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英雄になる人

注:語り手兼主人公は、これでも女子中学生です

 それは奇妙な感覚だった。

 身体がぐにゃりと(ゆが)むような、引き伸ばされてどこかへ吸い込まれるような。乗り物酔いに似ていたかもしれない。

 しかしそれは一瞬のこと。あっという間に気味の悪い感覚は去り、私は目を開けた。



 ――――私は我が目を疑った。これはごく自然な反応だと思う。……この世の誰が、図書室が洋風の大広間に変わるなどという珍事を容易に受け入れられるというのか。



 足元にいつもの図書室のカーペットはなく、タイル張りの床が広がっている。遠くに見える壁には、装飾らしい模様が描かれていた。見上げてみると天井が高い。吹き抜けにでもなっているようで、二階のあたりに手すりつきの渡り廊下が巡らされていた。



「ようこそ、異界からの客人よ」


天井を眺めていると、男の声が聞こえた。


 ハッとして声のする方を見ると、二人組の年老いた男女が遠くに立っていた。

 男はクラバットというものだろうか、ヒラヒラした布を首に巻き、重そうな黒い上着を身に付けている。女は同じく黒を基調としたドレスを着ている。そう、ドレスだ。ふわりと膨らんだ形の、地面に付くか付かないかという長さのドレス。

 彼らの出で立ちに私は面食らった。これではまるで、マリー・アントワネットがいた時代の貴族ではないか。


「驚いているのだね。無理もない」


男は穏やかな声で言った。そして、私がいる部屋の中央へと歩いてくる。女はその後をしずしずとついてきた。



 あまりに意味不明な状況に、逃げてしまおうかと思った。しかし、私の鈍足で逃走したところですぐに捕まってしまうだろうから、逃げるのは得策ではないとも思った。

 そうしてあれこれと考える内に、二人の老人はもう私の目の前まで来ていた。


「安心してくれ。我々は君に危害を加えない。むしろその逆だ。―――我々は、君に助けを乞おうとしているのだから」


男の顔に微笑みが浮かぶ。


「…助け?」


「ああ、その通りだ。よかった、落ち着いた受け答えをしてくれて。君はいい子だね」


男の笑みが濃くなる。かと思うと、すっと表情を引き締めて、真面目な顔になった。


「心からのお願いだ。我々の国―――魔ノ国を危機から救う力になってはくれないか」


 この人達は、何の話をしているのだろう。『危機から救う』?それは確かに私の話だろうか。そもそも、『マノクニ』などという国名は聞いたことがない。これは何だ。白昼夢か。


 ともかく、私は彼に対して言うべきことを言うことにした。


「私があなた達の国を救う、とは、どういうことでしょう。人違いではありませんか?」


 そう。国を救う、だか何だか分からないが、私が関わるようなことではないのは確かだ。


 もしもこれがただの夢であったなら、この台詞はなかなかに恥ずかしいな、と思う。夢の中の存在に、真面目に言葉を返すなど。

 だが、私にはどうしても、目の前に広がる光景が偽物だとは思えなかった。先程まで私がいた場所とは全く異質の―――しかし、夢などとは比べ物にならない程のリアリティと、鮮明さを持った世界。これが果たして夢と言えるのだろうか。


「その点については、私が説明しましょう」


後ろに控えていた老女が、するりと私の前に出てきた。私と目を合わせると、にっこりと微笑む。


「難しいお話は省略しましょうか。専門的な言葉をあなたの前で並べてみるわけにはいきませんからね。―――ただ、これだけはまず言わせていただきましょう。あなたはきっと、英雄になれるはずです」

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