第ヨン話 精霊の祝福
男が苦しげに寝返りを打ち、
黒猫のお腹に寄りかかる様な体制になった。
黒猫は細く目を開く。
ふむ、中々に重いな、まぁ、暖かいし良いか。
致命傷はあらかた取ったが、
まだまだ、頬から血は滲み、擦り切れは至る所にあった。
クンッと、黒猫は匂いを嗅いだ。
血の匂いもあまり好きではないし、直してしまおうか。
こいつが私に害をなすとしたら、直したところで殺すので、二度手間になるのが面倒だが。
まぁ、私の毛皮に血が着くよりましだな。
少し汚れた毛なみを舌で整える。
回復魔法をかけようと体を起こすと
男が目を覚ました。
起きたか。
さて。
「みにゃ(お主、何者だ?)」
「う、う、ね、・・・こ?」
男はハッとした顔をすると、こちらに手を差し出してきた。
なんだ、無礼な奴だな。
手が届く前にすっと身を引く。
「あぁ、ごめん」
男は手のひらを見せ、今度はゆっくりと手を伸ばしてきた。
「ミャオ〜」
最敬礼(跪き、頭を下げて、手のひらを上にする)
には程遠いが、まぁ、許そう。
にしても、こいつは人語しか話せんのか?
低脳な奴だな。
その上、優しくではあるが、不躾にも私を撫で回してきた。不覚にも、喉が鳴りそうである。
「良かった。どこにも怪我してない様だね。・・・、痛い所ないか?」
なるほど、私を潰したと勘違いしたか。
男は、呻き声を上げ、痛そうに顔を歪めた。
「(#spec)」
魔法で男のステータス画面を表示する。
HP:7/60
MP:0/0
特殊スキル:class継承、object式、鍵
・・・、魔力も無いし、異世界者か?
? なんだ、この「鍵」という特殊スキルは。
他のスキルも、古代魔術であったような・・・。
・・・、ふぅ、可哀想だが、関わると面倒そうだな。
男の元を去ろうと踵を返す。
「可愛いね」
振り返ると男は、ふんわりとした笑みを浮かべ、また気を失った。
仕方ないな。
・・・まぁ、この特殊スキル、調べておくべきかもな。
「(#foreach #clear 傷)」
みるみるうちに、男の傷が癒えてゆく。
蒼白だった男の顔に赤みがさした。
おまけで祝福もかけておいてやるか。
黒猫は、男の額に前足を置く。
「(#blessing)」
色とりどりの花が舞い、優しく風が吹く。
黒猫の瞳にだけ、美しい精霊たちが
男を囲みキスを零して行くのが見えていた。
男の顔がにやけていく、
・・・一体、どんな夢を見ているのだろうか。