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ワタシの物語  作者: 匿名
2/7

どこか薄気味悪い場所

「あれ? ここは?」


 目に入るのは白い天井。私は屋外にいたはずでは?

 ゆっくりと体を起こすと、横についた腕が沈む。私はベッドに寝かされていたみたいだ。薄暗いし肌寒いしなんとなく不気味で、昔入院した時のことを思い出す。


「いや、みたいというかそのまま病院だね。もしかしてあの後病院に運ばれた?」


 けどそれにしては静かだし暗すぎる気がするなぁ、と吞気にあたりを見てみる。

 ベッドがあって、清潔感のある白い部屋で、カーテンがついてて……うん、やっぱり病院だここ。


 改めて納得したところでとりあえず外へ出ることにした。起きたことを医者か看護婦かそこら辺の人に伝えなきゃいけない。


「おーい! 誰かいませんかぁー! ……誰もいないのかな?」


 廊下の電気も消えてるしこんなに大声出してるのに誰もいないし、一体ここってどこなの?

 どうしてか怖くて怖くてたまらなくなった。もっと大声で呼びかけよう、そう決心する。その時、


「誰かさん! 私はここにいますよぉ!」


 そう叫ぶ声が私の耳へ届いた。私よりもとても心細そうだ。

 それなら私が行って安心させてあげなきゃ。だって私は……何だっけ?まぁいいや。

 とりあえず聞こえてきた声の主を安心させるように大声を出した。


「私はここだよ! 今から行くからね!」


 何度も何度もお互いに呼びかけあって相手の位置を探していく。いくつもの病室を通り過ぎ二つほど階層を上がって……私は“私”と遭遇した。


「「えっ!?」」


 どうして私がそこにいるの? 鏡でもある? 


 私は思わず一歩後ずさり、“私”は尻餅をついた。

 いや違う、鏡なんかではない、目の前にいる彼女こそ私が呼びかけあっていた相手なのだ。

 ゆっくりと深呼吸をして一度落ち着く。


 向こうだってあんなにも驚いている。それに目の前にいるのは、私そっくりではあるけれどそれ以外は普通の女の子だ。怪物とかみたいな人外じゃないんだから怖がる必要はない。


「えっと、初めまして、でいいのかな? とりあえず私が君と話してた相手だよ」

「え、あ、うん。初めまして、だと思う。あの、なんで私と同じ姿をしているの?」


 おずおずとだが話に応じてくれた。私は思わず笑顔を向ける。


「それは私にもわからないけど、自分にそっくりな人は世界に三人いるって言われるし、きっと私たちも他人の空似ってやつなんじゃないかな」

「そうかも。本当に似てる」


 彼女につられ改めて自分と彼女を見比べる。


 薄暗くてしっかりと見比べることはできない。けれど顔だちも髪型も髪の長さも、更にはほくろの位置だって同じだ。よく聞くと声まで同じに感じてきた。きっと双子だってここまで似ていない、もしかしたら私たちは世界で一番似ている二人かもしれない。


「本当に、驚くほどそっくりだね」

「うん、ここまで似ている相手がいたなんて驚きだよ」


 私達は笑いあった。近親憎悪なんて言葉があるけれども、そんなもの到底当てはまらない。むしろ久しぶりに家族と再会したような気分だ。いや、従妹を含めても私にこんなに似た知り合いなんていないから完全に気のせいなんだけど。


「とりあえずこの建物から出ようか。ほら」


 彼女の手を引っ張って立ち上がらせた。今更だけど驚かせたのが申し訳なくなってくる。


「えっと、出口ってどこかな?」

「わからないけど、歩き回ってたら見つかるんじゃないかな」


 確か今私達は三階にいるはずだから、二つ下りて一階を目指した方がいいかな。どこの病院かわからないけど結構大きい病院みたいだから、外に出られればきっと人がいるはず。

 そう思って彼女と手をつなぎながら歩き出した。


「あ、そういえばあなたってここがどこか知ってる?」


 私とそっくりのこの子だけど記憶まで同じってことは流石にないから何か知っているかも。

 そう思って問いかけたのだけれど、彼女は首を横に振った。どうやら知らないみたいだ。


「いつも通りに過ごしていたのに気づいたらここにいたから。ごめんなさい」

「謝ることじゃないって、私も知らなかったんだから。一緒に出口を探そう?」

「うん。あの……」


 彼女はもじもじと何か言いたそうにしている。それがなんとも……


「可愛い」

「え?」

「な、何でもないよ! どうしたの?」


 あれ? 私ってこんな性格だったっけ? 違った気もするけど、きっと彼女が可愛すぎるのがかわいい。間違えた、おかしい。

 結局そう結論付けて彼女の言葉を待った。

 そして彼女は勇気を出して私と目をしっかりと合わせる。

「あの、お姉ちゃんって呼んでもいい、かな?」


 けれどすぐに頬を赤く染めてツイッと目をそらした。もう我慢できない!


「もちろん妹ちゃん! そうよんでくれてとっっっっても嬉しいよ!」

「え!? あの、ちょっと恥ずかしい……」


 妹ちゃんが困惑しているようだけどしょうがない。いま私のテンションは天元突破しているのだ! 殺人鬼でもお化けでもなんでもござれ、妹ちゃんは私が守り切って見せよう!


「ほら、それじゃあ行こうか」

「うぅ、分かったから放してお姉ちゃん。ちょっと恥ずかしい」

「おっと、ごめんね」


 嫌われる前に離れておこう。出会って数分だけど嫌われたら絶望する自信しかない。

 手が離れて怖くなったのか「あっ……」と切なそうに声を上げる妹ちゃんを連れて出口を探し求める。

 それから数分、薄気味悪い怖さを誤魔化すためにも喋りながら歩いていると、いきなり妹ちゃんが足を止めた。


「どうしたの?」

「えっと、なんか足音が聞えた気がして」


 とりあえず足を止めて耳を澄ましてみる。

 ……ヒタヒタ、ヒタヒタヒタ、ヒタ。少し先にある角の向こうからそう不規則に足音が聞こえてきた。小さくぺちゃぺちゃという音も鳴っている。

 不規則ということは何人もいるのだろうか。もしかしたら私達と同じようにここに攫われた人たちかもしれない。そう思うと思わず笑みが浮かんだ。妹ちゃんへと顔を向ける。


「他に人がいるかもしれないからって、妹ちゃん! 大丈夫!?」


 顔面蒼白、手足には鳥肌が立っていてとても息苦しそうだ。他に人がとかそんなことを言ってる場合ではない。


「お姉ちゃん、あのね、足音がする方がなんだかとても怖い」


 怖い? よくわからないけど妹ちゃんの言葉に疑問を抱くはずがない。だってそれは“至極当然で言わずもがな”のことだからだ。彼女を守るのが私の役目。

 

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