第5話 黒猫と髭のおじさん
にゃんにゃんと声がして、目が覚めた。
目覚めると、黒猫はまだ、そこにいた。
そして、なぜだかわからないけど、先ほどまでの体の痛みが嘘のように無くなっていた。
にゃぁ~にゃぁ~
黒猫が鳴いているのではなくて、少し遠くから、聞こえる。
他にも猫がいるのかな。
しかし、森の木々の間からぬっと顔を出したは、立派な髭をはやしたおじさんだった。
簡単な鎧のようなものを身にまとい、重そうなマントまでしている。まるで中世ヨーロッパとかの兵士みたいだ。
「ここにおりましたか」
え?俺に言っているのか?
しかし、髭おじさんの目線の先には、リンとたたずむ黒猫の姿が。
髭のおじさんは、跪き、こうべをたれ、手のひらを上に出すような変な態勢を取った。
黒猫が「にゃ」っと鳴くと、おじさんも「みゃみゃやみゃん」と鳴く。
可愛い猫の前では、誰しもがこうなってしまうのだと、微笑ましくなる。
髭のおじさんは猫の隣でコロンと寝転がる。
確かにポカポカして、お昼寝日和ではあるな。
黒猫の目が細くなる。
「に、や」
「にゃむ、にゃあ、にゃあ」
髭のおじさんは黒猫と目線を合わせず、黒猫が鳴くと、それにこたえるようにニャウニャウ言っている。
黒猫が、少しいらだったかのな、呆れたような声を出した。
「にゃあ、や」
髭おじさんは、起き上がり、少し悲しそうな顔になって、もう一度、深く頭を上げるような体制になってその場を後にした。
髭おじさんが去った先をぼんやり眺めていて、あ!、ここがどこか聞けばよかったと後悔した。
とりあえず、体の痛みも消えたことだし、髭のおじさんが行った先でも向かってみるか・・・。
ふと、黒猫の方に目をやると、俺の方を見ていた。
やっと気が付いたか、と言っているかのような表情を浮かべたかと思うと
すたすたと、落ち葉をパリパリ言わせながら、髭のおじさんが行った方ではない方へと進み始めた。
黒猫はしばらく進むと、俺が付いてきていないことにいら立っているかのように
高く上げたしっぽをパンッと振った。
きれいな猫の行く道と髭のおじさんが行った道を交互に見て、俺は、黒猫の後を追うことにした。