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九話



 ――その後、ブシート山が大噴火を起こしたのは奇跡から二十年経ってからだった。


 王太子であったカインが即位してすぐのことである。

 カインは宣言通り聖女を事の対処に当たらせたが、一人で数万もの負傷者を癒せるはずもなく、結局王都を守るので精一杯であった。あくまで聖女にこだわったのは意地もあったのだろうが、愚かと言わざるをえない結果だった。


 功を奏したのは前王が愛し子の提案を取り入れた政策であった。歳月をかけての訓練と避難所の整備、医療機関との連携、食料対策と多岐に亙って前王は国だけではなく大陸に浸透させていた。


 特に食料は、ブシート山の噴火により太陽光が遮られ、火山灰が畑を埋め尽くすことを予想して品種改良に取り組んでいた。また非常食を備蓄していたため混乱は少なかった。


 混乱していたのはカインである。聖女が健在であることに慢心し、あの神託はシルヴィアが天の国に還ったことだったのだと解釈していた。亡き前王が『神にとって十年二十年は瞬きの時間にすぎぬ』と最後まで警告していたのを笑い飛ばしていたのだという。


 レオナの変貌も混乱に拍車をかけた。二十年も経てば当然ながら容色は衰え、傲慢な生活のツケで見事なまでの肥満体となっていた。カインは結局隣国の王女と結婚し、彼女を慕っていた側近たちもそれぞれ結婚している。誰にも愛されない鬱憤を晴らすようにレオナは贅沢を繰り返し、聖女の評判を下げた。彼女の家族はそれみたことかとばかりに社交界で爪弾きにされた。


 シルヴィアの家族は下賜された土地に移り住んだ。娘のことはあまり口にせず、はじめからいなかったかのように振舞っていたという。弟は結婚し、生まれた娘にシルヴィアと名付けたそうだがその真意は誰にもわからない。まだ幼かった彼は姉と姉同然に慕っていたグレイスが突然消えたことに納得できなかったのかもしれない。家族をやりなおそうとしていたのか。ひっそりと静かに暮らしていたそうだ。


 神官長タートはシルヴィアへの愛を崇拝に切り替えて生涯神に仕えた。彼はシルヴィアの奇跡を祝う祭りの最中に殉教しようとし、失敗している。男が娘に近づくのを神が嫌ったのだろうとほろ苦く笑い、晩年には「皆に愛され皆を平等に愛するがゆえに、誰か一人を愛することがないというのは酷である」と呟いていた。




次回、感動のクライマックス!

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