第5話 『友達はエアコンお化け』を語る
今回は山下真響さん作『友達はエアコンお化け〈社内デザイナー奮闘記〉』
作品URL https://ncode.syosetu.com/n3057ek/の紹介です。
クロスベル邸────
「ただいま~」
一人暮らしの私は誰に向かってでもなく、そう言いながら玄関から入っていく。
「お邪魔しますわ」
私の後からは、マルちゃんが緊張した様子で付いてきていた。今日はお休みだったので、家にマルちゃんが遊びに来たのだ。
最初はリビングに通そうかと思ったけど私の部屋がいいと言うので、そちらに通すと彼女は部屋の中を興味津々にキョロキョロと眺めはじめた。
「ここが、ペケちゃんの部屋……」
私の部屋は、大きな窓に白と黒で統一されたシックな家具が置かれている。ベッドサイド等に、多少……本が積んであるのはご愛嬌として、それ以外は比較的綺麗にしてあると思う。それでも、あまりジロジロと見られると少し恥ずかしいのだけど……。
「じゃ私はお茶を淹れてくるから、ちょっと待っていてね」
私は彼女を部屋に残し、ティーセットを取りにキッチンに向かった。
◇◇◆◇◇
しばらくして、紅茶とクッキーをトレーに乗せて部屋に戻ると……。マルちゃんが、なぜか私の枕を抱きしめながら、ベッドの上でゴロゴロと転がっている姿を目撃してしまった。
「……何をしているの?」
声を掛けられたマルちゃんは一瞬ビクッと肩を震わせると、顔を真っ赤にしながらこちらを向いて呟いた。
「さ……寒かったんですわ!」
寒い……? そう言えば、少し肌寒くなってきたかも知れないわね。
私はティーセットを丸テーブルに置き、部屋の隅にある筒状の暖房器具に近付き、上部に付いた魔石に少し魔力を流し込む。一瞬赤い光を放つと、炎のような姿の精霊が現れ、暖房器具が動き出した。
「少し暖めてね」
精霊にそう告げてから振り向くと、いつの間にかマルちゃんが椅子に座って、すまし顔で紅茶を飲んでいた。まだ耳が赤いけど……。
「そ……そう言えば、ペケちゃん。 丁度その精霊式の暖房みたいのが出てくる話を読んでいますわよね?」
精霊式暖房と似たような話……?
私は少し考えると、今読んでいる物語の一つに思い当たった。
「ひょっとして、これかしら?」
ベッドの脇に置いてあるサイドテーブルから一冊の本を拾い上げると、マルちゃんの前に置く。
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タイトル:友達はエアコンお化け〈社内デザイナー奮闘記〉
作 者:山下真響
ジャンル:ヒューマンドラマ(お仕事モノ)
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「そう、それですわ!」
なぜ私が読んでいる事を知っているのかは……気にしないようにしておこう。
◇◇◆◇◇
「暖房と言えば暖房だけど、エアコンからお化けが出てくる話ね……まさか、マルちゃんも読んでたとは思わなかったわ」
「ペケちゃんが読んでるのは、全て網羅……じゃなくて、たまたま! 偶然ですわ!」
この物語は、彼氏もいない寂しい社会人の女性が主人公で、彼女が住んでるアパートのエアコンから、お化けが現れることから始まる。最初はお化けの存在に驚く主人公だけど、そのあと友達になったお化けや会社の同僚たちに支えられ、迫るイベントに向けて奮闘するストーリーだ。
お化けは出てくるが別に怖い感じではなく、イメージ的には西洋の伝承にあるシルキーに近い存在という印象かな? 少々難しい専門的な用語が使われたりするけど、わかりやすく説明されているし、理解できなくても、物語的にはあまり問題は感じられない。恋愛要素もあり、比較的気軽に読める作品だと思う。
「それで……マルちゃんは、この物語のどこが良かったの?」
彼女は、紅茶を一口飲んでから
「そうですわね……わたくしは、係長にアプローチしている後輩の女の子がお気に入りですわね」
「あー……派手な感じとか、ちょっとマルちゃんに似てるかもね」
「そうかしら? それでペケちゃんは、どこが良かったの?」
私は手で口を隠しながら、食べていたクッキーを飲み込むと
「主人公が頑張って働いている様子が良いかな~、現在の目標になっているイベントの行方も気になるし……あとは係長との関係がどう進展していくのか気になるわね」
「働く女性……確かOLと言ったかしら?」
「オフィスレディのことだね。彼女たちが頑張ってる様子が応援したくなるわ」
「確かOLは制服を着ているのですわよね? こんな感じで……」
私をじっと見つめながら、何かを想像しているようだ……。
「ダメですわね、却下! 却下ですわ。ペケちゃんが、そんな格好をしたら男どもが仕事をしなくなってしまいますわ!」
「いや……勝手に想像して、ダメ出しされても困るのだけど……」
一体、何を想像したのやら?
◇◇◆◇◇
その後、クッキーと紅茶がなくなるまで、マルちゃんと楽しくお話した。キリが良いところで、マルちゃんがポンッと手を叩いてから
「そうだ! この物語を、あの子たちにも教えてあげればどうかしら?」
「確かにいいかもしれないわ。いつもファンタジーばかりでは、視点が偏ってしまうものね」
私は席を立ち、ベッド脇に置いてあったカバンから手帳を取り出すと、再び丸テーブルの席に戻り、手帳を開きメモを取る準備をした。
「それじゃ、ちょっとまとめましょうか! この物語は……」
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・現在の職業モノ
職業モノだが、異世界で無双する類のものではない
・友人・同僚が仕事を通して進展していく人間ドラマ
・恋愛要素もあり、慣れてない主人公が可愛い
・専門知識も細かく説明されている
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私は手帳に物語の要点を書き終わると、そのページをマルちゃんに見せる。
「こんな感じかしら?」
彼女が頷くのを確認してから手帳を閉じた。
「それじゃ、休み明けにでも二人に見せておくわね」
「恋愛要素があるから、またクリムあたりが騒ぎそうですわね」
「あはは……これぐらいなら、たぶんベルも大丈夫だと思うのだけど……」
そんな事を心配しながら、私たちの休日の午後が過ぎていくのだった。