普通の佐藤君.Ⅳ
「それじゃあ借りてくぜ。」
「う、うん。返すのはいつでもいいから」
放課後。教室で、今まで授業でとったノートを数冊手渡すと、背中越しに手を振りながら教室から出て行った。
普通ならカツアゲで金品巻き上げられた後みたいな絵面なのに、取られたのはノート。
なぜノートを借りてったのか。なぜお金じゃないのか? いや、お金を要求されなかったのはいいことだけれども。
周囲が目を疑う光景の中心で茫然としている中。突然かけられた言葉に俺の意識は向かった。
「大丈夫ですか? 佐藤君?」
声がする方を向くと、長く綺麗な黒髪の女子生徒が目に飛び込んできた。
「あぁ、清藤さん。どうしたの?」
凛とした面持ちの彼女は、こちらの様子を窺うように少し覗き込むような態勢で見ていた。
「いえ、その...。私、学級委員なのに、関矢君に絡まれて困っている佐藤君に何もしてあげられなくて......。それにたまたま購買の近くにいて、それでも佐藤君が連れていかれるのも止められなくて。本当にごめんなさい!!」
「そんな、気にしないでよ。全然大したことされてないから。それにほら、購買のはその......、挨拶。そう! 友達同士がやる些細な小突き合いコミュニケーションみたいなもんだから気にしないで。」
日常的に気絶する威力で小突き合う仲ってどういう仲だよ......。我ながらとんでもないことを口走ったことをいまさら後悔する。
「コミュニケーション? 思いっきり殴られているように見えましたけど...、それに気絶までして。」
「あーあれは演技、気絶したフリ。ノリに合わせただけだよー。」
嘘だけど。やはり頭を強く殴られたからか、変なテンションでどんどん話が変な方向へ進んで行く。一度病院に行った方がいいかもしれない。
「ならいいですけど。でも意外でした。あの関矢君と佐藤君が友達だったなんて。」
「ソウソウトモダチ、ナカヨシ。」
「私、関矢君と中学校が一緒だったんだけど、彼がいかにも不良って感じの人以外と話してるの初めて見たから。佐藤君みたいな人とちゃんと交友があってなんだか安心しました。中学の関矢君は、どこで見かけても何と言うか、楽しくなさそうでしたから。」
俺と関矢が友達だってあんないい加減な言い訳で信じちゃうなんて、清藤さん完璧そうに見えてちょっと抜けてるところがあるのかもな。
嘘をついてしまったが、清藤さんがどんどんこれ以上自分を責めずに済んだし、考えようによっては関矢と友達ということにしておいた方が都合がいいのかもしれない。
「心配してくれてありがとう。でも、清藤さんみたいな普通の女の子が関矢みたいな危険な奴とのかかわりを避けるのは、普通のことだと俺は思うけどね。」
「普通の女の子か......。」
「清藤さん? どうかした?」
「ううん、何でもないの。ごめんね、私、先に教室戻るね。それじゃあ。」
「えっ、うん。また後で......。」
そう言うと、清藤さんは急ぎ足でこの場を去っていった。
一瞬だが、やっと取り戻した笑顔が急にまた曇ったように見えた。
俺なんか変なこと言ったかな?
彼女が見せた表情の意味を考えてるうちに、俺の短いようで長かった昼休みは、鳴り響くチャイムと共に終わりを告げた。
「俺も早く教室戻ろ。」
・・・・・・
「では、これで帰りのホームルームを終わる。係の者、号令を......」
午後の授業を終え、いよいよいつもの学校生活の一日? も終わりに差し掛かる。
各自帰りのあいさつのため席を立つ中。椅子を引く音の波に交じり、教室の戸が開く音が聞こえてきた。
「おい、関矢! まだ終わってないだろ。待ちなさい!!」
教師の制止も聞かず、関矢は黙って教室を出て行った。
今日は珍しく最後までいたし、俺からノートを借り(カツアゲし)て何かをやっていたようだし.......
あっ、俺のノート......。いや、もう諦めよう......。
「はぁ、帰りに文房具屋寄ってこ。」
学校を後にし、行きつけの文房具屋に向かって歩き出した。