普通の佐藤君.Ⅲ
本日は晴天なり。思わずそう言いそうになってしまうほど雲一つなく晴れ渡った青空。
外はまだ肌寒いが、日差しのおかげか少しだけ暖かさを感じることのできる気温になっていた。
こんな日は外に出て、中庭で昼食を食べたい気分になる。
まだ学校のことをよく知らないし、良い場所がないか探検しながら見て回るのが楽しそうだ。
そう思っていた……。
「おいテメェ、聞いてんのかコラァ!」
「ハイ、キイテマスデス。」
急な大声で現実に引き戻された直後の返答は、変にカタコトになった。
目の前には一時間目の途中で帰ったはずの関矢 統鬼。
現状を説明すると、場所は校舎の外の一角。そこに用具倉庫が壁となって、少し狭い入り口を通らなければ周りからは中の様子は見えない。
まさに、不良が誰かをシメるにはうってつけな場所だと思う。
少し前のことを思い返してみると、俺は昼の購買部という毎日この時間だけ訪れる壮絶なる奪い合いの場に身を投じていた。
人混みを掻き分けながら少しずつ商品めがけて進んで行く。自分は背が高い方ではないので、高確率で揉み合う生徒の肘が顔面にヒットする。それでもめげないでやっとのことで、商品を手に取った...というところまでは覚えてるんだけど...。
どうしてもなぜこの場に自分がいて、こんな状況になっているのか気になったので、勇気を振り絞って関矢君に質問してみた。
「あの~、この状況でこんなこと聞くの普通じゃないかもだけどさ。どうして関矢君とこうしてにらめっこしてるのかな僕?」
その言葉を聞くと、関矢はめんどくさそうな顔をして前かがみ気味だった体制を元に戻すと、大きく右腕を後ろに振りかぶったかと思うと。こちらにめがけて拳を振り下ろしてきた。
「ちょっ!? まっ...。」
関矢の拳は、自分の顔面の真横をかすめて後ろにもたれかかっていた校舎の壁に当たった。
「購買にお前がいたのが見えたから、ここに来るついでに後ろから今みたいに殴って気絶させてから運んだ。」
ついでって...そんな。コンビニ途中で寄る的な感覚で拉致られたのか俺。
これで自分がここにいる理由は分かった。それと同時に、あんなに購買には生徒が、はたまた先生ですら利用してた人がいたっていうのに、誰も助けてくれなかったんだな...。
そんなことを考えて悲しい気持ちになりながらも、関矢に殴られて痛む後頭部をさすった。
関矢が殴った後の校舎の壁を見てみると、目立たない程度にヒビがはっているようだった。
そんな普通じゃないパンチくらったんだから気絶するよな。それよか、目が覚めてよかった。
「おいっ、お前今日の朝、俺のこと近くで見てたろ?」
「えっ、えーと、見てないですけど。」
「しらばっくれてんじゃねーよ。確かにお前だった、間違いねぇ。」
「えっと。その関矢君を見てたのが俺だとして。そう言える理由は?」
「”カン”だ!!」
「......はあ。」
ヤバい......、いろんな意味で。そりゃ関わりたくないよなこんな生物。先生たちも助けてくれないわけだよ。
「ひっ人違いじゃないかな。ほっほら、僕に似たような顔した人なんて、たくさんいると思うし。」
「いや、違わねぇ。違ったとしても、関係無ぇ。朝から警察に追われてムシャクシャしてんだよ。」
終わったわ......。もうこの流れじゃこの後ボコボコにされるの確定じゃん。
そして、ボコボコにされた傷をみた学校中の生徒は、俺を避けるようになったり、はたまた弱い者いじめの標的になったりするんだ。
考え出すと、ネガティブな考えしか頭をよぎらない。
心臓が、関矢の次の行動に怯えて強く鼓動を打ち始めた。
時間的にはとても短い時間しかたっていないだろうに、次に関矢が何かしだすまでの間が長く感じた。
「貸せよ、てめぇが今持ってるもん全部。」
貸せってことはお金か? 貸したら帰ってこないだろうけど、それでこの状況が済むなら安いもんだ。
即座にポケットに手を入れて財布を取り出して関矢の前に差し出す。
「お前何やってんだよ?」
「え? だって貸せっていうから、お金を...。」
「金じゃねーよ。ノートだノート。」
「ノート?」
関矢が欲しがっていた意外なものを聞いて、思考が一時的に止まった。




