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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第二章『初陣』

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第二節『偽りの』⑤ ・一閃・

 太陽が既に姿を消し、山には夜の静寂が訪れている。

街のように街灯もないため、月明かりだけが辺りを照らす。


ふと空を見上げる。

そこには、目のフレームから溢れんばかりの煌めく星々。


そういえば、俺の家があった場所も田舎だったからか似たような夜空だった。

その景色は心做しか俺を勇気づけているようにも見えた。


息を整えて、大きな木の幹の陰から20m先の景色に目を凝らす。

そこには一体の魔物。

体長は2メートル程で、紫色の肌をしている。

【魔石】を探しているのか、石を拾っては捨て、拾っては捨てを繰り返している。


あれがE級指定の魔物、紫小鬼(ししょうき)だ。

離れているとはいえ実際に見るとやはり大きくて迫力がある。


(フィリイ、あいつらの住処を探るからバレたらダメだぞ)


小さな声で、同じように木の幹から覗いているフィリイに囁く。


「わかった!」

(声がでかい!!)

(ごめん……)


フィリイの返事が大きすぎて俺の方が焦ったわ。

ようやくフィリイの声量が落ち着いたところで、今回の作戦を確認しよう。


俺たちは昼間に、対「紫小鬼」戦に向けて装備を一式揃えた。

俺もフィリイも軽量型の防具を購入した。

防具が軽い鉄で出来ており、面積は極力小さく設計されている。


俺はパワーで攻める戦い方はしないので、華奢なフィリイと戦闘スタイルは似ているのだと思う。

フルメイルの防具には高すぎて手が出なかったのも、軽量型にした理由の一つではある。


そして、武器は剣を選んだ。

学園の時から使っていた種類なので今は1番使い勝手がいいと思ったのだ。


対して、フィリイは武器を買わなかった。

昔から使っている(かたな)があるらしく、今後もそれを使いたいと言っていた。


装備を整えた後はギルドにある資料で紫小鬼に関する情報を集めた。

紫小鬼は主に夜に活動し、闇夜に溶け込むため紫色の肌を持っている。


基本的に単体で行動する魔物なので、今回のように()()を形成したという例はこれまで報告されていない。


紫小鬼は物を収集する習性を持っており、集める対象は個体によって異なる。

どうやら今回はそれが【魔石】になっているようだ。


資料によると、紫小鬼は洞窟などの暗い場所に巣を作るらしい。

そして、収集したものは全て巣に集められる。


【魔石】を取り返すためには、まずは奴らの巣穴を特定しなければならない。


作戦を自分の内で確認し終えると、再び目の前の紫小鬼を監視する。

存在に気づかれ戦闘になってしまうと、巣穴を特定出来なくなる。

慎重に行動しなければ。


この広大な森の中で、群れの1体をすぐに見つけることが出来たのは運が良かった。


(シェイム君、紫小鬼が引き返して行くよ!)


フィリイが声を潜めながら激しめに俺の肩を何度も叩く。

紫小鬼は右手で10センチ程の岩を持って森を進んでいく。

おそらく【魔石】を見つけたのだろう。


(わかった、わかったから落ち着いてくれフィリイ……!)


気づかれないように陰から陰へと身を移しながら、大きな魔物を追いかけた。



 ○



 (なあ、紫小鬼って群れを作らないんだよな?)


俺はフィリイに問いかける。


(うん、紫小鬼は基本的に単体行動……だよね?)


目の前そびえ立つ大きな高い崖。

その壁にぽっかりとひとつの穴が開いている。

穴には、今も紫小鬼()が途切れることなく出入りしている。


「何体いるんだよ!」

(シェイム君、声大きいよ!)

(ごめん!!)


あまりの驚きに声を抑えられなかった。

アルマさんは、この数に襲われたのか。


今目に見えているだけでも優に100体は超えている。

総数はこの何倍いるのかすら分からない。


思えばこの広大な森の中ですぐに紫小鬼を見つけられたのも、これだけの数が居たからだ。

どうするべきだ、明らかに俺たち2人で手に負える数じゃない。


(シェイム君、私はアルマさんを助けてあげたい)


気がつけば、フィリイは俺を真っ直ぐに見ていた。

どうやら怖気付いているのを勘づかれていたらしい。


そうだ、俺たちはアルマさんを助けに来たんだ。

今更何を恐れているんだ。

必ず、取り返してみせる。


(ごめん、俺弱気になってた。もう大丈夫だ。俺たちならきっと大丈夫だな)


その言葉を聞いたフィリイは嬉しそうに顔をほころばせた。


(さあ、あそこに入るタイミングを見極めないとだな)


問題はそこだ。

巣穴には絶えず紫小鬼が出入りしている。

あの数に囲まれてしまうことは避けたい。

そのため、気付かれずに巣穴に侵入するのがベストだ。


巣穴までの距離はおよそ50m。

全力で駆ければ3秒もかからない。

ほんの少しだけ、数秒だけ紫小鬼の意識を逸らすことが出来れば侵入できる。


俺が頭を抱えていたその時、突然紫小鬼達が一斉に足を止めた。

そして、全員が同時に穴の外へ向かって散らばり始める。


……随分と不自然な動き方だ。

その妙に揃った動きは寒気がするほどどこか不気味だった。


何にせよ、願ってもない展開だ。

これで巣穴に入り込める。


(フィリイ走るぞ!)


フィリイに短い合図を送り、巣穴へ一直線に駆け出す。

彼女もタイミングを伺っていたようで、ほとんど同じタイミングで走り出していた。

よし、行ける!


外の紫小鬼には気づかれていない。


俺たちが一歩巣穴に踏み入れた、その瞬間。

巣穴の奥から出てくる1体の紫小鬼と目が合った。


「しまっ――」


何も出来ずだだ情けない声をあげるよりも早い、刹那。

目の前の空間を、一筋の閃光が裂いた。


紫小鬼はピクリともしない。

しかし数秒経った後、紫小鬼の首に一筋の線が走り頭部がずるりと胴体から離れて落ちた。


ドス、ドスと鈍い音を立てて転がる生首。

そして、頭が無くなった紫小鬼は地面へと倒れ込んだ。


紫小鬼が倒れて目の前の視界が開ける。

視線の先には奥深くへと続く闇が見える。


その暗がりの中に、1人の人間がいた。

そこに居たのは、フィリイだった。


さっきまで少し後ろに居たはずの彼女は、いつの間にか目の前にいた。

彼女を視界に捉えた時、既にその体からは半透明の白いオーラが消えかかっていた。


両足を前後に開き、踏み込まれた右足に重心が乗っている。

(つか)に右手を添え、ゆっくりと刀身を(さや)に納めているところだった。


普段の印象的な大きな目は細く冷たく、笑顔の絶えない普段の彼女からは想像も付かないほど冷徹な表情をしている。


冷たくなった彼女の口から、細く息が吐き出される。

そして、小さく呟いた。


「【玉帝龍(ぎょくていりゅう)一刀抜刀(いっとういあい)王龍閃(おうりゅうせん)】」


言い終えると、キンッという甲高い音と共に刀が仕舞われる。

その瞬間、フィリイはいつもの明るい調子に戻った。


「シェイム君、今のうちに行こう!」


フィリイは何事も無かったかのように俺の手を引いて洞窟を進んでいく。


「あ、ああ」


頭の整理が追いつかず曖昧な返事しか出来ないまま、フィリイに引っ張られて行った。



 ○



 暗い、寒い。

極限まで神経を張り巡らせて、自分の存在をその場から消し去る。

脱力しきらず、かつ力まない。


俺たちは極限の集中状態で岩陰に隠れる。

その岩の向こう側を紫小鬼が通り過ぎた。

出口の方に向かって歩いていたので、既に中にいた個体だろう。


紫小鬼がこの場を離れた事を確認すると、俺たちは息を吸って酸素を目一杯取り込む。


「何とかやり過ごせたな……」


「そうだね……」


洞窟に入ってから1時間、もう何度紫小鬼に出くわしたか分からない。

紫小鬼の住処は入口から進むにつれて通路が枝分かれしていて、その通路の先には少し広い空間があった。

例えるなら、アリの巣を横にした様な感じだ。


1時間進んでも奥が見えないくらい、この洞窟は広い。


洞窟内の壁には発光する鉱石がはめ込まれており、【生理的強化】による視界補正も相まって、内部は薄暗くも不自由ではなかった。


この鉱石をはめ込んだのも紫小鬼なのだろうか。

想像よりも知能が高い魔物なのかもしれない。


通路の高さは紫小鬼が立っても少し余裕を持って歩ける程度なので、俺たちにとっては少し広く感じるくらいだった。

その為歩くのも問題なく、紫小鬼が来たら隠れられるスペースもあった。


「そういえば、結構奥に来たけどまだ【魔石】は見てないよね?」


フィリイが不思議そうに俺に尋ねる。


確かに、これだけ奥へ進み色んな場所を見てきたのに、一向に【魔石】は見当たらない。

そろそろ1番奥が見えてきてもいい頃だと思うんだけど。


「……とにかく進むしかない」


再び通路を歩き始めた。

コツコツと岩の上を歩く音と、どこからか聞こえてくる水の滴る音だけがこだましている。


それから五分くらい経った頃だろうか。

突如、フィリイが大きな声をあげる。


「シェイム君、あれ見て!」


フィリイが嬉しそうに指を指す先には、一際奥行きのある空間が広がっていた。

彼女は楽しそうに小走りでそこへ向かう。


「そんな無防備に……!」


不安を抱えながらもフィリイの後を追う。

そして、有り得ない光景を()の当たりにした。


通路の最奥には、高さ50メートルにも及ぶ広い空間が広がっていた。

縦横も100メートルはありそうだ。


「なんだここは……!」


これには興奮を抑えきれなかった。

紫小鬼の巣であることも忘れ、自然が作り出した大ホールにフィリイと一緒になってはしゃぐ。

そして一通り騒いだ後、俺たちはある事に気づく。


この空間の壁沿いには、壁を伝うようにあるものが乱雑に高く積み上げられていた。

フィリイはそのひとつを手に取り、断言した。


「……シェイム君、これ【魔石】だ。ここにあるの、全部……!」


「……まじかよ」


辺りを見渡す。

壁一面を覆う黒。


この全てが、【魔石】だと……?


ここにあるだけで、何十トンあるかわからないくらいだぞ。


「いくら収集する習性があるからって、異例な群れを作ってまでこれだけの数を集めているのは何故だ……?」


洞窟の前で見た紫小鬼たちの奇妙な行動を思い出した。

なんというか、あれは群れで集団行動を取っているという次元では無かった。


全員が同時に命令を受けているような――


「おやおや、こんな場所に人間がやってくるなんて、珍しいこともあるんですねえ」


突然、空間内に声が響いた。

瞬時に警戒し、声の方に注意を向ける。


この声、この耳にへばりつく様な話し方。


……聞き覚えがある。


「そして、それがどうしてあなたなんでしょうねえ」


俺たちが見上げる視線の先、この空間内に存在する小さな崖。

その暗がりに、1人の男の姿があった。


刹那、禍々しい【魔力】が辺りに充満する。


「お久しぶりですねえ、シェイム君。私の事、忘れたりしてないですよねえ?」


俺の目は完全にその声の主の姿を捉える。


「忘れるわけ、ねえだろ……!」


思わず両手の拳に力が入る。

怒りで体が震える。


忘れるわけが無い。

旅を始める直接の原因になった男だ。


あの日、あの夜。

俺を殺しに来てその寸前まで追い込んだ男。


この運命に引き入れた張本人。


「なんで、なんでお前がここに居るんだ、()()()()!!」

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