第0話の収録後――収録現場サイド
都内某所 某収録現場にて
【あやね役声優】「す、すびばぜん……また、ぐぢゃみで収録NGがでちゃいまぢだ……」
【のの役声優】「い、いえ……大変だとおもいますので……この季節はしょうがないですよ」
【あやね役声優】「すびば……ぶぅぅぅぅぅえっくしょんっ!!!!!!!!!!!」
【カントク】「参ったなぁ……またNGか。短めのアバン収録だったから、耐え抜けると思ったんだけど……」
【のの役声優】「ああ、カントク。今年は花粉が前年の八倍らしいですから、ヤバいんでしょうね」
【カントク】「声を出す仕事をしている人にとっては、この時期は特に天敵だからね」
【のの役声優】「四月の春アニメといっても、収録する私たちは一月の下旬頃から録り始めていますし、時期的には割とドンピシャなんですよね」
【カントク】「季節限定で体質的な問題だから、どうにかしてくれとお願いするものでもないし」
【のの役声優】「それに、あの辛そうな表情を見てしまったら、あまり変に言えないといいますか……」
【あやね役声優】「ぶぅぅぅぅぅえっくしょんっ!!!!!!!!!! ぶぅぅぅぅぅえっくしょんっ!!!!!!!!!!ぶぅぅぅぅぅえっくしょんっ!!!!!!!!!! ぶぅぅぅぅぅえっくしょんっ!!!!!!!!!!」
【カントク】「おかげで告知CMやオープニング曲、アバンの時点で花粉症の被害ときたもんだ。ちょっと私も予想外だったかもしれない」
【のの役声優】「そりゃあ……NGは多発でしたね……はは」
【カントク】「アバンとか一話の前半くらいなら、まだ新人声優さんだけだから、時間的にも録り直しは問題ないだろうけど……」
【のの役声優】「後から登場する校長先生役とか、先輩プロデザイナー役とかはベテラン声優さんが起用されていますから、私たち新人は迷惑を掛けにくい……」
【カントク】「向こうも業界長いから、変に怒ったりすることはないけど、何分忙しい人たちだから、NGであまり長居させてしまうのも申し訳ない」
【のの役声優】「難しい話ですね……」
【あやね役声優】「ずびぃぃぃぃぃぃ……!!!!!ずびぃぃぃぃぃぃ……!!!(鼻をかむ音)」
【カントク】「主人公役の君だけは花粉症じゃなくて良かったよ。話の主導だし、なにより一番出番が多いからね」
【のの役声優】「逆に言うと、私以外の新人声優さん達は、全員花粉症の被害に遭われているという……」
【カントク】「おかげで、町中で突然誰かが巨大なクシャミをしてきても、全然驚かなくなってきたよ、私は」
【のの役声優】「私もです……」
【あやね役声優】「あ"ぁ"…………目玉をどってグリングリンって洗浄ぢだい……うぅ……」
……
……
【カントク】「まあそこで、カントクである私は考えた訳よ」
【のの役声優】「……はぁ、何をですか?」
【カントク】「クシャミしたければ、もう普通にしてもらってさ、それでリテイクするの止めちゃおうかと思って」
【のの役声優】「……え"ぇ"……!!! どういうことですか?」
【カントク】「もうなんかさ、クシャミがリアルすぎて、新人なのにクシャミだけはプロレベルに達しているんだよね、彼女たち」
【のの役声優】「……プロというか、普通にリアルなんでしょうけど」
【カントク】「だからさ、そのクシャミは仕様っていうことで、声優さんが実際に台本に書かれているものに準拠してクシャミしたことにしようと思った訳よ」
【のの役声優】「はぁ!? つまり、アニメの収録中に、随所で出たクシャミとか鼻水チーンとかが、普通に残っちゃうわけですか?」
【カントク】「ちょうど春アニメって事だし、アニメキャラが花粉症がちょっとあったところで、多分視聴者は違和感を覚えたりはしないよ」
【のの役声優】「えっ……でも、アニメは既に制作済みなんですよね? 何もないところでクシャミしちゃったら、絵とあわなくなっちゃいますよ」
【カントク】「大丈夫大丈夫。アニメ会社、今は納期とか遅れまくって、まだ仮の状態ででしか作品が出来ていないから。クシャミを入れたところで、後付けで直してくれるって」
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(アニメ制作現場の人たち)
制作A「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!!!!!!!!!!!!」
制作B「忙しいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!」
制作C「あばばばばばばばば……………………!!!!!!!!!!!!!」
※ごめん、作者の想像です
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【のの役声優】「はぁ……そうですか」
【カントク】「それに、我々制作サイドも時間が潤沢にあるわけじゃないし、収録スタジオのレンタルとかもタダじゃないからね。花粉症関連で、既にメチャメチャ収録が遅れているわけだし」
【のの役声優】「低予算アニメぇ……」
【カントク】「とりあえず、他の新人声優さん達には私の方からこのことを伝えておくから、せめて十二話!! このアニメが収録を終えるまでの間だけ、なんとか君の上手なフォローとかで乗り切りたいと思うんだ!!!」
【のの役声優】「え"っ……!! 私がフォロー入れるんですか!?」
【カントク】「そりゃあアニメキャラがいきなりクシャミして何も無し〜なんていうわけにはいかないだろう。君は主人公役なわけだし、唯一新人の中で花粉症じゃないわけだし」
【のの役声優】「そ、その……台本とかどうすれば……」
【カントク】「ああ、いいよいいよ。視聴者に台本をみせているわけじゃないし、その場のノリで適宜に言い回ししておけば、あとは勝手にアニメ会社が見た目とかシーンを整えてくれるって」
【のの役声優】「(……いいのかなぁ、それ)」
【カントク】「ともあれ、そういうやり方で進めていくってので、たった今確定させたから、この後の収録からは"良い感じ"によろしくね」
【のの役声優】「ウ"ェッ!!!! わ、私の意見は!? 尊重は……?」
【カントク】「まあまあまあまあまあまあ。声優やっている以上、舞台とかイベントとかで台本以上の上手い切り返しっていうのは今後絶対に役に立つからさ、拒否権はないけど、経験になると思って頑張ってよ」
【のの役声優】「(oh……It's Brack Company)」
かくして、新人声優である私(のの役)は、これから起きる、花粉症スパイラルに立ち向かうべく、謎の責任感を背負わされることになったのだ。
残り収録は十二話……果たして、無事に収録を終えることはできるのだろうか……
【あやね役声優】「ぶぅぅぅぅぅえっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっくしゅんっ!!!!!!!!!!」