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佐藤くんの普通  作者: 成見礼
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不良の関矢君Ⅰ

「ったく、どうして普通の生活を送りたいだけなのに、学校であんな目に合うかなぁ。」


 今日の関矢との出来事をボヤキながら、取られたノートの代わりを買うべく立ち寄った文房具店で、予定外の出費に溜息が止まらない。

 全教科分のノート一度に借りるかよ普通。どうせ借りたってなにもやらずに、そのまま放置してるに決まってる。

 そう考えると無性に腹が立ってきた。

 他人が自分の生活に絡むと、予期せぬイレギュラーが起きる。それがとても煩わしく感じてしまう。

考えの相違などで言い争って疲れるし。だけど人間絶対一人では生きてはいけないようになってるのが余計に難しい。

 そういうことから少しでも解放されたくて、一人暮らし初めて、自分のことは極力自分で何とかするようにしたのに......。


『頼むからよ......、俺の人生から消えてくれよ!!』


 嫌だなぁもう、なんでこんなこと今さら思い出すかな......。

 早く会計済まして帰って寝よ......。


 目的のノートセットを手に取り、棚で隔たれている狭い通路を通って、店の奥のレジに向かった。

 今日はどっと疲れた、また明日関矢に絡まれたらどうしよう。ますます俺の普通の学校生活が遠のいてしまう。それだけは、なんとかせねば......。


「らっしゃい......。」


「んっ?」


 どこかで聞いたことのある、腹の底に響く低い声。

 嫌な予感を胸に、手元から視線を顔が見える位置まで上げると、そこにはこの店には似合わない男がエプロンをつけて座っていた。


「関矢...君? どうして......。」


「あぁ? 誰だてめぇ?」


 はいそうですか、覚えてらっしゃいませんか。それはそれでいい事かもしれない。

 不意に関矢が目の前に現れて驚いたけど、変に覚えられていて、絡まれるよりはマシだ。

 ここは穏便に......。


「いっいやぁ、関矢君はここらへんじゃ有名人って言うか、知らない人はいないって言うか......」


 関矢の鋭い視線をかわそうと、目のやり場に困っていると驚くことに気が付いた。

 関矢が座っているレジカウンターに広げられているのは、自分が貸したノートじゃないか。

 まさか、本当に勉強してるのか!?


「そのノート......まさか勉強?」


「......。」


 あれっ? なんかまずいかも。

 先ほどまでノートにペンを走らせていた手が、急に止まった。


「俺が勉強しちゃ悪いってのかよ。」


 先ほどまでとは明らかに雰囲気が違った。

 いつもの誰を寄せ付けない威嚇のようなものじゃない。気に入らない目の前の相手に対しての濃い敵意。


「ごめん、そういうつもりじゃ。」


「気分悪ぃな、さっさと失せろや。」


「あの、ノートのお会計......」


「知るかンなもん、さっさと帰りやが......」


 機嫌を損ねた関矢の門前払いを受けていると、レジの後ろにある入口の暖簾が大きくなびいた。


「くらぁ、統鬼!! お客様になんつー接客してんだぁ!!!」


 現れて早々、関矢の問題のある接客に対し手の罰であろうゲンコツが、頭上に振り下ろされた。


「ぐおぉ......、いきなりなにすんだおやっさん......。」


「なにすんだじゃねぇーだろーが。せっかく来たお客様に対してその接客はなんだ。口を酸っぱくして教えたろ? 来店してくれた客は大切にしろって。」


 いきなりのことで状況整理が追い付かない。あの関矢にゲンコツをくらわせるだけでなく、言うことまできかせられる人がいるなんて。


「ほらよ、商品と釣。」


「あ、ありがとう。」


「すいませんねぇお客さん、うちのが失礼を働いちまって。」


 先ほどの男が自分に対して頭を下げて謝罪してきた。結構年を取ってそうな見た目の男性だが、ガタイはいいし、関矢ほどじゃないが顏が恐目でなんか苦手だ。


「いえいえ、じゃあ俺はこれで......」


 よし、もう用は済んだしこれでようやく帰れる。


 はずだった......。


「もしかしてお客さん? 統鬼と同じ学校かい?」


 この時違うと答えておけばよかった。


「はい、そうですけど。」


「もしかして、トモダチか!?」


「ちげぇーわ!!」

「違います!!」


 ハモッた。


「そーかそーか、そうならちょっと上がって奥で茶でも飲んでいけや。」


 先ほどのカタい表情とは違って笑顔になった関矢のおじさんは、俺に意思を問うことなく首裏の襟を掴んだかと思うと、強制的に店の奥へと引きずり込んだ。

 今日なんか他人に強引に触れまわされてばっかな気がする......。

 もう何の言葉出てこない。引きずられながら、店番と勉強を再開した関矢の背中が遠のくのを見ながらこれからどうなるのかという不安にかられ目に涙を浮かべるのだった。

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