第一節『出会い』② ・デビュー戦・
風に揺られさわさわと音を立てる草木、木々の隙間から射し込む光。
どこかで鳥がチピピピと鳴いている。
景色はまるで絵の具をそのまま塗りたくったように色鮮やかだ。
「ああ……なんて穏やかな朝なんだ」
木々の隙間から差し込んだ太陽の光で、俺は清々しく朝を迎える。
何日も荷台の上で寝ているはずなのに体が軽く感じた。
俺は大口を開けて欠伸をし、慣れたように仰向けのまま思いっきり伸びをする。
馬車だというのに、最早自宅の様に感じていた。
流れゆく景色の中、しばらく馬車の荷台で空を仰ぐ。
歩いていた時は気が付かなかったが、こうして改めて見るとこの森もなかなか綺麗だ。
「おーいシェイム、前を見てみろ」
「ダルタさん、あれってもしかして……!」
「【始まりの街】、【セルス】だ!」
この馬車の持ち主、商人のおじさん改めダルタさんに言われ前を見てみると、しばらく先で森が終わっている。
そして、抜けた先の平原の遠くに、小さく街が見えていた。
地図を広げて現在地を確認する。
間違いない、あれが目的の街【セルス】。
ダルタさんと旅を始めて今日で5日目。
彼の馬はネルホースという種類で、なんでも1週間は不眠不休で動き続けるらしい。
その為野営をする時以外は馬車を止めることは無かった。
今日の昼には【セルス】に着くと聞かされていたが、自分の目で見てようやく実感が湧いてきた。
ちなみに、ネルホースの「ネル」はどこかの国の古い言葉で、「寝ない」という意味があるらしい。
今日まで旅は驚く程順調に進み、その間ダルタさんは常に親切にしてくれた。
余裕が無いはずの自分の食料は分けてくれるし、常に色んなことを気遣ってくれる。
それなのに面倒くさそうな素振りは一切見せない。
世界にはこんなに優しい人がいるのかと何度驚いたことか。
どこかでこの恩は必ず返さなければならない。
旅の最初にダルタさんは俺の事を冒険者を志願する少年だと勘違いしてしまったのだが、何かと便利なのでその設定はそのままにしておいた。
当然嘘なので少し心が痛い。
冒険者になるのもこれからの選択肢としてはありなのだが、なんせ俺には別の夢がある。
俺の夢は幼い頃からから兵士になることだった。
その中でもとりわけ、【政魔】という組織に憧れている。
【世界三大兵団】のひとつに数えられる、世界でもトップクラスの兵力を誇る兵団だ。
そういえば、あれだけ心配していた魔物も運が良かったのかほとんど遭遇しなかった。
ダルタさん曰く、「この辺は魔物の心配はいらねえ。魔物による被害がほとんどねえから、こんな風に道を作れたんだぜ?」との事だった。
この道を何度も使っているであろうダルタさんがそう言うのだ、間違いないだろう。
魔物による被害は心配しなくていいようだ。
「魔物だぁ!」
突然ダルタさんがそう叫び、馬車を緊急停止させる。
「おい!シェイム急げ、逃げるぞ!」
ドタドタと荷台の方にやって来た目の焦点が合っていないダルタさんの後ろを見ると、そこには大きな蜘蛛のような魔物がいた。
嘘だろ、なんてフラグの回収速度だ。
「ダルタさん、馬車はどうするんですか!」
俺の手を引いてその場から去ろうとするダルタさんを呼び止める。
「バカヤロウ!方向転換してる暇なんて無え、馬車は置いて逃げるぞ!馬だけは逃がしてやりてぇが、そんな時間は無え!」
命が1番大事なのは分かっている。
しかし、馬車にはダルタさんが【セルス】で売るための商品が積んである。
ここで捨てていけば無駄足になる。それどころか馬車も失い損失が生まれてしまう。
おいシェイム、それでいいのか?
あれだけ良くしてもらっておいて、逃げることしかできないのか?
「違うだろ、俺……!」
拳にぐっと力を込める。
今が恩を返す、そのチャンスなんじゃないのか。
仮にも【政魔】の兵士を志していたんだろ、馬車のひとつくらい守ってみせろ。
「ダルタさん、なにか武器になるものはありませんか!」
「シェイム、お前何言って――」
「心配要りません。これでも冒険者の卵ですから」
ダルタさんの言葉を遮り言葉を被せる。
そして、真っ直ぐに目を見て訴えた。
仕方ない、今は冒険者志願者として振舞っておこう。
ダルタさんは驚きと呆れが混ざったような顔をしていたが、少しするとふーっと息を強く吐いた。
「……わかった。ちょっと待っててくれ。役に立つかは分からねえが――」
ダルタさんはガサガサと荷台を荒らし初め、奥の方から何かを取り出した。
「シェイム、これを使ってくれ」
ダルタさんは俺の手に一本の木棒を握らせる。
その棒の先には、三角形の形をした薄い鉄が付いている。
「……シャベルか」
冒険者の街【セルス】の商人だから武器があるのではないか、と思ったのは図に乗った考えだぞシェイム。
よし、シャベル、ありがたい。
槍にするには先が大きすぎるし、薙刀にするには短すぎるし、剣にするには刃が小さすぎる。
まあ言い換えれば、頑張れば何にでもなれるって事だ。
手にしたシャベルと共に馬車の前に立つ。
前方に見えるその生き物は、対峙して初めてかなり大きいのだと分かった。
脚を伸ばせば体長10メートルになろうかというそれは、いくつもの目で俺たちを睨んでいる。
「シェイム、そいつはキュルネルラって言う魔物だ!普通は体長3メートルくらいだが、そいつはかなりでけえ!ヤツの足先は鉱石のように硬い!気をつけろ!」
「ありがとうダルタさん、馬車と一緒に下がってて!」
ありがとうダルタさん、でもそんな異常性を知らせる報告はかえって緊張するな。
ダルタさんが馬車を遠ざけたのを確認すると、再び目の前の魔物と退治する。
気がつけば、先程まで聞こえていた鳥たちの声はどこかへ行ってしまった。
こいつ、俺の優雅な時間を奪った罪は重いぞ。
道幅が狭いため、キュルネルラは少し窮屈そうに脚を動かしている。
もしかすると、動きが制限されて本来の強さは発揮できないのかもしれない。
これは間違いなくチャンスだ。
自分からこの道に現れたことを後悔させてやる。
「キュルアァァアァ!」
キュルネルラは前足(?)の二本を高々と上げて俺を威嚇する。
「デビュー戦にしてはレベルが高すぎる気もするけどな……?」
冷や汗が頬を伝い顎の先から滴る。
覚悟はいいな。
手に持つ相棒を強く握り、真っ直ぐに走り出した。
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