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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第二章『初陣』

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19/69

第二節『偽りの』② ・開かれる扉・

 朝。

時計の針は8時を指している頃だろうか。

セルス滞在2日目。

俺たちは今、森の中にいた。


「そう、そのまま集中して。全身を巡る【魔力】の流れを感じ取るの」


目の前には真剣な眼差しをしているであろうフィリイが立っている。

時折聞こえてくる彼女のアドバイスに耳を傾け、目を閉じたまま集中する。


現在、俺たちは【魔力】の特訓をしていた。


なぜそんなことになっているのか。

それは昨日の昼下がりにまで遡る。


 ・

 ・

 ・


『まず、【魔力】ってどこから発生してると思う?』


『し、心臓とか……?』


『ぶっぶー、残念。正解は、体内に宿す【魔獣】から、だよ』


『あ、あぁ!確かそんな感じだったような気もしなくもないなぁ!』


『……シェイム君、分からないなら分からないって言わないとダメだよ』


『……分かりませんでした』


『よろしい。【魔獣】っていうのは実態がなくて、概念的に存在するものなんだけど、まぁ難しい話はまた今度。とりあえず今は【魔力】の根源だって覚えおいて』


『わかった』


『その【魔獣】から【魔力】は常に発生してるんだけど、そのエネルギーは膨大すぎるから人間には扱いきれないの。だから、人間は【魔獣】から発生する【魔力】の一部を【魔力タンク】に貯めて、量を限定して初めて【魔力】として使えるようになるの』


『ちょっと難しいな』


『うーん、じゃあ川をイメージしてみて。川に流れてる水全部を一気に手に入れるのは無理でしょ?だから川に流れてる水を一度バケツに汲んで、その中の水を活用するの』


『わかったような気がする!』


『良かった!じゃあ話を進めるね。【魔力タンク】に入り切らなかった【魔力】の一部は、自動的に身体機能を強化してくれるの』


『それって【身体強化】ってやつだよな?身体の能力を底上げするっていう』


『惜しい!身体機能を強化する仕組みは二つあって、シェイム君が言ってるのはまた別の方だね!今話してる身体機能の強化は自分の意思とは関係なく常に行われてる強化なの。【生理的強化】って呼ばれてるね』


『唯一知ってることだと思ったのに……』


『そんなに落ち込まないで。それに、シェイム君が言っていることも正しいんだよ。身体機能の強化のもう一つは【魔力タンク】内の【魔力】を使って強化する仕組みで、それが【身体強化】って呼ばれてるの。【身体強化】は【生理的強化】と違って自分の意思で行う強化だね』


『へぇ、身体機能の強化にも二種類あるのか』


『【魔力】って知れば知るほど奥が深いでしょ。最後に【特性】について説明するね。さっき話した【身体強化】は、誰にでも使える【一般能】っていう能力の一つなんだけど、【魔力】にはその人にしか使えない能力があるの。これはシェイム君も知ってるんじゃないかな』


『【特性】か……【身体強化】とは違う特殊な能力は見たことならあるよ。確か【空気砲(エアバズーカ)】っていうやつ』


『多分それも【特性】だね。全ての【魔獣】は【特性】を持っているって言われてるんだけど、実際に【特性】が発現する人は一部の人だけなの。【特性】が発現していない【魔力】は【覚前魔力】、【特性】が発現している【魔力】は【覚醒魔力】って呼ばれてるよ』


『言われてみれば俺の周りにも【特性】を発現させてた人は少なかったな』


『【特性】の発現条件はまだ解明されてなくて、色んな憶測が飛んでるくらいだからねぇ。それで、シェイム君は今【覚前魔力】で【生理的強化】のみ。一番伸びしろがある状態なんだよ!』


『初期も初期ってことか……伸びしろってことは、練習すれば成長するもんなの?』


『もちろん!だから、私が特訓してあげる!!』


『特訓?!』


 ・

 ・

 ・


そうして今に至る。


特訓に付き合わせるのは申し訳ないと断ったのだが、フィリイはこれも何かの縁よ!の一点張りで提案を曲げなかった。

案外、彼女は頑固なのかもしれない。


【魔力】の特訓期間は1週間。

早朝から初めて2時間が経過した今、この特訓の難しさを痛感していた。


「【魔力】は常にシェイム君の身体の中に流れてる。集中して、それを感じ取ってみて」


大抵の【魔力】を持っている人は、幼い頃に【魔力】の流れを感じる瞬間があるんだそうだ。

しかし、【魔力】を抑え込まれていた俺にその感覚が訪れることは無かった。


「……ダメだ、何も掴めない」


1度目を開いて大きく息を吐いた。

暑い中集中して立っていたからか、その場から動いていないのに汗が首筋を伝う。


「ちょっと休もっか」


フィリイはそう言って、手に持っていた水を渡す。

ありがとうと言って受け取ると、それを勢いよく体に流し込んだ。


俺にとって【魔力】なんてのは血液と一緒だ。

普通に生活しててその流れを感じろなんて言われてもわかる気がしない。


「これは大変な特訓になりそうだ」


【セルス】の街から少し離れた場所にあるこの森には、俺とフィリイの2人の姿しか見当たらない。

地べたに腰を下ろし、適当な木の幹に背中を預けた。


「今日はまだ一日目だもん、出来なくて当然だよ。そんなに簡単に出来たら世の中の皆とんでもなく強くなっちゃうよ?」


「……そうだな、気長にやってみるよ」


少し思い詰めていたが、フィリイの笑顔を見ると嫌な気持ちがスっとどこかへ引いていった。

もしかすると彼女は【癒し】なんていう【特性】を持っているのかもしれない。


視線を泳がしていると、ふと左腕の腕輪が視界に入る。

途方に暮れ、何となく左腕の腕輪を空に透かした。

それは木漏れ日を受けてキラキラと輝いている。


【魔力】の仕組みを理解した今だからこそ、この腕輪の効果がなんとなくわかる。


【魔力】は常に体内から発生している。

【天才の魔力】が特別なのならば、溢れた【魔力】で気づかれるはずだ。

つまりこの腕輪には、【天才の魔力】でさえも感知されないほどの強力な封印が施されていることになる。


「……ん?」


ふと、心に引っかかる事があった。

それはティリアから俺を救ってくれた恩人、ゼノアさんの事だ。

腕輪を見せた時、彼は腕輪に手をかざした。


そうだ、そしてその時腕輪が光ったんだ。

そうなんだけど、引っかかっているのはそこじゃない。

なんだったっけ、思い出せ俺。


「そういえば、【魔力】を使う感覚を暖かいものが体を流れるって表現している人もいたよ」


フィリイが思い出したように呟いた。

そして、その言葉が俺の記憶を完全に蘇らせた。


「そうだ、これだ!」


思わず声を上げてその場に立ち上がる。

そして、急いで先程まで練習していた位置についた。


そうだ、あの時生まれて初めての感覚を味わったんだ。

あれは【魔力】の()()を感じていたんじゃないか?


それはまるで体の中を暖かい水が流れるようで――


目を閉じ、あの時の感覚を鮮明に思い出す。

頭の先からつま先までそれが全身を流れている様子をイメージする。


徐々に体温が上がっていく。

体に流れる血液が、熱く沸騰する。


そして、ゾワッと何かが流れるのを感じた。

瞬間、外界から干渉する情報が全て遮断された。


そして、少しずつ世界の輪郭を描き出す。

必要な情報以外が取り除かれ、研ぎ澄まされた感覚が得た情報の細部まで掌握する。


「シェ、シェイム君……め、目開けて……!」


フィリイの声でゆっくりと目を開いて自分の体を見る。


俺の体は、半透明の白いオーラで覆われていた。


視線を上げても視界は普段と変わらない。

むしろよりクリアに見える。


「やった、出来た――」


そう声に出して喜んだ瞬間、オーラは体から消え去った。


「凄い、凄いよシェイム君!まさか一日目で出来ちゃうなんて!」


そう言って飛び跳ねるフィリイは、俺よりも喜んでいるように見えた。


「今のが、【魔力】」


やった、出来たんだ、【魔力】を使えたんだ。


幼い頃から【持たざる者】であることを受け入れて過ごしてきた。

それでも、【魔力】を扱うことに対する憧れは捨てきれなかった。


それが生を受けて16年たった今、ようやく、本当にようやく【魔力】を使えたんだ。


「よしっっ!!」


恥ずかしげもなく大袈裟にガッツポーズを取る。

喜びを抑えきれなかった。


「ありがとう、フィリイのおかげだ!」


俺たちは勢いよくハイタッチをした。

もしかしたら、これが人生の中で1番の笑顔だったかもしれない。


「よーし、この調子でこれからもどんどん強くなろう!」


気分は最高潮に昂っていた。

これが、人生で初めて【魔力】を操った瞬間だった。

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