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幼馴染×年の差

再会したら…

作者: 着津

これは拙作「近所のお兄ちゃんは...」の続編になります。

ご了承ください。

当作は恋愛が主軸になっております。

俺がひとり暮らしを始めたのは、どうにも家族と折り合いがつけられなかったから。だから、俺は自分が誰かと家族になるなんて、思いもしなかった。


都内の寂れた街角に、古びたビルがある。周り全体がそんな感じだから、さほど目立つものではない。


そのビルの一室に、俺は住んでいる。住居兼アトリエになっていて、卒業したばかりの身としてはかなり幸運な環境だ。


けれど、俺はスランプに陥っている。


幼い頃から油絵に触れ、画家を目指し、そのせいで家族から孤立しているのだが、その油絵すらうまくいかない。精神的に辛い日々だ。


数多(あまた)ある作りかけの作品達は、どれも気に入らなくて手が止まっている。その中に、ひとつだけラフ画がある。どこかの部屋で、女の子がなにかしている構図のものだ。


この絵は、俺が一番穏やかで満たされていた過去の象徴になっている。あの頃、あの子に出会わなかったら、今の俺はない。


あの頃のことを思い出して、ひとつ息を吐く。少しやる気が湧いてきた。描きかけの絵に手を伸ばし、筆を動かし始めた。


生活のためにアルバイトをする(かたわ)ら、あの時の思い出を辿るように筆を動かす。けれど、気に入るものは中々出来上がらない。


ある日、気晴らしも兼ねて、ある絵画展に出かけてみた。都心部で行われる小ぢんまりしたものだ。


その絵画展は、俺が好きな画家のもので、久々にすっきりした気持ちになると同時に、悔しくもなった。


(何故、俺はこんな風に描けないのだろうか)


単純な感想ではあったが、知らず、眉間に(しわ)が寄っていた。出口に向かい、絵画展のおまけを配っている女性に声をかけられた。


「この絵画展は楽しめましたか?」

「ああ、楽しかったです」

「もしお時間がありましたら、アンケートも書いていってください」

「いいですよ」


にっこりと笑う女性につい絆され、アンケートも手に取った。置かれていたペンに手を伸ばす。その時、袖に隠れていた腕の傷痕が露わになった。


コンプレックスがある訳では無いが、人に見せるものでもないので、慌てて袖を引っ張る。すると、さっきの女性が、驚いたように呟いた。


「おにいちゃん...?」


その拙い呼びかけは、どこか懐かしい。


「あの、もしかして、惣伊田宏世(そいだこうせい)、さん、では?」

「そうですけど…、なんで...?」


面識がないはずの女性から、いきなり名前を呼ばれたら、誰だって警戒すると思う。例に漏れず、俺も思い切り警戒してしまった。


「やっぱり!覚えてますか?しぃです、大巾史帆未(おおばしほみ)です!」

「しぃ...?あのしぃちゃんか!」


嬉しそうな彼女は、昔よく面倒を見ていた女の子だった。懐かしい名前に、あの頃が一気に(よみがえ)った。


「よかったぁ、覚えててくれた…!うれしい!おにいちゃん」

「いや、なんか、この年になっておにいちゃんは照れるな」


このまま、話し続けるのは迷惑になるからと、適当なところで話を切り上げる。しぃ...史帆未は、名残惜しげに携帯の連絡先交換しようと言ってきた。快く応じる。


嬉しいことには違いないが、戸惑っていたこともあり、今後、連絡を取り合うとは思わなかった。この時までは。


所が実際には、彼女からしょっちゅう連絡が来て、一緒に出かけるようになった。


俺が卒業して一年、彼女が大学二年になる頃のこと。


俺は作画の資料作り兼ねて、彼女とお花見に行った。いや、この時には、既に彼女と会うことの方が目的になっていたのかもしれない。


けれど、俺は年齢差もあって、彼女を妹のようだと思うようにしていた。だから、意を決したような彼女に言われたことは、とても衝撃的だった。


「宏世さん、私と付き合ってください!」

「は...?」

「宏世さんが、おにいちゃんが、私を妹として見てるのは、わかってるつもり。でも!付き合ってほしいの」

「え?いや、え...!?」


何を言われているのか、いまいち理解できないまま、史帆未は、しぃは畳み掛けてくる。俺は慌てて制止した。


「ちょっと、ちょっと待って!」

「宏世さん、お願い!」

「だから待って!時間をくれって!」

「分かった...」


止めたら止めたで、しぃがとても悲しそうな顔をするので慌てる羽目になる。深呼吸をしてから口を開いた。


「俺は、もう二十六になるのに、収入は安定してない。しかも、史帆未はまだ二十歳だろ?まだ未来がある。...俺と付き合って時間を無駄にするのは、良くないんじゃないか?」

「もう!そんなこと言って、実は絵が売れ始めてるの知ってるんだよ!それに、無駄かどうかは私が決めるから!...そんなに、私のことそういう目で見れない?」

「...そんなことない。そんなことないから、余計にすぐには返事ができない」


俺は姿勢を改めて、しぃを見つめた。どんなに自分で否定しても、この気持ちは存在を主張してくる。...ようやく、認める覚悟が決まった。


「俺は、史帆未が、しぃが好きだ」

「宏世さん...」

「だからこそ、待っていてほしい」

「分かった…。待ってる。でも、これからは遠慮しないからね」


こうして、俺たちは正式ではないが付き合うことになった。というのも、しぃは言っていた通り遠慮しなくなったからだ。今までよりも連絡が多くなり、俺の住居兼アトリエにまで押しかけるようになった。


結局、俺が二十九になってある程度名が売れて、ある程度収入が安定した頃、付き合うことを通り越して、彼女の両親に結婚の挨拶に行くことになった。しぃは幸せそうだったし、彼女の両親は何故か俺ならば、と快諾した。


そして、今。


俺は彼女の隣で、古いラフ画を元にして、油絵の下描きをしている。女性が部屋で読書している絵だ。今の彼女がモチーフになっている。


彼女は、再会したら、俺の妻になりました。


俺は今、幸せです。


最後まで読んでいただきありがとうございました!

楽しんでいただけたら幸いです。

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