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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第二章『初陣』

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第一節『出会い』③ ・夢の少女・

 「危ない!」


ダルタさんの声がこだまする。

頭上からいかにも硬そうな黒光りした鋭い爪が振り下ろされた。


集中してその軌道を読み、それを逸らす様にシャベルの側面で攻撃を受け流す。


「ひいいぃぃ!」


それを見ていたダルタさんが情けない声で叫ぶ。

ちなみに戦闘が始まってから5分、ダルタさんはずっとこの調子だ。

俺の後ろから危ない!と叫んだ後、それを見てひいいと叫び声をあげる。

早く方を付けないと、ダルタさんの喉がもちそうにない。


「キュルルラァァ!」


自分の攻撃がいなされる事に(いきどお)りを感じたのか、キュルネルラが大きな雄叫びを発する。

そう興奮するな、この武器の前では仕方がない。


俺が手にしているシャベルは、最初こそ動揺したが使ってみるとそれなりに使い勝手が良かった。

両手で握れるので力も入るし、片手で持っても丁度いい長さ。

少し反った形をしている鉄も攻撃を逸らすには便利だった。

欠点があるとするなら決定力に欠ける事だろうか。


隙が出来たキュルネルラの脚にシャベルを振り下ろす。

しかし、その一撃は魔物の頑丈な身体に当たり硬い音を響かせた。

先程から何度も繰り返しているが、一向にダメージが通らない。


「キリが無いな!」


高々と挙げられた二本の脚が再び俺を襲う。

先程と同じ要領で攻撃を逸らす。


しかし、一本の脚が初めて俺に直撃。

胴体の右側を上から下へ通った爪は、肉を簡単に引き裂いた。


傷口から血が溢れ出し激痛に見舞われる。


「しまった……!」


「シェイム!」


出血があまりに酷かったからか、慌ててダルタさんが駆け寄ろうとする。


「来るな!」


すぐさまダルタさんを静止させた。

真剣な声にダルタさんは思わずその場で立ち尽くす。


「乱暴な言い方になってごめん、ダルタさん」


力強くその場に立ち、再びキュルネルラに対峙する。

奴は俺を見下すように様子を伺っていた。


「俺なら大丈夫です。もうすぐ終わりますから」


ダルタさんの方を振り向かずにそう告げた。

彼を不安にさせてはいけない。

ダルタさんも俺も、安全だと思ってもらわないと。


【政魔】の兵士は、身も心も守る。

守るべき人に希望を与えてこそ立派な兵士だ。


キュルネルラは再び攻撃を開始する。

奴の攻撃を躱し受け流すがこちらの攻撃力が足りない。


やはり勝つにはあの方法しかないか。

いや、あの方法なら必ず勝てる。


手にしたシャベルを左手に持ち、奴との距離を一気に詰める。

そして、脚の一つに飛び乗った。


「な、何してるんだ、危ない!」


例のごとくダルタさんが後ろで叫んでいる。

もしかしたら気が狂ったように見えているのかもしれない。


俺の行動に驚いたのはダルタさんだけではない。

急に獲物に飛びつかれたキュルネルラは、それを振り落とそうと慌てて脚を振り上げた。


その勢いで空中に放り投げられる。

10メートル程真下には、俺に視線を向けるキュルネルラがいた。

よし、完璧だ。


空中で体勢を整え、刃先が下になるように両手でしっかりとシャベルを握る。

そして、勢いを失った体は自由落下を開始した。


戦いの中で気づいたことが2つある。


1つはキュルネルラには攻撃できない範囲が存在する事。

奴は攻撃する時、毎回脚を限界まで持ち上げる。

それを見ていて気づいたのが、奴の真上、脚の届かない範囲は無防備だということ。


そして2つ目。

シャベルの攻撃力が低かったのは使い方に問題があったという事。

いくらシャベルを振り下ろしても、横薙ぎを繰り出しても、ダメージが通らないのは当然だ。

もっと本来の用途に近いやり方で使ってやらなければならなかったのだ。


シャベルは本来地面を掘るもの。

最も力を発揮する瞬間、それは()()()()()()()だ。


俺の意図に気がついたのか、キュルネルラが場所を変えようとする。

しかし、その大きな体は周りの木々につっかえて、その場から動くことを許されない。


「普段は森を抜けた先で暮らしてるんだろ、わざわざここに来てくれてありがとなぁ!」


俺は着地の瞬間に合わせて、シャベルをキュルネルラの胴体に勢いよく突き刺した。

シャベルは深く吸い込まれていく。

同時に、刺した場所からパキィンという甲高い音が響いた。


あんなに生き生きとしていたキュルネルラはほんの少しだけもがいた後、呆気なく動きを止めた。


「ようやく終わったか」


刺さったシャベルをそのままに、キュルネルラの体から飛び降りた。

華麗に着地を決めた後、緊張が解けたからか急に疲労感が押し寄せてくる。


「ふぅ」


魔物との初戦、シャベルがあったおかげで何とか勝つことができた。


「あーあ、服が破れたな……着替えあるからいいけど」


「おい、大丈夫か?!」


ダルタさんが駆け寄ってきて目の前であたふたしている。

その様子がなんだか面白くて、少し笑ってしまった。


「ダルタさん、何をそんなに慌ててるんですか。もう終わりましたよ」


「何笑ってるんだ!血がこんなにも!!」


ん、血……?

俺は自分の身体に目を落とした。


右半身を縦に切り裂いた傷は、今も心臓のリズムに合わせて血をドクドクと垂れ流している。


「そういえば、こんな傷もあったっけ――」


思い出した途端に全身から血の気が引いていく。

世界がぐるんぐるんと回ったかと思うと、俺の意識は真っ暗な闇に落とされた。



 ○



 気がつけば俺は、真っ暗な闇の中に居た。

体を動かすと、妙に抵抗がある。

両足をパタパタと動かす。


そして気づいた。

地面が、無い。

口を開けると、そこから空気が泡になって上へ登っていく。


(ここは……水の中か)


突然の事のはずなのに、自分でも不思議なくらい落ち着いている。

水中だというのに不思議と息苦しさは感じない。


気がついたら見知らぬ場所にいるって、前に似たようなことがあったな。

その時は橙色の空の下、広大な草原に立っていた。

そして、目の前に一人の見知らぬ少女が立っていた。


そう、これは夢だ。

あの時の感覚とかなり似ている。


状況を把握し終えた頃、目の前が明るく光って一人の少女が姿を表した。

しかし、後ろから射す光の逆光でその姿は闇に包まれている。


それでも、そのシルエットだけでも分かる。

あの人だ。

あの時の夢の人だ。

俺の命を、救ってくれた人。


――私は貴方を許さない――


突然彼女の声が頭に響く。

直後、彼女は俺に背中を向け光の方へ歩き出した。


(違う、待ってくれ――)


なんであんたが俺の事を恨んでるのかは分からない。

だけど、あんたは間違いなく俺を救ってくれた。

命の恩人なんだ。


待ってくれ、行かないでくれ。

せめて俺は。


(直接会って、礼を言いたいだけなんだ!!)


消えゆく彼女の背中に向かって大声で叫ぶ。

しかし、その声は泡となり、水の中に溶けて彼女には届かない。


必死に水をかいても体はその場から動かない。

それどころか、先程まで何も感じなかった水を急に息苦しく感じる。


急激に目の前が暗くなり始め、意識が飛びかける。

光の中に消えていく彼女は最後にこちらを振り向いて、言葉を放つ。


「――――――」


俺の意識は、暗い水の中に沈んだ。

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