第2話 森の中
顔にかかるふかふかした感覚で 、神崎は目を覚ました。
「いってて」
木々のおかげか、
ドラゴンのしっぽの風圧のおかげか、
はたまた、夢だからなのか。
俺は全身くまなく痛い代わりに、
あの高さから落ちた割には、骨は折れてはいない様だ。
ゆっくりと体を起こす。
少しフラフラする。
ふかふかのあった辺りを見ると、
美しい黒猫が前足をペロリペロリと毛繕いしているところであった。
落ちた先が猫の上だったのだろうか。
それならば。
少し焦って、猫に手を伸ばす。
怪我などしてないだろうか。
急に出された手に、黒猫は毛づくろいを止め身を引く。
慌てて、手を下げる。
「ミャオ〜」
猫の鳴き声を真似て、
敵意がないよの意味を込めて、
猫に見えるように手のひらを見せる。
ゆっくりと手を近づける。
優しく撫でながら、血など出てないか、
痛がる素振りがないか確認する。
大人しい猫だ。
痛がる素振りも嫌がる様子も無い。
一通り確認し、怪我がないことに安堵した。
「良かった。君のこと潰してしまったわけじゃないんだね」
安心したら、身体中から痛みが押し寄せる。
あんな高さから落ちたんだし、生きている方が不思議だ。
口の中が切れていて、鉄の味がする。
どこかで横になりたい。
ここで横になっても良いが、得体の知れない森の中では
眠ることはできない。
ふうふう息を出して、痛みに耐える。
黒猫がゆっくりと立ち上がり、側に来る。
神崎を見定めるかのように見据える。
・・・可愛いな。
ブルーの強いエメラルドの瞳が素敵だ。
「可愛いね」
実家のみけ丸を思い出す。
タヌキ顔のスコティッシュホールド。
この美しい黒猫とは見た目こそ似てないが、
瞳の色が、同じで合った。
死ぬ前に会いたかった。