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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第二章『初陣』

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第一節『出会い』④ ・セルスへ・

 誰かが、体を揺すっている。

以前にも感じたことのある揺れだ。


いや、違う。

これは馬車の揺れだ。


「うっ……」


俺の意識はうめき声と共に現実へ引き戻される。

目を開けるとそこには広大な空が広がっていた。


「頭がぼーっとするな……」


そのまましばらく呆然と空を眺める。

体が炭酸のようになって空へ吸い込まれていくようだった。


「良かった!目を覚ましたんだな!」


声を掛けてくれたのはダルタさんだった。

馬車を進ませながら顔をこちらに向けている。

意識は戻ったが、脳が働かず言葉が出てこない。


「まだ本調子じゃないよな、そりゃあ。おれが持ってた【中級回復薬】で傷は塞がったが、なんせ血を流しすぎだ」


どうやら、キュルネルラにやられた傷を手当してくれたらしい。

……この間から誰かに助けて貰ってばっかりだな。


「無理するなよ?もうすぐセルスだ。まだ寝てな」


本音を言うと、まだ体を起こせないでいた。

ダルタさんの言葉に甘えてしばらく休もう。


俺は再び目を閉じる。

さっきまで意識を失っていたのにも関わらず、眠気はすぐにやってきた。


どうやら先程まで夢を見ていたらしい。

さっき見た夢の景色は、まだ鮮明に思い返すことができる。

夢の中、水の中でまた()()に会ったんだ。


そういえば、最後に彼女はなんて言ってたんだっけ。


ああ、そうだ。

俺の事を許さないと言った彼女は、最後にこっちを見て言ったんだ。


――すぐに会えるわ――


おかしいな。

あんなに憎しみしかぶつけてこなかった彼女は最後、微かに笑ったように見えた。


きっと気の所為なんだろう。

だけど、そうだったら、どんなに素敵だろうか。



 ○



 「おおー、すげー!」


「おいおい、そんなに乗り出すと落っこっちまうぜ」


目の前に見えるのは高くそびえ立つ壁。

立派に【セルス】を覆う防衛壁に感心していた。


あの後数時間眠って目を覚ますと、体は何事もなかったかのように回復した。

ほんと、【魔力】って凄いよな。


俺たちの目的地【セルス】は今いる平原の中央に位置しているらしい。

この平原には魔物が多く生息している様で、この街は高さ15メートル程の防衛壁によってぐるっと囲われている。

キュルネルラの様な魔物がうじゃうじゃ居るのなら納得だ。


ちなみに、俺が今いる荷台にはあの10メートル級のキュルネルラが同席している。

死んだ際に脚を折りたたんで随分コンパクトになっているものの、その存在感は凄い。

体を起こしてこれが目の前にいた時は、軽いパニックを起こしてしまった。


キュルネルラの爪は高値で扱われているらしく、このサイズだと良い値がつくらしい。

他にも使える素材が多く取れるようなので、これを売って資金にするといいとダルタさんが教えてくれた。

この魔物の処遇については後で決めようと思う。


お昼になった頃、俺たちはセルスの防衛壁の前にある列に並んでいた。

街に入るためには軽い検問を受ける必要があるようだ。

高いアーチ状の入口に、どんどん人が流れていく。


しばらくして、俺たちの番が回ってきた。

ダルタさんは荷馬車を止める。


「荷物の確認をする。布を取ってくれ」


検問員はそう指示をした。


荷台には大きな布を掛けてある。

もちろん()が居るからだ。

ダルタさんと2人で布を剥がした。


「こっ、これは?!キュ、キュルネルラなのか?!」


検問員は(いぶか)しげにそれを見つめると、目を閉じて深呼吸をする。


「いや、何年も検問をしているが、このサイズで、しかもこんなに状態がいいのは初めて見たよ」


検問員は被っていた帽子のつばを掴んでキュキュっと被り直すと、高値で売れるといいなと声を掛けて通してくれた。

なんだよ、めちゃくちゃいい人じゃないか。

あの人の態度が良いだけでこの街が好きになれそうだ。


入口をくぐると、そこに広がるのは見たこともない景色。

俺が住んでいた街とは様相がかなり違っていた。


建物は朱色のレンガを基調としていて、武器や防具に関連する建物が多く見られる。

また、街の中には緑が多く残されており、まるで森と街が共存しているかのようだった。


街には呼び込みの声や鉄を叩く音などが飛び交い、どこもかしこも活気に溢れている。

建物が太陽の光を目一杯に受けて、輝いていた。


「ここが【始まりの街】、【セルス】か!!」


ダルタさんは何度も訪れているからか驚いた様子もなく、興奮する俺を見て笑っていた。


商人用の広場に馬車を停めると、荷台から降りてセルスの地を踏みしめる。

ダルタさんは二頭のネルホースに、よく頑張ったなと声を掛けていた。


「ダルタさん、長い間お世話になりました」


改めて礼を述べ、頭を深く下げた。


感謝してもしきれない。

本当に、いい人に巡り会えた。


「おいおい、よしてくれよ。さぁもう行きな。良い冒険者になれよ」


ダルタさんは照れくさそうに頭を掻くと、別れを告げた。

どうやら感謝されるのは苦手なようだ。


「最後に一つお願いがあるんですけど、聞いてもらってもいいですか?」


「ああ、いいぞ。なにか必要な物でもあるのか?」


そう言ってダルタさんは荷台を漁り始めた。

これは使えそうにねえなーと言って物を退けていく。


「このキュルネルラ、引き取ってください」


突然の提案にダルタさんは目を丸くする。

そして、引きつった笑顔を浮かべた。


「おいおい、何言ってるんだ?!こいつの価値は散々説明したろ?!こんなサイズは滅多にお目にかかれねえ。コイツを倒したのは紛れもなくシェイムだ。所有権はお前にある」


ダルタさんは必死に俺を説得しようと試みる。


ごめん、ダルタさん。

もう決めたんだ。


「俺、コイツの処理の仕方も知らないし!」


それだけ伝えると、その場から駆け出した。


ダルタさんは本当にいい人だ。

()()()()である俺にも、こんなに優しくしてくれる。

きっとこれくらい強引じゃないと引き取ってくれない。


後ろから、ダルタさんの声がする。


「おめーならきっと、いい冒険者になれる!」


小さくなったダルタさんを見ると、彼はグッドマークを突き出していた。


ありがとう、ダルタさん。

旅の初めに会ったのがあなたで良かった。

何となく、俺は頑張れる気がするよ。


大きく手を振り、振り返るのを止めて歩み出す。

目から溢れ出た感情を、見られたくなかった。



 ○



 「どうだい兄ちゃん、いい装備があるんだ」


「冒険者を始めるなら俺の店さ。なんでも揃うぜ」


「ちょっと見ていかないかい?」


「まだ装備揃えてないのか?ラッキーだな。俺の店に寄っていきな」


ダルタさんと別れた後、街の大通りを歩いていた。

流石は冒険者で盛り上がる街【セルス】。

この通りにあるのは殆どが装備に関するお店だ。


そして、その呼び込みが元気すぎる。

少し進めばすぐ別の店に捕まってしまう。


道行く人々は鎧を身につけ武器を携えている。

国境を超えるだけで世界はこんなにも表情を変えるものなのか。


「ま、また今度にしますぅ!!」


街の人々の熱量に圧倒され、大通りから外れる。

すると、先程と打って変わって静かな通りに出た。


道をひとつ出ただけで、冒険者たちの賑わいが遠くに感じられた。


どうやらここには飲食店が並んでいるようだ。

オシャレなカフェのテラスでは、落ち着いた雰囲気の熟年夫婦がお茶を楽しんでいる。


少し進んだ先の噴水広場で、噴水の(へり)に腰を下ろして一息つく。

ふと顔を上げると、「ようこそ、セルスへ!」という文字が目に入った。

その文字は街の全体図と共に看板に描かれている。

新たに街を訪れる人が多いからか、親切にも解説してくれているようだ。


案内板によると、この街には8つの大通りが存在するらしい。

そして、その道は全てひとつの場所に繋がっている。


街の中心に位置し、この街の象徴。

一際高いその建物は、街のどこからでも姿を見ることができる。


看板から視線を添わせてその建物を見上げた。


「あれが、冒険者ギルド」


壁は石造りで、朱色の屋根は長く尖っている。

正面には大きなバラ窓が構えていて、建物全体に豪華な装飾が施されている。

まるでひとつの城を思わせるような風貌だ。


この街にいる人のほとんどがあの建物に足を向ける。

ある者は依頼を受けに、ある者は依頼結果の報告に。

そして、ある者は冒険者としての人生を踏み出すために向かう。


「冒険者、なぁ」


俺の夢は【政魔】の兵士になる事だ。

しかし、それは以前の状態だからこそ目指せた事。

今の俺には到底叶えられそうにない。

そんな場所に行けば確実に【天才】だと気づかれ、殺される。


それならば、冒険者として生計を立てる方が良いのではないか。

むしろ、これからの生活を考えるとその方がいい気もする。


ただ、小さい頃からの夢をそう簡単に諦めることも出来ない。


「せめて何かきっかけでもあれば考えるんだけどな」


難しく考えるのをやめ、重い腰を上げた。


「とりあえず、もう少し街を見て回るか」


ゆっくりと歩き始めた瞬間、後ろで何か爆発音のようなものが響いた。

振り返るよりも早く、何かが背中に勢いよくぶつかった。


突然の事で抵抗ができず、その場に倒れ込む。

なんだ、何が起きたんだ?!

慌てて起き上がろうとするが、背中に何かが乗っている。


()ったたた……」


上に乗っているのは、どうやら人間のようだった。

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