普通の佐藤君.Ⅰ
世界は普通でできている。これは俺の考えであり、この世の真理だと思っている。
どんな事象にだって普通という概念が存在していて、それがコア、心臓のようなものなのだ。
おっと、つい普通について自分の考えを語ってしまって申し訳ない。これは俺、佐藤 広個人による考えなので深く考えなくていい。
どうせ、これを読んでいる人にとっては、こいつなんか言ってる、といったことしか思わないだろうから。
別に気にはしない。普通とは人によって違う。性格のようなもので、信念のようなもので、感覚のようなものなのだ。みんな違ってみんないい。
さて、俺の簡単な自己紹介が済んだところで、今の状況について説明しよう。
時間帯は朝の八時半。高校に入学して少し経ち、学校生活に慣れ始め気が緩み、いつもより遅い時間に家を出てただいま通学中。
周りを歩く生徒の数は少なく、自分同様、速足より上の速度で学校へ向かっている。
学校ももうすぐで着くし、何事もなければ余裕で間に合うのだが、お話ということもあって、いくつかお約束のベタなイベントが発生する。
「ち、ちこくしちゃいます~~~。」
ケースその壱、曲がり角の道から丁度鉢合わせてぶつかる美少女イベント。
転校生として自分のクラスに現れた時の親しくなるきっかけとなってくる重要なターニングポイント。
この時、食パンをくわえていたり、少しエッチなラッキースケベなんかを頂戴することもある......。
いや......ぶつからないけどね、普通。
いくら急いでいて、安全のために壁際を歩いていたとしても、色々なことが奇跡的なタイミングでそろわない限り、起こりえないことだ。
いついかなる時にも、周りに注意を払いながら過ごすことをお勧めする。
そんなことを想いながら、いかにもおっとりしていてドジ踏みそうなユルふわロングヘアーの美少女を見送った。少し先で案の定こけて、スカートがめくれたかも、というのは気にしないでおこう。
どうせ、かかわることないだろうし。
「おい、お前何見てんだ。ガンくれてんじゃねーぞ!!」
おっと、暗い路地に人影が二つ。一人は気の弱そうな小柄な男子生徒。もう一人はガタイがよく、逆立った勇ましい赤みがかった髪の毛。頭の色もそうだが、近寄ると危険なオーラ全開である。
ここでケース弐。チンピラ、不良、ヤダ怖い。
この状況に遭遇してしまった場合の普通の行動は、一つ。
傍観的行動。これは、自分には関係ない、かかわりたくないと真っ先に考える人が問うことが多い行動。簡単に言うと、無視、スルー。
まぁ、大体の人がこれだよね。
下手に助けようとすると自分も被害にあうし、最悪目をつけられて、これからの学校生活を棒に振る可能性あり。
そう考えると、これは最大限利口な生き方を選択しているということであり、恥じる必要はない。ちなみに俺もこれ。
「今日はお弁当なので、お金そんなに持ってないです。」
「じゃあ、いくらかは持ってんだな? それでいいから全部よこせ。」
「そんなぁ......。」
今時、カツアゲって珍しい。やるほうも被害に合うほうも、貴重な経験だろう。
とりあえず、たかられているほうの男子生徒よ。同じような身なりでキャラだから同情する。
こんな社会の理不尽に負けずに強く生きてくれ。
やれやれ、あんな古風なヤンキーには関わりあいたくないものだよ。
そして、これもスルー......というのはいささかかわいそうなので、通報っと。
そうこうしているうちに学校の正門に到着。
「ほらー、急がないと遅刻するぞー。」
「おはようございまーす。」
「はい、おはよう。」
今、挨拶を交わした生活主任の先生。一見ありふれた光景に思う人もいるかもしれないが、これも最近では珍しい光景に思える。どちらかというと普通とはちょっと違う。
まぁ、こんな感じに普通とは何かを常に考え追い求めている自分こと佐藤広の一日がこれから始まる。