できた僅かな隙に腹部を切りつけた。


体表に傷をつけただけで決定打にはならない。


すかさずその場から距離を取る。

案の定、俺が居た場所には棍棒が振り下ろされていた。


その衝撃で洞窟が地響きを立てる。

紫小鬼は耳障りな声で咆哮した。


「とんだ馬鹿力だな……!」


この大きな紫小鬼と対峙して暫く経つが、どれだけ棍棒を振り回しても体力は衰えない。

むしろ、戦いが長くなるにつれて凶暴になっている気がする。


「ティリアがこんな強力な【特性】を持ってるなんて、考えたくもないな」


「シェイム君、頑張って!」


フィリイが遠くから声をかけてくれる。

既に他の紫小鬼は全て倒したようで、心配そうな表情で俺を応援している。


彼女にかかれば、この大きな紫小鬼も一撃なのだろう。


「俺は、こんなに弱かったんだな」


旅を始めてから、本当に痛感している。

世界は広く、フィリイのように自分より遥かに強い人が山ほどいる。

早めに世界の広さを実感できたのは冒険者になった利点の一つだろう。


「とにかく今はこいつだ」


再び隙をついて肉薄すると、突如紫小鬼の目の色が変わった。


身体から黒色のオーラを放出させながら咆哮すると、無造作に俺を蹴り飛ばす。

先程までとは動きのキレがまるで違う。


「ぐっ……!」


棍棒で殴られた時の何倍もの衝撃。

勢いそのままに壁際まで吹き飛ばされた。


頭がパチパチとスパークし、意識が飛びかける。

前触れもなく口から大量の血が吹き出し、壁にめり込んだ身体は言うことを聞かない。


「紫小鬼が、強化された……?」


あの禍々しいオーラには【身体強化】と同じ効果があるのかもしれない。


ひび割れた壁の表面が崩壊し、人形のような身体は無抵抗に地面に叩きつけられた。

直後に瓦礫が身体に降り注ぐ。


「だめ、これ以上は見てられない!」


刀を抜いたフィリイが紫小鬼に向かって駆け出す。

ダメージを受けすぎて、彼女の許容範囲を超えてしまったようだ。


「待ってくれ、フィリイ!」


瓦礫を押し退け、ボロボロの身体を無理やり立ち上がらせる。

そして、もう一度紫小鬼に対峙する。


「まだ、戦える。俺はまだ、終わってない」


「そんなこと言ったって……!シェイム君はもう充分頑張ったよ!!」


フィリイは足を止め、俺を説得する。

どうしてそこまでして戦うのか、彼女には分からないかもしれない。


なんせ彼女はこれまで【魔力】が使えなかったわけでも無ければ、突然自分が【天才】だと告げられたことも無いだろうから。


「……ダメなんだ。ここで逃げたら、ダメなんだ。それじゃ、今までと何も変わらない!!」


これまでは、沢山の人の優しさで運命から目を背けてきた。

だからこそこれからは、自分の力で運命と向き合うんだ。

もう、逃げたりはしたくない。


「フィリイ、頼む」


真剣な眼差しでフィリイを見る。

彼女は葛藤した後、ゆっくりと刀を納めた。


「……わかった」


少しの沈黙の後、フィリイは力強く頷いた。


「……シェイム君、信じてるよ」


彼女はそう言うと、再び離れた場所から見守ってくれる。


「ありがとう、フィリイ」


再び紫小鬼に集中する。


「さて」


紫小鬼との距離はおよそ50メートル。

奴の機動力では、この距離を詰めるのに5秒はかかるだろう。


「……充分だな」


剣を左手に持ち替え、剣先を下に向けて目を閉じた。


「集中、集中しろ」


身体の中に暖かい水が流れているような感覚を思い出せ。


今の限界は2、3秒。

しかし、そんなことはどうでもいい。


一太刀でいい、勝負は一撃で決める。


身体が熱くなり外界の情報が閉ざされる。

そして、ゆっくりと世界の輪郭を把握する。


その場でゆっくりと目を開いた。

紫小鬼は、もうすぐそこまで迫っていた。


棍棒が振り下ろされる、瞬間。

爆発のような加速をして一太刀、紫小鬼に横薙ぎを繰り出した。


「おぉぉぉぉお!!!」


振り抜いた剣は真っ直ぐに紫小鬼に吸い込まれた。

分厚い皮膚と肉を切り裂く感覚が伝わってくる。

それに打ち勝つようにさらに力を込める。


まだだ、まだ止めるな!

そのまま振り抜け……!


クリーンヒットした渾身の一撃は、紫小鬼の身体を上下に引き裂いた。


一瞬訪れる静寂。

そして、紫小鬼は黒い煙となってその場から消え去った。


「……何とか、上手くいったな」


左手から剣がするりと落ちる。

もう剣を握る力も残っていない。


既に身体からは【身体強化】が消えていた。

やはり、まだ一瞬しか使えないらしい。


不意に全身の力が抜け、前方に倒れ込む。

その身体をフィリイが受け止めてくれた。


「シェイム君凄いよ、よく頑張ったね」


彼女は満身創痍の俺を抱きしめた。

そして、優しい声を掛けてくれる。


一瞬痛みが和らいだ気がした。


「でも、結局【魔石】は回収できなかったな……」


フィリイに肩を貸してもらいながら覚束無(おぼつかな)い足取りで出口へと歩き出す。

最早一人で立つことさえできない。


【魔石】の回収はできず、更には大怪我を負った。

依頼としては大失敗である。


「そうだね……」


フィリイは悔しそうな表情を浮かべる。

数秒の沈黙、気まずい空気が流れていた。


その時、フィリイが驚きの声を上げた。

必死に呼びかける彼女が指さすその先には、妖しく光る物が。

その光は、俺たちを明るく照らしていた。



 ○



 「アルマさんに何て言おうかな……」


アルマさんのいる場所へ向かう道中、フィリイは不安そうに呟いた。

今回依頼されたのは【魔石】の奪還。


しかし、あの時紫小鬼には勝利したものの【魔石】は回収出来なかった。

つまり、依頼としては何の成果も挙げられなかったということだ。


「まあこれもある事だし。大丈夫なんじゃないか?」


フィリイを慰めるように、腰に携えた絹袋をポンポンと叩く。

これは装備を揃えた時に一緒に買っていたもので、冒険者なら誰しもが身につけている【魔道具】の1種だ。


この袋には物質の体積を無視して、質量10kg分まで詰め込むことができる優れものだ。

冒険者達は依頼の途中で得たものをこれに入れて、ギルドへと持ち帰り換金してもらうのだ。


ちなみに、ギルドに入る際に小金貨2枚、武器と防具などの装備に金貨1枚、1週間分の宿泊代にさらに諸々。

残る資金は金貨3枚と小金貨6枚程。


早く収入を得ないと資金が尽きる日もそう遠くはない。


そうこうしている内にアルマさんの小屋に辿り着いた。

初めてここを訪れた時とは違い、なんの躊躇いもなくそのドアを叩いた。


「アルマさん、おられますか」


中に人の気配が無かったので少し大きな声で呼びかける。

すると、小屋の中からドタドタと足音が聞こえてくる。

そして、勢いよくドアが開かれた。


「――シェイムさん、フィリイさん!!良かった……本当に良かった!!」


派手に登場したアルマさんは、俺たちの姿を見るやいなや激しく泣き崩れた。

あまりに号泣するので、大慌てでへたりこんだ彼を支える。


「どうしちゃったんですかアルマさん?!」


フィリイは相当慌てているのだろう、両手があたふたと宙を掻いていた。


「うぐっ……だって、依頼をお願いしてから何日経っても連絡が来ないから、私はてっきりお2人はもう……」


「その件は本当にすいません、少し色々ありまして」


実は、紫小鬼との戦闘があった日から既に2日が経過している。

すぐに報告に来られなかったのは、俺の身体の状態が想定より悪かったからだ。


街へ戻った俺たちは、すぐさま【中級回復薬】を購入した。

本来冒険者なら【回復薬】は必須アイテム。

しかし、【中級回復薬】ですら1本小金貨1枚の高級品。

俺たちの手持ちではなかなか手が出せなかったのだ。


フィリイは急いでそれを俺に飲ませたが、負ったダメージが大きくそれだけでは回復しきれなかったのだ。

その為、街の病院で2日間の入院を余儀なくされた。

そして3日目の今日、ようやく退院することができアルマさんの元へ報告に来ることができた。


「本当にシェイム君、一時はどうなる事かと――」


「い、いやー、そうだよな!ここに来る時道に迷ったんだよなー!あれは本当にどうなる事かと思ったな。あはははは」


フィリイの言葉を遮り、何とかその場を誤魔化す。

彼女は咄嗟の嘘に一瞬混乱していたが、その後すぐに腑に落ちた顔をしていた。


危ない危ない。

これだけ心配してくれていたアルマさんに、入院するほどの怪我を負ったなんて知られたら。

それだけは何としても避けなければならない。


「とにかく、君たちが無事で本当に良かった!さぁさぁ、中に入ってくれ!」


アルマさんは無事元気を取り戻し、あの時のように小屋へ迎え入れる。

覚悟を決めてその中へ入る。


前回と同じように座った俺たちは、改めて話を始める。


「ではアルマさん、今回の依頼結果を報告させて貰いますね」


かしこまった態度でアルマさんに向かう。

フィリイは横で少し暗い顔をしていた。


「単刀直入に言います。今回の依頼は、失敗に終わりました。すみません」


これでもかと、誠心誠意頭を下げる。

しかし、それを見たアルマさんは慌てだした。


「いやいや、頭をあげてくれ!そもそも無茶な依頼をしたのは私の方だし、君たちが無事に帰ってきてくれただけで満足だよ!」


なんていい人なんだ。

依頼に失敗した事によって自分の生活が危うくなっているというのに、それでも彼は俺たちの無事を喜んでくれる。

やはり、()()はアルマさんにこそ相応しい。


「そうだ、報酬を渡させてくれ!そんなに多くは無いんだが、ちゃんと用意してるんだ」


アルマさんが小屋にある棚を漁り出した。


「その報酬は受け取れません!」


フィリイが立ち上がりキッパリと言い放つ。


冒険者は依頼を達成することによって報酬を得ることが出来る。

依頼を失敗した俺たちがそれを受け取ることは出来ない。

それが例えアルマさんの厚意だとしても。


「いやでもそういう訳には――」


「私たち冒険者は、依頼を達成した時だけ報酬を得ることができます。駆け出しとは言え、私たちも冒険者です。そのルールに背くことはしたくないんです!」


フィリイがアルマさんに力説する。

その迫力に、アルマさんも思わず引き下がってしまう。


その場に、静寂が訪れる。


「代わりと言ってはなんですが、アルマさんにお願いがあるんです」


俺は、ばつが悪そうにしているアルマさんに提案する。

すると、彼は少しだけ表情を明るくした。


「なんだ?!何でも言ってくれ!報酬を受け取って貰えないなら、俺に出来ることならなんだってやる!」


……よし、言ったな?


「フィリイ、今の言葉、ちゃんと聞いたよな?」


「うん、ちゃんと『何でもする』って聞いちゃったよ」


イヒヒと俺たちは悪い顔で笑う。

その様子を見て、アルマさんは先程の勢いが消えてどこか怖気付いているようだった。


腰に付けた袋からおもむろにある物を取り出す。

手のひらに収まりきらないそれを、座っていた椅子の上に置いた。


ゴトリと音を鳴らしたそれは、小屋の隙間から差し込む陽の光を受けて、鮮やかに7色の妖しい輝きを放つ。


「これは【ワームライト】。今回の依頼中に見つけたものです。アルマさん、これを受け取って貰えませんか?」


お願いというのは、この石をアルマさんに受け取ってもらうことだ。

しかし、アルマさんは先程の言葉とは裏腹に、それを受け取ろうとはしない。


「ま、待ってくれ。【ワームライト】って、希少価値の高い宝石じゃないか!しかもこんなサイズのは見たことがない……!こんなの受け取れない」


「あれぇ、でもさっき、アルマさん『何でもする』って言ってましたよねー?」


フィリイが悪い顔でアルマさんを問い詰める。

もうその顔はしなくていいぞ、じゃないとアルマさんがもたない。


「俺たちは、アルマさんだから受け取って欲しいと思えるんです。貴方は自分よりも他人のことを想いやれる素晴らしい人だ。そんな貴方だからこそ、これを有意義に使ってくれると思えるんです。お願いします」


改めて頭を下げた。

アルマさんは【魔石】を奪われたことによって自分の生活すら危うい状態だった。

それでも彼は、依頼の成功よりも俺たちの身を案じてくれていた。


アルマさんはしばらく黙った後、俺達以上に深く頭を下げてくれた。


「……ありがとう。君たちには、感謝してもしきれない。この恩は必ず、いつか返させてくれ」


俺たちは頭を上げる。

アルマさんは真っ直ぐに俺たちの目を見つめる。

ここに無い、その向こうの未来を見つめているような気がした。


一礼をして静かに小屋を後にした。

そして、そのまま森を引き返す。


しばらく歩くと、突然小屋の方からアルマさんの声が聞こえた。


「おーい!本当に、本当にありがとう!君たちは最高の冒険者だ!」


振り返ると、アルマさんは大きく手を振っていた。

その顔は初めて会った時と別人のようだった。


アルマさんに手を振り返し、再び森を行く。


「最高の冒険者、だってさ」


フィリイが不意に呟く。


「そうなれるように、これから頑張らないとな」


強い日差しが降り注ぐ中、それぞれの胸に強い決意をした。

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