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物語の終わりを君と  作者: お芋のタルト
第二章『初陣』

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第一節『出会い』① ・旅立ちの日・

今回から第二章『初陣』に入ります。

 早朝、陽の光が山と空の境界線からこちらを覗いている。

朝焼けはこの街の人々を等しく包み込んでいた。


俺は玄関で靴を履いていた。

隣には小さめのカバンがひとつ。

旅に出るつもりなどなかったので、手持ちの役立ちそうなものなんてこの小さなカバンに収まってしまう。


後ろには母さんが立っている。

こんな早朝にも関わらず、見送りのために早起きをしてくれた。


靴を履き終えると、立ち上がって荷物を背負った。

できるだけ動きやすい服装をしたつもりだが、これではまるでピクニックだ。

旅に出る実感も無ければ緊張感もない。


「本当に、行ってしまうのね……」


「……母さんを一人残していくのは心配だ」


「何言ってるの。これから旅に出るんだから自分の心配をしなさい……シェイムはほんと、昔から変わらないわね」


母さんは何かを思い出し、懐かしんでいるようだった。

そういえば、幼い頃から「兵士ごっこ」によく付き合ってくれていたっけ。

「母さんは俺が守る!」と恥ずかしげもなく叫んでいたのを思い出す。


「くれぐれも体には気をつけて、風邪を引かないようにね。ちゃんとご飯を食べて、しっかり寝るのよ」


「うん、ありがと」


母さんは不安な表情で俺を見つめる。

これから何が待ち受けているかなんて分からないんだから、そんなに心配しても仕方ないと思う。


「初めはどこに向かうの?」


「まずは【ヘルツ共和国】に行こうと思ってる」


向かう先は隣国【ヘルツ共和国】。


俺が今いるのは【ベルツ共和国】。

名前からもわかる通り、ふたつの国の国交は盛んで姉妹国のようなものだそうだ。

入国も簡単な為、いち早く逃げるならそこが一番だろうと結論づけた。


「そう、【ヘルツ】に行くのね。街の目星はついてるの?」


「んー、まあだいたい」


とは言うものの、具体的な行先はまだ決めていない。

なんとかなるだろうと楽観視している。


「じゃあ、行ってくるよ」


「シェイム、待って」


ドアを開けようとすると母さんが引き止めた。

振り返ると、母さんはひとつの小さな絹袋を手渡す。


それを不思議ながらも受け取った。


「少ないかもしれないけれど、旅の資金にして。私にできることはそれくらいしかないんだから、受け取ってね」


これは母さんなりのケジメなのだろう。

受け取らなかったら、母さんの気持ちも受け取らないことになってしまいそうだ。


「ありがとう、助かるよ」


素直にその袋を受け取った。


「……じゃあ、今度こそ行くよ」


「……ええ」


母さんの声は悲しみを帯びていた。

我が子を残酷な()()に引き入れてしまった、そう罪悪感を感じているのだろう。


「あんまり心配しすぎて体壊さないでくれよ?()()()も一緒に来てくれるんだ、大丈夫」


俺は優しい二人の愛を受け取っているのだから。


外に一歩踏み出して、振り返る。


「いつか必ず、胸を張って帰ってくる。だからここで待っていてくれ」


「ええ……必ず、帰ってきてね。いってらっしゃい」


いってきますと返事を返して、後ろを振り返るのをやめた。

そして、ゆっくりと歩き出した。


一歩、一歩と進む度にこの街で過ごした思い出が溢れ出す。


少しずつ歩調を上げ、駆け足気味に進む。

早くここから離れないと。


いつか帰るその日まで、必ず生き抜いてやる。

俺は心にそう誓った。



 ○



 太陽はもう頭上にある頃だろうか、今日は晴天なようで非常に暑い。

家を出た俺は森の中を歩いていた。


俺の家は目的地【ヘルツ共和国】の国境付近に位置するため、歩いても一週間で行ける距離だ。

乗り合いの馬車を使うことも考えたのだが、できるだけ人との接触はしたくない。

安全第一として徒歩を選んだ。


最短距離を行くため、ひたすら直線的に森の中を進んで行けば目的の場所はある。


とりあえず、今は何も考えずに歩こう。


「暑い……暑すぎる!」


何も考えずに?

無理だろそんなの!


「なんなんだこの気温は……!」


暑さに対するストレスというのは、どうしてこうも行き場がないのだろうか。

怒るに怒れずモヤモヤが募る。


「水、水ぅ」


カバンの中から水を取り出して体に流し込む。

いや、これ絶対水足りない。

森の中だから涼しいだろうと思ってそんなに持ってきていなかった。


「旅なめてた……」


必ず生きて帰るとかカッコつけてたけど、もう既に死線が見える。


森には魔物の驚異も存在する。

【ベルツ共和国】はそんなに魔物は多くないと聞くが、魔物の対処の仕方なんて知らないし、怖い。

武器も無いから戦うことだってできない。


「あーあ、なんか不安だらけだな。この先大丈夫かよ……」


開始早々に弱音をこぼすのだった。



 ○



 【ベルツ】には魔物が多くないって言ったやつ、今すぐに出てこい。


登った高い木の上から、噂を流したやつに喧嘩を売る。

木の下に視線を落とす。


地上では、小型の魔物達が(うごめ)いていた。


「魔物多くね?」


現在時刻は夜。

高い木に登って太い枝の上から下の様子をびくびくと伺っている。


もう疲れた、一日目にして疲れた。

この様子では今夜は落ち着いて寝られそうもない。


落ち着かない心を精一杯なだめ、木の上で地図を開いた。

地図の上には赤い点がひとつ示されている。


この地図は【魔道具】の一種で、現在地を地図上に示してくれる。


今日で大体90キロと少し進んだくらいか。

【魔力】を持たない人間が一日変わらない速度で歩き続けるのは難しいかもしれない。

しかし、【魔力】による身体強化があればそれも可能になる。


この身体能力も、今は【魔力】のおかげだと分かる。

今まで【持たざる者】なのにと驚いていたみんな、ごめんよ。

俺は【魔力】持ってたみたいだ――



 ○



 気がつけば朝を迎えていた。

あんなに怯えていたくせに、知らぬ間に寝ていたらしい。

寝相で木の上から落ちなかったのは奇跡だと思う。


今日も黙々と森の中を進む。

この森は木々の間隔が広く、太く高い木が乱立している。

その為行く手を阻まれたり足元が悪かったりすることはほとんどなかった。


食料も水もそんなに多くは持ってきていない。

できるだけ早く街にたどり着く必要がありそうだ。


お昼を過ぎた頃、奇跡が訪れた。


急に視界が開けたかと思うと、森の中に馬車がすれ違える程度の道があった。


「商人が通るための道、っぽいな」


根拠は無かったが、そう信じて道を歩き出した。

しばらく歩いていると、後ろからガラガラと音を立てて何かが近づいて来る。


振り返ると後ろに一台の馬車が見えた。

大きな荷台を、これまた大きな二頭の馬が優雅に引いている。

邪魔をしては行けないと思い、慌てて道の端に寄るが、馬車は徐々に速度を落として停止した。


「おーい兄ちゃん、こんな所で何してる」


馬と荷台の間から話しかけてきたのは馬車の持ち主だった。

ごつい馬車に似合わずヒョロっとしたおじさんは、少し怪しむように俺を見る。


まさか、【天才】だとバレているのか?!


「この先の【ヘルツ共和国】に行きたいんです」


出来だけ平然とした様子で答える。

なるべくいつも通りの態度で接したつもりだが、不器用な俺にちゃんとした演技などできたかは分からない。


おじさんは俺の頭からつま先まで一通り目を通すと、何か閃いたように手を鳴らした。


「なーるほど、さては兄ちゃん冒険者志望だな?!こっから【セルス】だとまだまだ歩かないとダメだ。おれもそこに向かうんだ。どうだ、荷台で良けりゃ乗せてくぜ」


商人のおじさんは何か勘違いをしたらしい。

確か【ヘルツ共和国】は、冒険者業が盛んな国。

特にこの先にある【セルス】という街はその中心地だとか。


【セルス】には国内最大規模の冒険者ギルドがあり、それを中心に武器、防具などを取り扱う店が多く集まっている。

冒険者に必要なものが全て揃うため、そこから冒険者を始める人が多いらしい。

【セルス】は別名、【始まりの街】と呼ばれている。


それよりも、今は大事なことがある。

商人らしきおじさんは後ろの荷台を指さす。

そこには人が寝そべるくらいのスペースが空いていた。


「いいんですか!」


この時、頭からは遠慮という概念が消えていた。

おうよ!というおじさんの返事を聞くやいなや、有難く荷台に飛びついた。


商人のおじさんは、再び二頭の馬を進ませる。


凄い、なんて楽なんだ。

それに馬の速度が想像していたよりも早い。

二頭の馬に感謝と敬意を表し、合掌する。

馬たちはブルルッと口を鳴らし、尻尾を左右に揺すった。


このまま行けば、予定よりも早く着きそうだ。


「兄ちゃんはなんで冒険者になろうと思ったんだい?」


ふと、商人のおじさんが話しかけてくる。

冒険者になるつもりはないが、話を合わせておいた方が良さそうだ。


「昔から憧れてまして……」


ぎこちない笑顔を作ったが、商人のおじさんはこちらを見ていなかった。


「そうかい、やっぱ【魔力】を持ってたら憧れるもんなのかね。いやあ、おれは【魔力】持ってないから商人になったんだけどよ」


今、大事な事を聞いた。

【魔力】は【魔力】を持っている人にしか感じられない。

この人が【魔力】を持っていないということは、俺が【天才】だと気づくことも無い。


一気に緊張が溶けた。


ああ、なんて素晴らしい。

もし神様がいるなら、この奇跡を与えてくれたことに感謝しなければならない。

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