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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第二章『初陣』

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第一節『出会い』⑤ ・邂逅・

 「いったたた……」


突然の爆発音の直後、背中にぶつかってきたのは人間のようだった。

怪我をしたのか、背中の上に乗ったまま(うめ)き声を上げる。

声を聞く限り、若い女性のようだ。


「あのー、大丈夫ですか……?」


顔の見えない女性に向かって、遠慮がちに声を掛ける。

状況は理解できないが、あれだけの勢いであれば怪我をしていてもおかしくない。


俺の声を聞いたその女性はビクッと体を震わせ、慌ててその場から飛び退いた。


「えええ、人?!ごめんなさい!」


女性は心底驚いた様な反応を見せる。

なんだ、元気そうじゃないか。


起き上がろうとすると、彼女は手を差し伸べてきた。

人を椅子にしておいて気づいていないとは、なんとも呆れる人だ。


有難くその手を取り体を起こす。


「ありがとうござ――」


俺は彼女と正面から向き合って礼を言おうとした。

そして、言葉を失った。


思わずその場で硬直してしまう。


「ほんっとにごめんなさい!怪我はありませんか?」


世界から、音が消えた。

正確には彼女が発する言葉以外の音だ。

その薄い唇から飛び出した言葉は、真っ直ぐに俺に突き刺さる。


大きな瞳。

高く通った鼻筋。

凛とした眉と、整った顎のライン。

肩にかかる黒く艶のある髪。


心臓が高鳴り体は熱を帯びる。

自分の中に様々な感情が同時に流れ込んで、心の水面(みなも)を荒波に変える。


「いやー、私ったらダメねー。まだ【魔力】が暴発しちゃうんだもん」


そう言って彼女はとびきりの笑顔を向けた。

彼女の声に、一挙一動に、瞳の全てを奪われる。


そうだ、やっぱりそうだ。


目の前に現れるあの人はいつも暗い闇の中にいた。

悲しみや憎しみ、そして殺意。

彼女は常に負の感情で満ちていた。


でも、自分の中で何度想像しただろう、どれだけ望んだだろう。

そうだ、やはり彼女には、()()が1番似合う。


今目の前に居るのは、名前も知らないあの人だ。


夢に現れた、あの人だ。

絶望の中にいた俺を救ってくれた、あの人だ。

何度も何度も会いたいと懇願した、あの人だ。


現実だ、これは現実だ、夢じゃない。

本当に会えたんだ。


「おーい、大丈夫?ボーッとしてるよ?」


彼女は俺の顔を覗き込んでフリフリと手を振る。

その距離がやけに近く感じて、慌てて仰け反り数歩後ろに下がった。


「えっ?!いや、うん、その、大丈夫」


もっとスマートに返せよ俺!!


何故か緊張してしまって、上手く返事が出来なかった。


思えば、俺がどれだけ彼女を探していたとしても、彼女にとって俺は初対面だ。

そんな人に探していた、なんて伝えられても恐怖しか感じないだろ。

礼を言うっていうのも不自然だよな……。


「大丈夫そうで良かった。えっと、私行かなきゃ。それじゃあね」


彼女は始終笑顔のまま、その場を離れてしまう。

おいシェイム、いいのか。

このまま、何も無いまま終わってもいいのか。

彼女はお前にとってその程度の人物だったのか。


「あ、あのっ!」


気がつけば大きな声で呼び止めていた。

街の人達が俺を見るが、呼ばれたのが自分ではないと気がつくと目線を逸らした。

少し先にいた彼女は、俺の呼び掛けに振り向く。


「どうしたの?」


「いや、その、えっと――」


思わず呼び止めたものの、その後のことを考えていなかった。

2人の間に沈黙が漂う。


彼女は不思議そうに、そして少し困ったような顔で俺を見ると、微かに首を傾げた。

その仕草があまりに可憐で、余計に頭の中は真っ白になる。


ふと、夢の中で見た彼女の格好を思い出した。

確か、彼女は冒険者の格好をしていた。


しかし、目の前に居る彼女は防具を身につけていない。

大きめのカバンを担ぎ、いたって普通の服を着ている。


待てよ、彼女はなんでこの街に居る。

ここに何をしに来た?


彼女が進んでいた方向を見る。

その先には一際目立つ高い建物。


……もしかしたら。


「もしかして、冒険者になりに来たんじゃない?」


一かバチか、彼女にそう言った。

すると彼女は一度キョトンとした顔をしたかと思うと、今度はずんずんとこちらに近づいてきた。


「そう、そうだよ!なんでわかったの?!あ、もしかして君も今日登録に来たのね!」


彼女は嬉しそうにそう言った。

おもちゃで遊んでもらう仔犬のように、その大きな瞳を輝かせている。


「え?ああ、うん。そうなんだよ」


咄嗟に話を合わせてしまう。


いや違う、そんなつもりはないんだ。

俺には別の夢があって――


「良かったー。私不安だったの、1人だったし。でももう安心ね、君も仲間なんだもん。これも何かの縁ね!」


彼女は俺の手を取ると、よろしくねとブンブンと激しい握手をする。


想定外の展開になってしまったが、取り敢えずは良かった……のか?


とにかく、これで晴れて彼女と知り合いになることが出来たわけだ。


それにしても、彼女はなんて表情豊かなんだろう。

夢の中で見た人とはまるで別人のようだ。

俺が知っているのはもっと、鋭い眼光の殺意にまみれた表情だ。


何故、彼女はあんな顔をしていたのだろう。

何が彼女をあそこまで変えてしまうのだろうか。

この人をもっと知りたいという感情が溢れてくる。


「今から登録に行くんだけど、良かったら一緒に行かない?君、ええっと――」


「そういえばまだ名乗ってなかったな。俺はシェイム。君は?」


「私はフィリイ。シェイム、いい名前だね」


フィリイはそう言って、再び俺に笑いかける。


ああ、なんだ。

別に、彼女が俺の事を知らなくてもいいじゃないか。

冒険者として生きていくのもいいじゃないか。


俺はフィリイの笑顔を見るためにここまで来たんだ。

これまでの人生は彼女に会うためのものだった、そう思うほどに彼女の笑顔は素敵だった。


フィリイが笑うと、その場が輝く。


俺にとって彼女は眩しかった。

それは頭上に昇る太陽よりもきっと。

次回から、第二節『偽りの』に入ります。


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