第二節『偽りの』① ・別の道・
第二節「偽りの」に入ります。
この世界において、子供たちの憧れの職業は2つある。
1つは「兵士」。
【政魔】を初めとする【世界三大兵団】が特に人気を博している。
もう1つは「冒険者」。
冒険者ギルドに届く依頼を受諾し、回復薬の元となる薬草の採取から、害悪な魔物退治まで幅広く活動する。
冒険者という職業には夢がある。
それは高いランクに上り詰める事や、魔物から採取出来る希少部位などで一攫千金を狙う事など多岐にわたる。
小さい頃、自分がどっち派かどうかでよく話が盛り上がっていたのを覚えている。
俺は昔から「兵士」派だった。
これまでの人生柄、誰かを守れる強い「兵士」に強い憧れを抱いていた。
それは月日を経て16歳になった今でも変わらない。
俺の夢は、昔も今も【政魔】の「兵士」になる事だ。
「F級の依頼あるかな」
隣にいるのは1人の少女。
彼女は名をフィリイという。
フィリイは依頼ボードの前で依頼を物色する。
俺たちは先程、【セルス】にある大きな冒険者ギルドで登録手続きを行った。
つまり「冒険者」派に寝返ったのだ。
もはや「冒険者」派でもなく本物の冒険者になったんだけど……
その原因は紛れもない、フィリイの存在だ。
彼女はこの街に冒険者登録をしに来た。
長旅の末今日この街にたどり着いたものの、疲れきった体はこの街の活気に宛てられてしまい、あの噴水で休んでいたらしい。
タイミングも行動も、偶然全く同じだった。
話を聞いていて分かったのだが、その時彼女は俺と真反対の位置に座っていたらしい。
その後、彼女は冒険者ギルドに向かって歩き始め、偶然【魔力】を暴発させてしまった。
そして、偶然彼女の前を歩いていた俺にぶつかったのだ。
本当に、人の出会いとは不思議なものだ。
しかし、俺からすれば何も偶然の連続では無いようにも思える。
フィリイとは既に夢の中で会っていた。
だからこの出会いは必然だったんだとも思う。
つまり何が言いたいかというと、冒険者になる事も必然だったのではないか、という事だ。
決して自分の夢を諦める為の都合の良い言い訳では無い。
いやまじで。
ただ、冒険者登録の際に小金貨2枚を請求されたのは想定外の痛手だった。
母さんから金貨5枚を貰ってなかったら完全にアウトだ。
改めてありがとうを伝えたい。
「F級の依頼、全然ないねぇ」
「まあまあ、そんなにすぐ依頼を受けなくてもいいんじゃないか?」
フィリイはガックリと肩を落とした。
相当楽しみにしていたのだろう。
なんせ彼女は冒険者について豊富な知識を持っていた。
正直、次から次に出てくる情報に戸惑ったくらいだ。
そんな彼女は冒険者ギルドに向かう道中、ギルドの仕組みについて説明してくれた。
冒険者には等級があり、上から順にS、A、B、C、D、E、Fの7つの区分がある。
等級は依頼をこなすことによって上がっていくらしい。
冒険者登録を行った冒険者は等しくF級からのスタートになる。
冒険者は自分の等級以下の依頼しか受けられないシステムなんだそうだ。
そんな訳で、F級の俺たちはF級の依頼しか受けられない。
しかし、ここは日夜冒険者が生まれる街、セルス。
F級の依頼の競争率はかなり高い。
おまけに誰かが依頼を受けている間、他の冒険者はその依頼を重ねて受けることは出来ない。
「すっごく楽しみにしてたのにぃ」
頬を膨らませるフィリイをなだめ、仕方なくその場を後にした。
やたら天井の高いこの建物には、こうしている間にも人が激しく流れている。
「ここにいる人が全員冒険者だなんて、広い世界だよなぁ」
「この活気溢れる感じ、冒険者になったって感じがするね……!」
雑踏を掻き分け出口に向かっていた時、前から歩いてきた男性冒険者2人の会話がふと耳に止まる。
「おい、あのやばい噂聞いたか?」
「いいや、そんなの知らねぇな。なんだよそのやばい噂って」
ただのよくある世間話。
意識して聞こうとした訳では無いが、なんとなくその会話が耳に入ってきた。
「なんでも、【天才】が確認されたらしいぜ」
男が放った言葉は、俺の足を止めるのには十分過ぎるほどの内容だった。
耳鳴りがして、世界の動きが止まる。
目のピントが世界から外れ、意識が何処か遠くから俺を見下ろす。
音を無くした世界は、やけに早くなった自分の鼓動をはっきりと全身に感じさせた。
なんで、なんでそんな噂が流れてるんだよ。
何かミスをしたのか。
既に【天才の魔力】が溢れていたのか。
気づかれたとするならいつだ、一体誰が――
「シェイム君、大丈夫?」
フィリイの一声で世界は再び動き始めた。
気がつけば出入口の真ん中で立ち尽くしていた。
周りの冒険者は迷惑そうな顔で俺をよけている。
急いで後ろを振り返るが、噂話をしていた男性2人は既に人混みの中に消えていた。
もう真相を確かめることも出来ない。
「ああ、大丈夫」
何とか平静を装って人混みを抜けた。
そもそも彼らの話が本当かどうかは分からない。
しかし、少なくともそういう噂がある以上、【天才】の存在に対して敏感になっているということ。
横を歩くフィリイを見る。
もし腕輪の効果が消えているのなら、彼女を初めこの場にいる人が勘づかない訳が無い。
となればその噂話は俺以外の他の【天才】だと考えるのが妥当だ。
大丈夫、俺じゃない。
いまだに落ち着かない心臓を無理やりなだめる。
そうだ、冒険者になったからといって安心していいわけじゃない。
フィリイに会って忘れかけていたが、これは正体を隠すための旅だ。
その点冒険者なら、世界各地を転々としていても依頼を求めていると言えば怪しまれることも無い。
旅の目的は【天才】であることを隠すこと。
生きるために、目的を忘れるな。
○
「シェイム君って、どのくらい【魔力】を使えるの?」
フィリイは笑顔で質問する。
「どのくらい……なんだろう」
突然の問に、答えを迷う。
ギルドを後にした俺たちは、今後の予定を立てるべく場所を移していた。
ここはフィリイと出会う前に、噴水があった通りで気になっていたカフェだ。
先程の質問に対する回答を探す。
自分で身につけたと思っていた身体能力も【魔力】による【身体強化】が理由だった。
だったら【魔力】を使えるのか?
しかし、自分から使おうと思って使ったことはない。
そもそも【魔力】ってどのくらいって言葉に表せる物なのだろうか。
「自分で使おうと思って使ったことはない……かな」
戸惑いながらもありのままに伝える。
フィリイは少し眉をひそめ、うーんと少し考える。
「……ってことは【覚前魔力】で【生理的強化】しか使えないの?」
「い、今なんて言った?知らない単語ばっかりだったんだけど……」
そう言うと、フィリイは心底驚いた顔をする。
「シェイム君、今の言葉知らないのはかなりレアだよ」
そんな大袈裟な。
確かに勉強は得意ではないけど、これでもこの前まで【ベルツ】有数のエリート校【栄華学園】の生徒だったんだ。
そんな常識とまで言われる知識を知らない訳が無いじゃないか。
いや、待てよ。
【魔力】関連の授業は自分に関係ないと思ってほとんど話聞いてなかったっけ。
そういえばテストの点数も散々だった気が――
「ごめんなさい……無知な俺に教えてください……」
情けなく涙目に訴える。
嫌だ、こんな馬鹿な人だと思われたくない。
しかし、見栄を張って話を合わせられる自信もない。
こんなことなら勉強しておくんだった……
「まあまあ、そりゃあ知らない人もいるわよね。うん、教えてあげるね」
フィリイはそう言ってほほ笑みかける。
なんだ、ただの女神か。
そうして俺は自分の無知を恥ながら、彼女の話を真剣に聞くのだった。
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