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第1話収録前の作戦会議

【カントク】「さてと、先程のアバンについては、あやねちゃんの最後の返事だけが”ブェ〜〜ックション”でNGだったから、そこの部分だけ再収録ということで、なんとかカバーすることができたけど……」

【のの役声優】「問題は本編の方ですね」


【カントク】「昔と違って、NGが出たところはカットして差し込み直すというのが容易になったから、必ずしも都度やり直しというわけでもないんだけど、やっぱりNGの箇所は減らす方向であってほしいなぁ、と思っている」

【のの役声優】「どういう事情があるんですか?」


【カントク】「ただでさえ収録が遅れているんだから、コスト面も含めて、必要以上に人員を求めることは避けたい――あとは、他の人の声と混じっているときにクシャミされると、全員分の声がダメになる。あとは……」

【のの役声優】「……あとは?」


【カントク】「やっぱり、場の雰囲気で出せる演技っていうものがあるから、ぶつ切りで録り直していたりすると、どうしても場に合わない声になってしまう可能性もある。それは作品に対して失礼に当たる」

【のの役声優】「リアルタイム感が大事なんですね」


【カントク】「それに、この現場に限らず、あらゆる収録現場、あらゆる声優さんとの都合を考えると、新人さんたちには、切らずに声の収録ができるようになってほしいという技術的な心配がある」

【のの役声優】「みんながみんな、花粉症に対して考慮できるとも限らないですからね……基本はシーンごとの、まとめ録りですし」


【カントク】「あとは、純粋にリアルタイムにトラブルが発生したときに、戸惑いながらもなんとかしようとして、ちょっと滑っている収録現場の新人声優さんを想像するのが楽しい」

【のの役声優】「おい、変態BBA」

【カントク】「……三十一歳は、まだギリギリBBAじゃないもん。ぐすん」


 ※以降は全員の年齢を()で書いていきます


 ……

 ……


【カントク(31)】「さて、そんなわけで花粉症の新人声優たちよ。私の指導と権限の元で、アニメ収録中にリアルタイムで、ののちゃん役の彼女が、良い感じにフォローしてくれることになった」

【あやね役声優(24)】「あ、ありがとうございま……くしゅっ!!!!」

【寮母役声優(22)】「ず、ずびば……ずずーー!!(鼻をかむ音)」

【のの役声優(25)】「ま、まあ……可能な限り、頑張らせていただきます……」


 鼻が真っ赤っ赤になっているのを見て、既にヤバそうな予感しかしていない。

 いや、ヤバイのは本人たちのほうだな。


【カントク(31)】「寮母ちゃん役のあなたの次の出番は、一話後半の最後のシーンで、『今日は学校どうだった? うふふ』しか言うところがないから、後録りで当てはめれば大丈夫。スタジオの外の休憩エリアで、口が乾きにくい花粉症の薬飲んで、鼻の調子だけ整えてきて」

【寮母役声優(22)】「わ”わ”がりばぢだ……ずびー!!!」


【カントク(31)】「問題は……あやねちゃんの方なんだよね。この後、ののちゃんとガッツリ絡んでいるシーンばっかりだし」

【あやね役声優(24)】「は、はい……すみません」

【カントク(31)】「お医者さんから貰った薬はよく効いているようだから、飲んだ直後なら、一気に収録することはできそうね」


【あやね役声優(24)】「そうですね、ある程度は調子g……クシュン!」

【カントク(31)】「……ちょっぴり不安定っぽいけれど」

【あやね役声優(24)】「すみま……クシュン……せん」


【カントク(31)】「ただし今回は条件が良い。他の声優さんたちは、今回に限って別録りをすることになっている。つまり、あやねちゃん役と、ののちゃん役の二人で、なんとか上手に切り盛りしてもらえればミッションクリアってことになる」

【のの役声優(25)】「確かに、台本には校長先生役や、担任の先生、無名の女子生徒役、その他ガヤの収録とかがありますね。五人くらい来ていないんでしょうか?」


【カントク(31)】「収録が花粉症で惨事になることは予想していたからね。今回はきちんと回避させてもらった」

【のの役声優(25)】「……ああ、なるほど」


【カントク(31)】「だけど、以降はスタジオ代のことを考慮して、まとめて収録する機会は増えていくだろう。今回だって、色々根回しをして人を減らして録っているんだ」


 都内の収録の場合、数時間で私達の一回の収録のギャラより高かったりする。

 なんとも世知辛い世の中だ。


【カントク(31)】「大丈夫。どうせ学園の日常アニメなんて、それっぽい適当な会話が……って、言うと色々やばいな。まあ、一話に関しては、学校はこういう場所ですよ、こんなクラスメイトがいますよ、主人公ののちゃんと、あやねちゃんが一緒に楽しくワイワイするところっていうのが見せられれば、あとは絵でなんとかできる」

【のの役声優(25)】「な、なるほど……」


【カントク(31)】「あと、適当に道を歩いていたりしているシーンでクシャミしているのも放置していい。最初くらいは、花粉症? とか聞いても良いだろうが、重要な会話をしていないなら、基本は放置一択だ」

【のの役声優(25)】「もしも、重要なシーンでクシャミをした場合は……」


【カントク(31)】「……その時は、任せた。いい感じにな」

【のの役声優(25)】「……今まで具体的な話をしてくれたのに、ここだけいきなり抽象的……」


【カントク(31)】「……そりゃあ、クシャミなんていつ発動するかわからない。その場その場で適宜な返しというのは変わっていくものよ。そこは主人公役の君の手腕が問われるというわけ」

【のの役声優(25)】「ああ、そうですね……」


【カントク(31)】「とにかく、あやねちゃん役の彼女が薬を飲んで調子が良くなっている今しかチャンスはない。収録スタジオのレンタルだって有限なんだし、とにかく一話の収録を終えるぞ」

【のの役声優(25)】「は、はい……!」

【あやね役声優(24)】「よ、よろしくおねがいします」


 第一話、収録が始まる……(次回)

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